2020年03月14日(土) |
冬がお別れに来た日に |
朝のうちぽつぽつと雨が降っていたけれどすぐにやみ
午後は強い北風が吹きまた寒気が戻ってきたようだ。
「寒の別れ」と言う言葉を聞いたことがある。
春彼岸を前にして冬がお別れに来るのだそうだ。
いつも通りに山里の職場に向かい急ぎの仕事だけ済ます。
それから母を迎えに行き病院へ向かった。
「行きたくない」と駄々をこねていた母も車に乗ると
おしゃべりを始めて体調の悪い事を忘れているようだった。
診察までの待ち時間にそれは起きた。
悪寒を訴え始め座ってはいられないほどしんどいと言い出す。
最初は久しぶりに外出したせいだろうと思っていたけれど
刻々と容態が悪化し始め看護師さん達が慌ただしく動き始める。
心電図や胸部レントゲンを終えてから「心不全」だと分かった。
主治医の先生も深刻な顔をしてすぐに救急車の手配をしてくれる。
その頃にはすでに母の意識が薄れていて呼びかけにも反応がない。
「がんばって、しっかりして」とみんなで口々に叫んでいた。
それはまるで悪夢のような時間。私は母が死ぬのだと思った。
県立病院へ向かう救急車の後を追いながら涙があふれてくる。
母が死ぬのだと思っているのなら私が殺したのも同然だと。
なのにどうして涙が出るのだろう。悲しいのか辛いのかも分からず。
悪夢から覚めたのはそれから二時間ほど経っていただろうか。
救急の処置を終えた母がはっきりと目を開けて私を見ていた。
お医者様から説明がありなんとか命をとりとめたことを知る。
入院手続きを終えて夕陽の道を帰る。
目に染みるように紅い夕陽がまるで母のいのちのように見えた。
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