久しぶりの快晴。日中は春のような暖かさとなる。
陽射しを浴びているとまるで猫のような気分であった。
陽だまりで「にゃおん」と鳴けば誰かが気づいてくれるだろうか。
今日は午後から損害保険のオンライン試験に臨む。
「損害保険募集人」の資格を取ってから20年以上になるけれど
5年ごとに更新があり今年がその年になっていた。
本来ならば高知市の試験会場まで行かなければならないのだけれど
コロナ禍のため各自の職場で受験出来るようになっている。
5年前に受験した時にはもうこれで最後だと思っていた。
まさかまた更新が来るとは夢にも思っていなかったのだ。
20年前の試験の時には父が高知駅まで迎えに来てくれた。
父に会うのは25年ぶりのことで胸が熱くなるほど懐かしかった。
それなのに私は父に借金の催促をしてしまったのだった。
昔の事をほじくりかえすようななんと愚かな事をと悔やまれる。
その当時父は同居していた元同僚に全財産を持ち逃げされ
大変な苦境に晒されていた。その同僚はとうとう行方不明となる。
父は心労が重なり食物も喉を通らなくなり酷くやつれていたのだった。
心配した弟からの連絡で私はその日父との再会を決めた。
ちょうど父の誕生日であり少しでも励みになればと思っていたはず。
父は一万円札を財布から出すと「後は必ず返すから」と言った。
私は父を気遣うこともせず喜んでそれを受け取ったのだった。
試験が始まる時間まで一時間程あっただろうか二人で喫茶店に入った。
父は甘い珈琲が好きで「うんと砂糖を入れてくれや」と言い
確か3杯ほどの砂糖を入れてあげたことを憶えている。
試験が終わるまで駐車場で待っていてくれた。
「どうだ?出来たか?」と少し心配そうな顔をして気遣ってくれる。
「まあまあかな」と応えたら「きっと受かるぞ」と励ましてくれた。
3日後には合否発表があり父から電話がかかってきた。
「合格したよ」と言ったら「それは良かった」と大喜びしてくれた。
父の声を聴いたのはそれが最後になってしまった。
再会から9日目。父は急逝する。
一昼夜誰にも発見されないなんとも憐れな孤独死であった。
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