夕風が心地よい。茜色の空を仰ぎながらこれを記し始めた。
時々むなしくなる。「こんなものを」と自分を卑下したくなる。
それでも書かずにいられないのは微かな自尊心だろうか。
いや、そんな大それたことではなくただしがみついているだけかもしれない。
見苦しい時もあるだろう。それはなんの感慨もない駄文にも等しい。
仕事で経理ソフトの入力をしていてはっと驚いたことがあった。
売上元帳に顧客名の苗字を入れたら何人かの名前が表れて
その中に青春時代の忘れられないひとの名前があったのだった。
以前に検索したことがあってPCが記憶していたのだろう。
個人情報に関わることだけれど住所と電話番号が表記されていた。
高校卒業後大学に進学しそのまま都会暮らしをしていると思っていたけれど
故郷に帰って来ていることを知ったのだった。
そのことを知れただけで充分に思う。もちろん電話などするつもりはない。
ただ消息を知りたかった。知ったからといえ何も変わらないけれど。
朧げな現在の姿が見えたような気がしてほっとしたのだった。
最後に会ったのは47年も昔の夏のことである。
彼は白いTシャツにジーンズ姿で懐かしそうに笑顔を見せていた。
けれども私はその笑顔に応えることが出来なかった。
もう一度やり直すことなどどうして出来ただろうか。
話もろくにしないまま私は逃げるようにその場を去った。
その時の彼の途惑った顔を今でもはっきりと憶えている。
確かなのはその時すでに私の青春は終わっていたのだろう。
それほど儚いものなのだ。青い春などではない。灰色の夏のことだ。
66歳になった彼のことなど想像もつかないけれど
私の心の中には最後に会った19歳の彼がずっと佇んでいる。
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