天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

sex and the city - 2004年06月25日(金)

木曜日、いつものように11頃に出て、ロードアイランドに着いたのはいつものように夜中。翌日はナターシャの CT スキャンのアポイントがあった。費用がロードアイランドならニューヨークの3分の2だから、デイビッドはロードアイランドでアポイントを取って、今回のロードアイランド行きはそれが一番の目的だった。

ナターシャの癌はやっぱりかなり進んでて、CT スキャンのフィルムを見ながら少しショックを受ける。終わってからナターシャを病院の前のお庭で歩かせてると、泣きそうになってデイビッドの腕に頭を押しつけた。「どうしたの? 僕は予想してたよ」。そう言ったデイビッドの顔を見上げたら一気に涙が溢れて、デイビッドの胸にしがみついた。まだ信じられない。ナターシャがいなくなる日がもうすぐ来るなんて。ここの先生もラディエーションを勧めた。それは特殊なラディエーションで、マサチューセッツかニューヨークの癌の専門病院でしか受けられない。わたしたちは、まだ迷ってた。まだ決められなかった。ステーキハウスで遅いランチを食べたあと、デイビッドはナターシャ用にステーキディナーのテイクアウトを注文した。そしてナターシャの大好きなレイクに連れて行く。Another happy day, another happy day, another happy day....


うちに戻ったら、土日に来る予定だったデイビッドの両親がもう来てた。日曜日の父の日にはマサチューセッツに住んでるデイビッドのお兄さん家族もやって来た。

デイビッドは恵まれてる。あんなに素敵な家族がいる。デイビッドとわたしは不思議なくらいたくさん共通するものがあるのに、信じられないほど違うのが家族。わたしはデイビッドの家族が好きだ。大好きだ。お父さんも弟のダニエルもお兄さんのマークもお義姉さんのデニースも大好きだけど、お母さんがとりわけ大好きだ。そして、家族の愛し合い方が大好きだ。

日曜日の夜には両親もお兄さん家族も帰ってって、またデイビッドとふたりの時間になる。月曜日に帰る予定だったのが、一日延ばして二日延ばしてもう一日延ばして昨日の夜までまる一週間いた。7月に仕事に戻るわたしのためにデイビッドが作ってくれたバケーション。「今まで誰かと7日間も一緒に暮らしたことはないよ」ってデイビッドは言った。


一緒に買い物に行って一緒にビーチに行って一緒にお散歩して、一緒に図書館に行って一緒に自転車に乗って一緒にキャッチボールして、一緒に食べて一緒にバイオリンとピアノを弾いて一緒にお掃除して、一緒にテレビを観て一緒に映画を観て一緒に夕日を見に行って、そしていつもナターシャがわたしたちと一緒にいた。デイビッドが仕事をしてるときは、わたしはアップルジャムを作ったり、ナターシャのごはんを作ってふたりの食事を作って、ハーブのガーデンのお水まきをしたりひとりでキーボードを弾いたりお庭で体を焼いたり、そこにもいつもナターシャがいた。



ふたりで殆どアディクトになって、毎晩借りて来て観た「sex and the city」。わたしはテレビを見ないけど、自分も観たことないデイビッドは「5年もやってて一回も見てないなんてバカだったな」って面白がって観てた。面白い。面白いけどなんでこんなにムカつくんだろって思ってて、気がついた。ムカつくのはキャリーがわたしとおんなじにミゼラブルな女だからだ。デイビッドはリアリスティックじゃないから面白いって言うけど、わたしはリアリティにほど近くリアリスティックだと思った。薄っぺらで空っぽでフェイクで、虚構に酔いしれてるうちにそれが現実だと思い込む果てしなく勘違いな生活。心を求める者の負け。心を見せるものの負け。リアルじゃないリアリティ。

「ニューヨークの恋」とか「ニューヨークの生き方」とか「ここはニューヨークなんだから」とか「ニューヨークはなんでも可能だ」とか、そういうセリフが溢れてて吐きそうになる。意図的な皮肉であればといいと思うけど、どうも「sex and the city」は「上手に恋をするためのテキスト」らしい。そうしてこの「ニューヨーク病」は大人の予備軍と恋にマチュアになれない大人たちとニューヨークに憧れて移り住む外国人を蝕んで行くんだ。



ずっとこの街を好きになれなかった。そしていつのまにかそれを忘れてた。
好きになりたかったし、好きになったと思ってた。

なのにまた逆戻りしてる。



「天国から地獄に帰って来たみたいだよ」。
今日メールを送ったら、
「同感。ニューヨーク・シティは嫌なとこだね」って返事が来た。

ロードアイランドはわたしの幸せの国。
デビッドとナターシャと3人で暮らせるところ。
それだけが現実ならばいいのに。





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パンケーキ - 2004年06月16日(水)

デイビッドがブルーになってた。
あのポジティブなデイビッドが、ときどきブルーになる。
誰でもそんなときはあるけど、昨日のデイビッドはひどく落ち込んでた。

電話を切った昨日の夜の10時。
わたしはシャワーを浴びてから、リトリート・センターで買ったハーフパイントのメイプルシロップのジャーとたまごをプラスティック・バッグに入れて、デイビッドんちに向かった。

わかんないけど、「これから気晴らしにひとりで映画でも観に行ってくるよ」って言ったデイビッドが、ひとりでいるのがイヤなふうに聞こえたから。

アパートに着いたらデイビッドはいなかった。アパートのビルのエントランスの階段に座って、帰ってくるのを待った。風が気持ちよくて、待つことなんか苦じゃなかった。お散歩に連れられたレトリバーの子犬が、わたしの手をぺろぺろ舐める。ティーンエイジの子たちが公園の囲いに乗っかって大騒ぎしてる。河沿いの公園から戻って来たお散歩の子犬がまたわたしの手をぺろぺろ舐めに来たのは、待ってから1時間近く経ったときだった。

携帯が鳴った。「どこにいるの?」「きみはどこにいるの?」「あなたはどこにいるのってば」。デイビッドは20ブロック向こうの映画館を出たとこだった。デイビッドんちのアパートの前にいるって言ったら「ほんとに?」って返って来た声が嬉しそうに聞こえた。

「こっから歩いて帰るから、きみもブロードウェイ沿いに歩いておいでよ。真ん中辺りで会えるだろ? それともそこで待ってる方がいい?」「行く」「じゃあ間違えないで東側を歩くんだよ」。

松葉杖なしで歩いてみた。数ブロック歩くとびっこになったけど、頑張って歩いた。24時間オープンのグローサリー・ストアの角から、デイビッドが手を振った。白いシャツがお店の明かりに浮かび上がってた。

「あんな電話したから可哀想に思って来てくれたの?」ってデイビッドは聞く。
ちょっと違う。わたしならきっと会いに来て欲しいと思ったからだった。

「明日の朝パンケーキを作ってあげたくなったの」ってたまごとリトリートのお土産のメイプルシロップを見せて答えたら、奥さんへの第一歩だなってからかわれちゃった。デイビッドは元気になってた。観に行った映画の「The Stepford Wives」がとても面白かったって。 たまごならたくさんあったのにってデイビッドは言って、グローサリー・ストアでミルクを買った。わたしは不思議なくらい松葉杖なしで上手く歩けた。

アパートの前の公園の石の囲いの上に座ってたくさんおしゃべりしたあと、「来てくれて嬉しいよ」って言ってくれた。


デイビッドより少し早く起きてわたしはパンケーキを焼いた。デイビッドの分とわたしの分と、それからナターシャの分にミニミニパンケーキを4枚。デイビッドは麻のシャツにタイを結んで、クライアントに会いに行く。わたしはシャワーを浴びてナターシャをお散歩に連れてってから、デイビッドにメモを残して言われた通りに鍵をドアマンに預けて、ドクターの診察のアポイントメントに行った。

Dr. ローズは診てくれるたびにわたしの膝の回復力に驚く。そして今日が最後の診察になった。まだ完全に歩けるわけじゃないけど、もうドクターが定期的に診る必要はないらしい。「とても大きな手術だったんだから、元に戻るまで忍耐強くリハビリしてくことを忘れちゃいけないよ」って Dr. ローズは言った。それから、7月から仕事に戻れるって言ってくれた。感謝の気持ちでいっぱいだった。「ありがとう、Dr. ローズ」。わたしはドクターに大きなハグをあげた。「どういたしまして。きみはよく頑張ったよ」。ドクターはぎゅうっと抱き締めてわたしの背中を何度もさすってくれた。

ナースのモリーンが、「悲しいでしょう、もうこことお別れなんて」って笑った。「うん、悲しい」「でもまたケガして戻って来ちゃだめよ」。

ほんとに少し悲しかった。どんな小さなお別れも、お別れは悲しい。だけど、なんかの試験にパスしたみたいに嬉しかった。そのまま前のアパートのある街まで運転した。チビたちのごはんを買いに。途中でデイビッドが電話をくれた。いつものように「診察どうだった?」って。「最後の診察だったんだよ」って言ったら、「まだちゃんと治ってないのに?」ってちょっと驚きながら、でも喜んでくれた。それから、明日の晩からまたロードアイランドに連れてってくれるって言った。だからチビたちのごはんを買ってから、パンケーキミックスを一箱買った。




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ついて行く - 2004年06月14日(月)

森の中のリトリート・センターは、もう夏でいっぱいだった。

夜中にフラッシュライト持って真っ暗な道を滝見に行ったり、たくさん歩くハイクには参加出来なかったけど代わりにワゴン・ライドに参加して森を回った。背の高いメイプルの木で覆われた空を見上げてたら首が痛くなった。午後はプールで泳いで、ジェニーと自転車にも乗った。昨日の夜は星を観に行った。ロードアイランドの夜空ほど星が眩しくなかったけど、大きな北斗七星の先に北極星も見えた。丘に敷いたブランケットに寝転ぶと、低い視界には蛍が無数に光ってた。ここの蛍の光は赤くなくて、星とおんなじ色に光る。

歩くときもワゴンに乗るときも、みんなが手を取って助けてくれた。

ダンのお話はわたしのスピリチュアル・バッテリーをいっぱいにリチャージしてくれた。ファースト・キングの章の「今日と明日の分だけの糧を祈りなさい」。そうだった。神さまは過去でも未来でもなく、ひとりひとりの現在と生きてくれてることをわたしに再確認させてくれた。そして、神さまと一緒に生きることによって報われた幸せは、ギルティの対象にもエンタイトルメントの対象にもするべきではなく、ただひとつ感謝の対象だけであるべきだということ。それからもうひとつ。これはファースト・キングの章のトランスレーションではなくダン自身の言葉だったけど、この言葉を聞くためにわたしはリトリートに参加したんだと思うほど嬉しかった。

おなじ信仰を持たない人との出会いをも受け入れなさい。
もしもその人がスピリチュアリーにマチュアで価値を分かち合える相手ならば、信仰が違っても出会ったことに、神さまの確かな意図が存在するのだから。

わたしはジョセフにその場にいて欲しかった。
ジョセフにこのダンの言葉を聞いて欲しかった。
ジョセフはいつかの電話で、聖書のヨークについて書かれた箇所をわたしに教えてから、わたしがクリスチャンでないデイビッドとまだつき合ってることを咎めた。それはポールによって書かれた章で、ジーザスの言葉じゃなかった。わたしは人の手によって作られた「宗教」を信じてるんじゃない。ただジーザスを信じてる。わたしのクリスティアニティはわたし個人の信仰であって、宗教じゃない。それをクリスティアニティとは呼べないと言われたとしても。

それが神さまの意図でなければ、どうしてあの時わたしはデイビッドと出会ったんだろう。神さまはあの時、ディーナを通して約束してくれた。わたしの true love を。そして昨日、ダンの口を通してわたしに教えてくれた。デイビッドは神さまがわたしに選んでくれた人だってことを。

神さまについて行くこともついて行かないことも、決めるのはわたし。
わたしは、ついて行く。


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バレエ - 2004年06月11日(金)

突然デイビッドがバレエのショーに誘ってくれた。
両親が観に行くはずだったのが、お母さんの体調がすぐれなくてチケット2枚デイビッドの手に入ったから。

ニューヨークシティ・バレエ。
電話をくれたのはショーが始まる1時間前で、わたしは焦って支度をする。車が混んでてデイビッドんちに着いたのは10分前だった。それからわたしの車にデイビッドが乗り込んでリンカーン・センターまで飛ばしたけど、駐車スポットがどこにも見つからない。最初のショーを諦めて、デイビッドんちに戻ってからタクシーに乗り直した。

「ドレスアップして来なくていいよ」ってデイビッドは言ったくせに、自分はちょっと素敵におしゃれしてた。バレエはとてもよかった。ダンスを初めてから、どんなダンスも観る見方がかわった。指先の動き。膝のばね。足の強さ。足先の滑らかさ。そんなことをものすごく気にかけて観る。バランチンのカリオグラフィで、ほんとに素晴らしかった。オーケストラも素晴らしかった。

リンカーン・センターからずっと歩いてデイビッドのアパートまで帰った。
あったかくて涼しい、心地よい夜だった。
そしてわたしは、こんなにたくさん歩けるようになった。

突然会えた夜。
思いがけないバレエのショー。
そういうのが嬉しい。


今朝帰って来て、わたしはこれから教会のリトリートに行く。

たくさんお祈りして来よう。
ナターシャのこと。デイビッドのこと。自分のこと。
貴女のこと。

お祈りしてくるよ。


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another happy day - 2004年06月08日(火)

行き慣れたロードアイランドのはずなのに、なぜか胸がドキドキざわざわしてどうしたんだろうと思ってたら、デイビッドんちの辺りでいつものように駐車スポット探して運転してる途中で事故。自転車がぶつかって来た。わたしがぶつけたんじゃない。自転車がぶつかって来た。ポリスカーと救急車が来てあっという間に人だかりが出来て、わたしはパニックになる。すぐにデイビッドに電話したけど、ショーの仕事がまだ終わらないらしくて携帯は繋がらない。ポリスオフィサーは、わたしに過失はないことをふたりのウィットネスの証言からも認めてくれて、「バイカーはケガをしてませんよ。でもお金を請求してくるに違いないから月曜日には保険会社に届けなさい」」って言ってくれて、わたしにチケットは切られなかった。でも自転車に乗ってた男の人は救急車で連れられちゃった。

デイビッドは、チケットを切られなかったんだから大丈夫だよ、って、マナーの悪いシティのバイカーたちのことを散々文句言ってたけど、わたしは胸のどきどきとイヤアな気分が治まらないままロードアイランドに行った。

憂鬱な気分は消えなかったけど、ロードアイランドはいつものように楽しかった。

あったかいレイクのビーチで泳いで、半分水に浸かりながらキャッチボールして、ブランケットに寝転がっておしゃべりして、わたしはナターシャとデイビッドの写真をたくさん撮った。夜には映画を観て、デイビッドの昔のショーのビデオをいっぱい観た。デイビッドはキーボードとバイオリンを積んで来てくれて、一緒に演奏もした。

月曜日の夜に帰る予定だったけど、火曜日の天気予報が最高だったから1日延ばした。

帰りの高速で、後ろに座ってたナターシャがシージャーのような発作を起こす。慌てて高速を降りてナターシャを降ろしたけど、ナターシャは立てずに荒い息で頭を振って目をぐるぐる回したままだった。お水を飲ませてってわたしは叫んで、デイビッドはナターシャの口を無理矢理開けてボトルから水を流し込む。「ナターシャはこのまま死んでしまう? ねえ、ここで死んでしまう?」。ナターシャの頭を抱えてデイビッドはわたしに言ってるのかナターシャに言ってるのか誰にともなく言ってるのかパニックになりかけてる。わたしは泣きそうになりながら何も答えられず、ナターシャを抱きかかえて落ち着かせる。心臓の鼓動と息づかいを確かめながら長いこと抱いてナターシャに「大丈夫だよ、大丈夫」って繰り返してた。ナターシャは落ち着いてった。

何台かの車が止まって、近くの救急の動物病院を教えてくれた人がいたけど、行かなかった。行かなくても大丈夫だと何となくわかった。それからわたしは後ろのシートにナターシャを抱いたまま座ってうちまで帰った。ナターシャはぐったりわたしの膝に体を預けて、でも息も心臓の鼓動も表情もすっかり落ち着いてた。ハルシネートしたみたいにぐるぐる回って焦点がどこにも定まらなかった目も、わたしの顔をじっと見られるようになった。

デイビッドが抱きかかえてアパートに連れてって、わたしはお砂糖入りのお水を手にすくって飲ませる。ナターシャは自分からわたしの手を舐めてお水を飲んでくれた。

「きみがいなかったら僕は気づかないまま運転し続けてたよ。きみがナターシャの命を救ってくれた」。デイビッドは何度もそう言ってくれた。どうしてそんな発作が起こったのかわからない。ただ、自分の体の変化に気づいてるナターシャがどんなちっちゃなことにだって敏感でナーバスになってるのだけは分かる。

そしてデイビッドの恐れも心配も分かる。わたしはデイビッドの額にたくさんキスして、デイビッドを抱き締めて眠った。そうしたかった。いつもデイビッドがしてくれるように。

今朝、ナターシャはすっかり元に戻ってた。わたしはシリアルにミルクをかけてバナナをちぎって入れたごはんをナターシャに食べさせた。ナターシャはペロッと平らげてくれた。

デイビッドはクライアントに会いに行って、わたしはポリスレポートを警察に取りに行って、待ち合わせたブロードウェイのベンチでもう一度会ってからわたしは帰った。デイビッドは立ち上がってほっぺたにバイのキスをくれた。

ナターシャにはこれからこういうことがきっと何度も起こる。デイビッドのために出来るだけその場に居合わせていてあげたい。それは無理な話だけど。

Another happy day to Natasha.

一日一日が another happy day でありますように。
これからずっと、ナターシャがここで生きていられる毎日が。
そしてわたしにも。それからデイビッドにも。



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星みたいに - 2004年06月04日(金)

朝早く起きてセミナーに行った。
腎臓病。クラシフィケーションとステージの表し方が新しくなった。アセスメントに GFR が必須になる。これでドクターがちゃんとリクエスト通りに GFR をオーダーしてくれれば、今までドクターの診断の不正確さに抱えてた疑問が解決する。その分わたしたちの判断に責任が大きくなってより細かいアセスメントが要求されるけど、そう思うとワクワクしてくる。長いこと忘れてた仕事熱。もう仕事から離れて4ヶ月にもなっちゃった。9時間もの長いセミナーでずっと座りっぱなしの膝がカチンカチンに固まってしまったけど、ものすごく意義があった。行ってよかった。

夜、ジェニーとごはんを食べに行った。こっちも久しぶりで楽しかった。
明日は HIV のセミナーに行く。

デイビッドはそうやってセミナーに出席することをとても喜んでくれる。7月には仕事に戻れる予定だから、「ちゃんと準備が出来るね。いいことだよ」って。そんなおりこうさんな理由でセミナーに行くわけじゃなかったのに、そう言われると応援してくれてるんだって嬉しくなる。先々週は癌のセミナーに行って、帰ってきたとたんにナターシャの癌のことを聞かされた偶然が怖かったけど。


ゆうべ、あの人が新しい CD を送ってくれたって電話で言った。「届いた?」って聞くからなんのことかと思ったら。大体、「昨日送った」って言っときながら「届いた?」だなんて、1日で届くわけないじゃん。早く聴きたい。早く聴きたい。

それから母に電話した。
元気だった。電話するたびに元気になっててくれる。


今、わたしは多分、光を手にしてる。
うんと先にも光が見える。

「一度光を手にしたら、それを決して離さずに光と一緒に歩きなさい。先に光を見つけたら、その光を信じてそれに向かって歩きなさい。必ず辿り着くから」。わたしの大好きなジーザスの言葉。

いつも揺れながら揺れながら、小さな光をこぼしてしまう。遠すぎる光を見失ってばかりいる。今度こそしっかり握りしめていよう。見つめていよう。ちっちゃいけど、この光は星みたいに強くてあったかい。


明日の晩からまたロードアイランドに行く。
天気予報は雨だけど、そんなこといいんだ。

ナターシャがハッピーでいてくれれば。
わたしが、デイビッドが、ハッピーになれれば。
光をこぼさないように。こぼさないように。


彼女も、光をこぼし切ってしまわないように。
見失ってしまわないように。

もしも失くしてしまっても、光は戻ってくるんだよ。
星みたいに強くなって。
信じていれば。




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バイオリンとピアノ - 2004年06月01日(火)

土曜日の夜にはデイビッドがクライアントの BBQ パーティに連れてってくれた。
金曜日と土曜日をデイビッドと一緒に過ごして、今週は日曜日にはちゃんと教会に行った。

それから夜に、またデイビッドんちに行く。従兄弟の従兄弟とそのガールフレンドとダニエルと、金曜日にチケットがどこも全部売り切れで観られなかった映画「the day after tomorrow 」を観に行くプランだった。デイビッドがインターネットでチケットを7枚買ったって言ったから、また ex-ex-ex-ex-ex- ガールフレンドと旦那さんが来るのかと思ったら違った。デイビッドったら間違えて1枚余計にチケット買ってた。

デイビッドんちの近所に住んでる売れないシンガー友だちのジュリエットが来た。
ジュリエットのことは何回か聞いてた。ものすごく魅力的な声で抜群に歌が上手いのに、売り出し時期を逃して30を超えてしまった元超美人でセクシーなジュリエット。

ジュリエットはとても素敵な女性だった。
わたしみたいにちっちゃいけど、「元」どころか「現役」超美人でセクシーだった。「10年前はもっと美人でセクシーだった」ってデイビッドは言うけど。おしゃべりでちょっとはすっぱで、クレイジーっぽいけどなんか頼もしくて、ラヴァブルでラヴリーでラヴィングで、そう、「love」のつく形容詞をみんなつけてあげたいような女性。その上わたしみたいに動物狂だから、わたしが大好きにならない理由がない。

多分わたしより年下なのに、わたしのことを妹みたいに扱って、わたしはお姉さんみたいに甘えてた。「味方」を得たみたいな気分で嬉しかった。

「the day after tomorrow 」は面白かった。
あの映画をシリアスに観るのはナンセンスだってデイビッドと意見が一致。気の利いたジョークがいっぱいだし、絵が奇麗で溜め息が出る。ジュリエットは地球温暖化について真面目に語ってたけど、わたしが捉えたメッセ―ジは「犬は賢い」と「約束は守ろう」。デイビッドは笑いながら大賛成してくれた。

昨日のメモリアル・デーは一緒にピアノとバイオリンの練習をした。デイビッドは61キーのヤマハの小さなキーボードを、少し前にわたしのために買ってくれた。クロード・ボーリングをデイビッドのバイオリンとわたしのピアノで合わせる。ジャズなんか弾くの初めてで難しかった。パラパラパラパラパラパラって鍵盤に指を走らせるジャズ特有のフレーズが上手く出来なくてデイビッドが笑う。楽しくて楽しくて、何度も何度も一緒に合わせた。61キーじゃ足らなくて、フルを買わなきゃなってデイビッドは言った。ずっと、一緒にしたかったこと。デイビッドのバイオリンとわたしのピアノの演奏。ああ、ほんとにずっと一緒にやりたい。ずっとずっとずっと。

デイビッドの従兄弟たちはパリに帰り、空港に行く前にデイビッドんちに寄ってくれた。それから夜にはクライアントのナントカさんを誘って、また映画を観に行く。「Shrek 2」。楽しいけど Shrek はやっぱりキモチワルイ。それよりクライアントのナントカさんがメチャクチャ面白い人だった。


デイビッドは最近わたしをたくさんの人に会わせてくれて、わたしのことを「ガールフレンド」って紹介してくれるようになった。なんだか突然で戸惑ったりしてる。ずっとそれが欲しかったくせにガールフレンドって言葉にまだ慣れなくて、デイビッドがそうやってわたしを紹介してくれるたびに不自然な笑顔になってしまう。だけど嬉しい。とても嬉しい。


そして、夜中にわたしの悪魔がまた飛び出した。3分の1くらい殺せたはずなのに、わたしの悪魔はしぶとくてタチが悪くて呆れる。

わたしは洋服に着替えて、車を停めたひとつ向こうの大通りまでの長いブロックを「今日は絶対このまま帰る」って頭の中で繰り返しながら必死で歩いた。松葉杖1本でかなり早く歩けるようになった。

車に乗り込んだら、1台のSUVが斜め後ろに止まってウィンカーを出した。
何かがパリンと砕けてペパーミント・キャンディを噛み砕いたみたいな気分になった。
わたしは窓を下ろして SUV の運転手にノーの合図を手で送った。助手席の女の子ががっかりした顔でわたしを見ながら、SUV は去ってった。ごめんね。きっと駐車スポット探し回ってたんだろうな。やっと見つけたと思っただろうにね。

わたしは車を降りて、ペパーミントの後味を残したまま、さっきよりもっと早足でデイビッドのアパートに戻る。そしてデイビッドのベッドにまた滑り込んだ。

「よかった。戻って来てくれて」。デイビッドは枕に押し付けた顔を上げずにそう言った。「神さまが戻りなさいって言ったの」「神さまが?」。わたしは返事をしないでそのまま眠った。


今日ナターシャは癌のドクターに診てもらいに行った。わたしは車でデイビッドとナターシャを病院まで送って、それからうちに帰った。車を降りるとき、デイビッドはとっても優しいキスをくれた。

手術をすると、ナターシャは顔が半分無くなってしまうらしい。そんな手術絶対イヤだ。キモセラピーもラディエーションも必要ドーズが大きくて、ヒドイ副作用が目に見えてる。そんな危険もイヤだ。ナターシャはこのまま幸せに、いつかそのときが来たら微笑みながら天国に行かせてあげよう。天国は幸せなところ。あの娘が教えてくれたことを、わたしはデイビッドに教えてあげた。


デイビッドは、音楽の中に神さまがいるって言った。
だから、わたしたちはバイオリンとピアノをずっと一緒に引き続けるんだ。きっと。



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