ひんやりと肌寒い朝。ちゃんちゃんこを羽織り暖房をつける。
もう晩春なのだろうけれどまるで春先のようでもあった。
こころのなかにも冬と春がいて互いの息づかいを感じる。
どちらを選ぶこともせず息を「生き」として受け止めるばかり。
7時15分。「いってきます」と元気に孫たちが登校する。
毎朝窓を開けて見送るのがすっかり日課になった。
お隣のブロック塀の陰からふたりが手を振ってくれるのだ。
あやちゃんの顔は見えるけれどめいちゃんは小さくて見えない。
それでも小さな手のひらに愛しさが込み上げて来る朝のこと。

お客さんが筍と干し椎茸をたくさん届けてくれた午後。
筍はちゃんと灰汁抜きをしてくれていてとても助かる。
干し椎茸は袋にいっぱいあって同僚とはんぶんこする。
山里ならではの恵み。ほんとうにありがたいことだった。
お客さんはとても話好きで「ちーちーぱっぱ」と言うあだ名。
みんなから「ちーちゃん」と呼ばれているのでそれもうなずける。
話はけっこう興味深く面白いのだけれどとにかく長いのだった。
今日もすっかり長くなり帰宅時間に帰れなくなった私を
同僚が助け船を出してくれた。「もう集金に行かないと」と言って
私は忘れていたふりをして急いで席を立ったのだった。
「ちーちゃんごめんね。また話そうね」とやっと言える。
それから急いでタイムカードを押し家路についたのだった。
けれども私はなんとなくちーちゃんのことが好きだった。
仕事が暇で時間さえ気にならなければいつまでも話していたい。
ちーちゃんは決して愚痴を言わない。他人の悪口も言わないのだ。
根っからの楽天家なのだろうと思う。陽気でとても明るい人だった。
そうして私の話しも「うんうん」と頷きながらよく聞いてくれる。
もしかしたら私も話し相手がほしいのかもしれない。
自分ではよくわからないけれどなんとなくそんな気がしている。
だとしたら私も「ちーちーぱっぱ」なのだろう。
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