ゆらゆら日記
風に吹かれてゆらゆらと気の向くままに生きていきたいもんです。

2022年02月11日(金) 陽射しの中で

風もなく穏やかな晴天。すっかり春の陽気であった。

窓辺で本を読んでいると陽射しにつつまれ

さながら日向ぼっことなり至福の午後を過ごす。



子供の頃から読書好きではあったけれど

結婚や子育てで本から遠ざかっていた時期も長くあった。

子育てが一段落してから図書館へ通うようになったのだけれど

今のように貪るように読んでいた記憶はない。

どうやら私の読書癖には大波小波があるようだった。


中学生の頃の話になるけれど本のセールスマンが度々訪ねて来て

百科事典だったり日本文学全集だったりしきりに勧めるのだけれど

家計の苦しさもあり高価な本を買う余裕などなかった。

当時の私は少女でありながら主婦でもあったのだ。

父に頼めば買ってくれたかもしれないけれど話す気はなかった。

セールスマンとのやり取りは大人顔負けであったらしい。

それは後に聞いたことで当時の私はひたすら断ることに終始していた。


すっかり顔馴染みになったセールスマンは高校生になっても訪れ

ある日思いがけずに就職の話を持ち出して来たのだった。

近いうちに町に新しく営業所が出来るので事務員として採用したいと言う。


私の夢はアナウンサーになることでまだ進路を決め兼ねていた。

進路指導の教師に相談したら最低でも短大を出なければいけないと言う。

理数系は苦手だったけれど古典や国語の成績は良かったので

文化系の短大なら推薦入学も可能ではないと言ってくれたのだった。

けれども私は大いに悩んだ。とても父には話せないことだったのだ。

中学生だった弟も高校入試を控えている時に

いくら短大とはいえ入学金や授業料の事を考えると言い出せるはずがない。

どうして高卒ではアナウンサーになれないのかと悔しくもあった。


散々悩んだあげくに私はその営業所に就職を決める。

まだ同級生の誰も進路が決まっていない時であった。

初任給8万5千円。公務員でも6万円ほどの時代の事である。

友達は口々に「騙されている」と言った。当然の事だったのだろう。


高校卒業までには私の人生を左右するような大きな出来事があった。

就職どころかあわや結婚かと追い詰められたけれど

一大決心をしあることを成し遂げる。それは大罪にも値する事で

どれほどの歳月を持っても一生背負わなければいけない罪となった。


桜の花がほころびる頃、私はとうとう社会人となる。

例のセールスマンは営業所の所長さんで大出世をしていた。

仕事はとても楽でおまけに本は読み放題となんと恵まれていたことだろう。

和気藹々とした職場で毎日がほんとうに楽しかった。

わずか一年で辞めてしまったことが今更ながらに悔やまれる。


同僚と結婚。所長は涙を流しながら祝辞を述べてくれた。

その時の泣き顔は今でもはっきりと憶えており切なくてならない。


人生に歯車があるのだとしたら狂うこともあるのだろう。

それが正確であったならば今の私は存在しなかったことになる。







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