昨夜は激しい雷雨だったらしいが爆睡していて全く気づかなかった。
「春雷」は季節の分かれ目とも聞くが「八十八夜」「立夏」も近い。
雨あがりの朝。雲間からちいさな青空が見えていたけれど
お天気は回復せずすぐにまた小雨が降り始めていた。
少し蒸し暑くまるで梅雨時のような一日となる。
今夜は息子が準夜勤のためけい君を預かっている。
男の子らしく賑やかに騒ぎまわるのを
なんだか娘達に気の毒でならずついつい気を遣わずにいられない。
口にこそ出さないけれどうんざりしているのではないだろうか。
娘の溜息さえも気になりはらはらとしてしまうのだった。
優しいのはあやちゃん。今夜もけい君と一緒に夕飯を食べてくれた。
その時「けい君のお母さんはいつ退院するの?」と私に訊いた。
一瞬どきっとしてしまい「まだまだ先のことよ」と応える。
それはけい君自身がいちばん訊きたかったことだろう。
すでに退院していることなど口が裂けても言えない。
時期を見て息子の口から真実を伝えるべきことなのだろう。
あやふやなままで日々を過ごすことは決して最善とは言えない。
お嫁さんの実家のご両親からけい君を引き取りたいと言ってきたそうだ。
息子は断としてそれを退けたそうでそれは私も当然のことだと思う。
けい君の生活環境が大きく変化することを望んではいない。
母親は確かに必要だけれど今の状態ではとても任せられない。
この先少しでも病状が落ち着きまともな精神状態になれば
息子もまた思慮し元の暮らしに戻るのかもしれないのだ。
もしそれが不可能であってもけい君を養育する覚悟はすでに出来ている。
それがけい君を守るいちばんの得策に思えてならない。
甘えん坊のめいちゃんが「おかあさん、おかあさん」と連呼する。
その度にけい君の顔色を窺ってしまうのが常となった。
けれどもけい君のなんとあっけらかんとしていることだろう。
寂しそうな顔も見せず我慢している様子も感じられないのだった。
それを決して鵜呑みにしてはいけないことも分かっている。
ちいさな心を痛めながら必死になって乗り越えようとしているのだろう。
明日はあやちゃん達の遠足だそうで娘がお弁当の下拵えをしていた。
苺を買って来ておりテーブルにそのまま置いてあったのを
けい君が見つけて食べたそうにしていたけれど
娘が「それはあやちゃんとめいちゃんの」とけい君に言った。
私はその苺をふた粒だけこっそりとけい君に食べさせてあげようと思う。
娘は決して意地悪をしているつもりはないのだろう。
ただどうしようもなく途惑っている。
それはまるであるべきものの中に混じった硝子の欠片のように。
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