-A VAGRANT LIFE IN NEW YORK-
飯沼省



 先生のトークに撃沈

先日のアートエクスポに日本の相模原から
参加した作家の知人という人がトロントを訪問している。
彫刻家だというその人から、慎也さんに連絡が入り、
何故か俺も一緒に昼食をとることになった。
昼に慎也さんが迎えにきた。

日本の大学で彫刻を教えていたとの事だから、
ここでは仮に先生と呼ぼう。
先生は50代くらいに見えるが、喋ってみると
もっと若そうに感じる。
トークが軽妙なのだ。

タバコが吸えるところを。というので、
行きつけの【Tequila Bookwarm】で昼食。
それからQueen Westのギャラリーを
軒並みハシゴする。
ギャラリーとギャラリーの間隔がちょっとでも空くと
すかさずタバコを吸っていた。
凄いへヴィースモーカーだ。

Distilleryへ移動し、またギャラリーを廻る。
次号のBitsで取り上げたJanetの個展がちょうど
今日から始まっていたので、正にグッドタイミング。
それから和紙のアケミさんの工房を訪れるが、
彼女は病気療養中で、代わりにご主人が
店を切り盛りしていた。

お気に入りのカフェでコーヒーを飲んで
一息ついたら、そろそろ疲れてきた。
先生はとにかく喋りっぱなしだし、
人の話を聞かないし。
そんな人といても面白くない。
疲れるだけなので「じゃ、そろそろ俺は帰ります」
と言うと、何となくお開きモードになり、
結局先生をホテルに送って帰ることになった。

歳をとると、人間ウンチクが溜まるから
色んなことを話したくなるようだけど、
人の話も聞くことができる大人になりたいな、と
今日は強く思いました。




2004年04月10日(土)



 自分らの時代に起こっていること

今朝、日本のサイトを見たら
イラクで人質になっている3人の支援者や、
イラクで緊急援助にかかわってきたNGO関係者が
「彼らこそ本当にイラクの人々のために働いていたこと
を現地に伝えよう」と行動を始めたと報道。
俺は、それが本当だと思う。

国会議事堂の前に3000人も集まって
「自衛隊即時撤退せよ!」と叫ぶのもいいが、
すごく嘘くさく見えてしょうがない。
自衛隊の即時撤退が、すなわち人質解放に
つながると本気で考える人は別だが。
この事件が解決したら、また何事も無かったかの
ように普段の生活へ戻ってしまう。
そんな人ばかり集まってるだけに思えた。

自分も含めて、今の戦争が極めて身近で、
自分らの時代に起こっていることだと
あらためて問わないといけないだろう。
過去の歴史だけで知ってる戦争じゃない。
この時代に自分は生きている。
自分はこの時代に生きてるんだから。


2004年04月09日(金)



 拉致事件

イラクで日本人が3人拉致された。
日本は対岸の火事ではないと気づいたかのように
国に「火を消せ!」と詰め寄っている。
ちょっと待てよ。
火を消すための水を送るのは、何も国じゃなくても
送れるわけで、その「水」というのは
自衛隊撤退という一つだけではない気がする。
少なくとも彼ら3人が、イラク復興の力になりたいと
自ら志願してそこへ行ったのだから、
「彼らは敵ではない」
というアピールを関係者や友人達が起こすべき
ではないだろうか?

俺はまず、それを調べた。
犯人達に声明を届けるには、E-mailでも何でも
どの国の、どの放送局へ、誰宛てに送ればいいのかを。
相当探したが、未だに確証をもてる宛先がわからない。
知ってる人は、今こそ公開すべきだ。
でも、とりあえず3人のプロフィールをネット上から
コピーして、いくつかの宛先へ送信してみた。

相手は人間ではなく、悪魔かもしれないが、
自分の国を手助けにきた人々を
人種はどうあれ、殺すということを
他の国民も許すのか。
そいつらが信仰する宗教があるのだとしたら、
そいつらを許すのか。
「彼らは敵じゃない」と伝えることを国に頼むのもアリだが、
民間レベルでできることだって相当あるはずだ。
そういう手間を省いて
何でも政府のせいにするのは虫がいい。

自衛隊の派遣。
今回の拉致事件。
これは決して政府だけの責任じゃない。
国の責任。つまりあんたたち一人一人が
集まった日本ていう国の責任だってことを忘れるな。


2004年04月08日(木)



 笑いながら歩こうぜ

人生、同じところをグルグルと廻ってる。
一回りすると、以前見えなかったものが見える。
二回りすると、単純なものほど単純ではないと気づく。
三度回ると、自分の身の丈を知る。

昔、そんな事を誰かが言ってた。
三度目の「身の丈を知る」という部分が
ずっと「諦めなさい」と聞こえていた俺は、
浅はかだったなと思う。

自然の猛威に振るわれた人間が
一命を取り留め、そこで
自分が生かされてることに気づくように
自分の身の丈を知ることで、
人は謙虚になれるのかもしれない。

自分がなぜ、今ここにいるのか。
そして、なぜこれをやっているのか。
答えは数十年後にとっておきたい。
今はただ一つ、
自分に嘘をつかないことだけを誓って
歩けばいい。

ついでに、
どうせ歩くなら
笑いながら歩こうぜ by猪木
という気分だ。



2004年04月07日(水)



 とんでもねぇ世界

アート誌【Mix Magazine】のオフィスへ行く。
エクスポの時にディレクターの女性から
ギャラリーページで紹介したいと言われ、
新しいポートフォリオとスライドを数枚持っていく。
2002年の【Let's Have a Dream】の時に
編集長のミラダには面識があったのだが、
そこ頃の顔ぶれは誰も残っていなかった。
出版業界って本当に入れ替わりが早い。

ポートフォリオを見せるついでに情報収集。
アートの世界にも流行があって、
一昔前にはミニマリズム、
ちょっと前にはビデオ・インスタレーション、
という風に旬なものには追い風が吹き、
対極にあるスタイルは
見向きもされない傾向がある。
純粋な絵画には
まだ当分スポットは当たらなそうだ。

現代美術は完全に頭のゲームだから
今の流行を打ち消して、かつ
次なるルールを制定したジャンルに
次のスポットライトが回ってくる。
それゆえに、
純粋に美を表現するだけの絵画には
謎解きや、何故いま「コレ」なのか?という
時代性が希薄なので、
今のブームを強引に終わらせてしまうような
大役は無理だと思われている。

ぶっちゃけて言うと
今のアート界は評論家が主導で、
自分の論説を肯定化させる道具として
アーティストを扱っている。
評論家の地位が高くなりすぎてるんだよ。
こうなる前は、アーティストと評論家とギャラリーが
同じ部屋で議論を交わし、
タッグを組んで業界に旋風を巻き起こす
時代もあったらしいが、
今では評論家に気に入られなきゃ
マズイと、挨拶しに出向くアーティストだって
いるくらい。

問題の根底には
評論家のお墨付きがないと
作品に価値を見出せないアホな
コレクターが大勢いるという現状。
もちろん投資目的もあるから
当然といえば当然かもしれないけど。
たまに、ブームとブームの継ぎ目に、
異端と呼ばれる作家が話題になったり
するが、長続きはしない。
アート史にも名前が残らない。
評論家の息抜きというか
完全なインターバルだ。

そんな話しをしながら、
何だかとんでもねぇところ(世界)に
身を置いてるな、と。
もし、絵画が一躍表舞台に出てくるとしたら
それも評論家が仕組んだゲームかもしれない。
俺の考えるアートって、そんなもんじゃない。
じゃあ、何なの?
アートが与えてくれたものって何?
内から出てきたものを画家がキャンバスに押し付けて
それを誰かが見て、何かを感じて、感動して、
そんな単純なことだったと思う。

やれんのか、オイ!by猪木
やらせてください!by 藤波

2004年04月06日(火)



 偶然

個展のオープニングの時にはじめて知り合った
Nさんがご主人と共にスタジオを訪問してくれた。
すべての作品が戻ってきているので
スタジオの中は、かたずけきれない絵で一杯だ。
その中から一枚、
個展で展示していた作品を買ってもらった。

同じ日の夕方、ウェブサイトのショップで
4枚の絵の注文があった。
自分自身がスランプに陥っているときに、
こうやって買ってくれる人が現れるのは
偶然ではないような気がする。

久々にギターを持って爪弾いてるうちに
なんとなく一曲できてしまった。
今の気分をそのまま表してるような
暗く、静かな曲。


i laid down on the bed

in the middle of a frozen November night

ain't nobody like to be alone

2004年04月04日(日)



 クラブのイベントで泥酔

【Bits】の連中と合流してクラブのイベントに出掛ける。
編集の子の旦那が仕掛けてるイベントで、
ケンジントンの薄汚れた穴場クラブで開催された。
俺のスタジオにあるような
錆びれた感じのソファがあって、そこを占領。
我が家のようにくつろぐ。

深夜になって、バンドの演奏が始まると
会場の熱気が上がって、かなり蒸し風呂状態になった。
とりあえずビールをガンガン飲む。
いつもより飲む。
飲まなきゃやってられない今日この頃。
会場には地元のアーティストの絵なんかが掛けてあって、
すごく目障りだった。
今は誰の絵も見たくない。

ホールは超満員。茹だるような暑さ。
カーロス・ニュートン道場で一緒だったダニーを発見。
ダニーというよりも、T軍団腸の息子と言ったほうが
しっくりと来る。
現在は、オマーの道場で練習してるらしく、
一段と逞しくなっていた。
今戦ったら、秒殺されそうで怖い。

Kazuさんが先に帰ったあと
残りのBits軍団総勢9名でベトナム・レストランで夜食。
思えば、こうやって皆で飲んだり、食ったりは
あんまりない。
新鮮だったので、ちょっと機嫌が治る。

酔ってるのに、何故か全く眠れずに
ウディ・アレンの【ギター弾きの恋】を観る。
主役のショーン・ペン、最高。
セリフの中に、
「俺は天才だ。でも、世界では二番目のギタリストだ。
一番はジャンゴ。奴にかなうやつは居ない。」
という件があって、自分を天才だと呼んでるにも関わらず
それよりも上に神のように崇める存在がある。
それって、矛盾してるけど分かる気がする。
本当は天才じゃないからこそ、
そういうセリフが出てくるんだろうな。


2004年04月02日(金)



 一人称

昼間、偶然カメラマンのYuukoに会う。
今夜は彼女の10周年記念パーティーなのだとか。
何の10周年?
カナダ初上陸から10年!
すごい。
俺は4年半。まだ彼女の半分もいってない。

夜、慎也さんのオープニングへ行く。
ペインティングじゃなく
去年もやったインスタレーションのやつ。
他にも4人ぐらい一緒のグループ展で
やけに年齢層が高い。
観客も比例して年齢層高し。
売れてる人は結構売れてる。
信じられない。

慎也さんの作品は2点だけで、
中でもキャンバスを【ひっつき虫】で埋め尽くした
絵画がかなりカッコ良かった。
部屋に飾ったら絶対カッコいいって。







日本人は俺と慎也さんの二人だけ。
頃合を見計らってエスケープし、
【Drake Hotel】で飲もうと思ったら満員。
ラインナップできてるし・・・。
仕方なく隣の小奇麗なバーで飲む。

最近、なんだかトロントに幻滅してるので、
グチなどをこぼしつつ、語りに入る。
絵を積極的に売ろうとも思えなくなってる。
買いたきゃ、買えって感じ。
売れなきゃ売れないでボヤくくせに。
どうしたもんだろう?

今年は4回もある【Distillery】でのアウトドアショーの
申し込み期限が迫っているのに、
いまだに迷ってる。
【Queen West Art Crawl】からも招待が来たけど、
これも迷ってる。
というか、
トロントでショーをやる事に迷ってるのか。

思い通りに描けば描くほど
観客との距離が開いていくのを感じる。
以前のように、客観的に自分の作品の良さが分からない。
自分の中に居たはずのディレクター的部分が
最近はどこかへ消えてしまったようだ。

作家に例えると、以前は三人称で書いてたのが
今は一人称で書いているような違いがある。


2004年04月01日(木)



 【Bits】との関わり

最近
「Bits(トロントの雑誌)で働いてるんですか?」
という質問をよくされる。
日記なんか読んでると
頻繁に【Bitsのミーティングに参加】
という話が出てくるからだろう。
正直、Bitsで雇われてるわけじゃない。
かと言って、協力してないわけでもない。
【Marketing Director】という大そうな肩書きを
もらってはいるが、要するに企画部だ。

仲間と飲み屋で盛り上がって
「それやろうぜ!」
とかいうのは実現した試しがないが、
俺がやっているのは、正にその先。
盛り上がったやつを具体的に
どう実現させるかという部分。

無茶苦茶な思いつきアイデアを
垂れ流すのでなく、
これをやるには
こうして、こうやって
こうすれば出来るだろう。という
実現可能な道筋を合わせて提示する。
チャレンジとは、そこからスタートする。
あとは皆に頑張ってもらうしかない。

元々、アートの記事を書かせてもらってて
その中で社長のKazuとの人間関係が
成熟してきて、色んな相談を受けるようになった。
同じ世代が海外で味わう苦労や境遇という部分でも
共通点があって、他人には言えない悩み
なんかをお互い打ち明けたりするうちに
今の関係が出来上がったわけだ。

かつてアンディ・ウォーホルというアーティストが
【Interview】という雑誌を創刊させた。
現在も生き延びているその雑誌はアンディが
マス・メディアまでもアートに取り込みたいという
どん欲なチャレンジによってスタートさせた雑誌だ。

俺はアート界の王道を行くつもりはないし、
逆にアーティストらしからぬ活動をして
生き残るつもりだ。
あらゆる境界線を外して、
アーティストはこれをやっちゃいけないとか
これはタブーでしょ、というのを
どんどんやっていきたい。
というか、
覆していきたい。

俺が関われば、もっと面白くなるんじゃないか?
それが、このBitsに関わる最大の理由である。



2004年03月30日(火)



 【語りの会】

連日のようにイベントがある。
今日は日系文化会館にて
【語りの会】なるストーリーテリングを鑑賞。
以前、日系VoiceのTさんから
「出演してみない?」と言われていたものだ。
一日目は日本語で、
二日目は英語で
日本の昔話や創作を披露する。
俺が行ったのは、この二日目。
Book Readingという読書会には
何度か行ったことがあるのだが、これと
【語りの会】のストーリーテリングの違いが
良く分からなかった俺には
目からウロコの一日となった。

もう、まるで漫談である。
身振り手振りを交えて、ステージ全体を使って、
小道具を使って、時には楽器まで演奏して
物語を体いっぱいで表現する。
すごいパワーだよ。
ただ物語を朗読する、なんてお上品なもんじゃなくて
難波花月の吉本か
浅草演芸かというくらい
体を張って観客と対峙する姿は
たくましくもある。

途中のインターバルで抜け出し、
隣の教室で開かれてる「墨絵」を見学。
先日のArt Expoでご一緒した山本博さんが
教えてるクラスだ。
生徒のレベルによって描く題材が違う。
初心者は水仙、中級で竹林、上級で金魚など。
それを見れば、一目でどのレベルにあるかが分かった。
生徒に日本人は一人もおらず
皆カナディアン。
すごいなぁ。

【語りの会】に戻って後半出発!
オオトリのRui 梅沢さんまで十分に楽しめた。
でも、これを自分がやるとなると
話は別だ。
今、読んでいる、いかりや長介自伝にも
父の言葉としてあったが、
芸人と観客の間には一線がある。
いくら落語が好きといっても
見るのと演ずるのはまったく別だ。
それを、俺は落語が好きだからと言って
演ずる側に簡単に行けるはずがない。
勘違いのバカヤローってやつだ。
俺は観客側にいて
好き勝手に文句を言うほうが好きだ。


2004年03月28日(日)
初日 最新 目次 MAIL HOME