曇り日。朝の肌寒さはなく日中は蒸し暑さを感じる。
もう夏の名残を感じることもないだろうと思っていたけれど
忘れ物があったのだろうか。そっと置手紙を残して行く。
私はそれを読まない。読めばきっと哀しくなってしまう。
それよりもすくっと前を向いて秋の風に吹かれていたいのだった。
連休明けのせいか仕事がとても忙しかった。
ばたばたと走り回って昼食もまともに食べられない。
お腹が空くとついつい苛立ってしまうのは悪い癖だった。
義父に来客があり話し込んでいるのを横目で見ながら
事務所のパソコンの陰に隠れて急いでお弁当を掻き込む。
たまにはこんな日もあるさと少し愉快でもあった。
定時では終われなかったけれど帰り道に公民館の図書室へ。
図書館ではなく図書室と言うのがなんとなく気に入っている。
なんだか高校時代の図書室を思い出してしまうのだ。
読了した本を返却してまた新しい本を借りることにする。
どれにしようかなと迷うのもまた楽しいものだった。
一冊の本を手にしてそれはそれは驚く。
なんと本の間に一万円札が三枚も入っていたのだった。
係の職員の人にすぐに伝えたのは言うまでもない。
お札を栞代わりに使う人がいるらしい。でもなぜ三万円も。
栞にしてはあまりにも大金でひたすら驚いた出来事だった。
迷ったあげくその本は借りずに他の本を借りた。
「幸田文」の本。今まで一度も読んだことのない作家さんだった。
きっと新鮮な文章に出会えることだろう。そんな気がしてならない。
書くことばかりこだわっていた私のささやかな進歩だった。
|