一平さんの隠し味
尼崎の「グリル一平」のマスターが、カウンター越しに語ります。


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2003年11月27日(木) その43

その43

車椅子のお父さんは、ベンチプレスで横になってる大将の傍で、

重量を上げてる息子さんに・・・

「まだ日にちはあるから、慌てて筋肉を壊すなよ!」

「当日になって、筋肉が硬くなって目ばえがしなくて入賞できなくなった
 連中をたくさん見てきた」

「最初から一枚一枚、筋肉を着けていこう!」

二人の間には凄い空気が流れていました。

「あのー、す すみません!赤い焼きそばの代金を・・・」、すると、

お父さんが「ああ!すまん、すまん!いくらや!忘れとったがな・・・」

車椅子にかかってたバッグから、財布を抜き出しながら、私に・・・。

「出来るだけ続けなあかんで、筋肉は少しずつ着けるんやで!」

「筋肉には必ず裏地があって、その裏地をキッチリと着けないと、何年
 やっても、すぐに休むと筋肉が消えてしまうからな」

「華やかな仕事ほど裏地ってゆうのが大切なんやで!」
「君が今、やってる配達だって裏地なんや、いつか自分の店を持ったとき、今の配達が
 きっと生きてくるよ!」

「どんな立派な着物でも、かくれた裏地が、しっかり縫ってないと、着崩れしてしまうし」
「裏地の糸がきっちり縫われてたら、上から着物の帯をゆっくり締めても着崩れしない!」

「人はみな、裏方のお陰で表の人がいきてくる!裏方の感謝を忘れたらあかんで!」


ベンチプレスの大将が・・・「おやじ!早よ食べな冷えるで!」


いまでも、あのお父さんの言葉はよく憶えています、20才の時のあの気持ち

を忘れずに大切に生きてゆかねば、と、思う今日この頃です・・・。


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2003年11月21日(金) その42

その42

それからというもの、大将は人が変わったようにトレーニングをした。

43号線沿いの排気ガスでいっぱいの、このジムがいままでと違った

雰囲気になった、ピーンと、張り詰めた空気でした、いちばん奥の

いつもの場所で、汗をビッショリ掻いて大将は頑張った、みんな

頑張った、普段あまり練習もせず、世間ばなしをして帰る連中も

大将にあおられてか、鏡の前でポーズをとっては筋肉をピクピク!

とにかく、みんな頑張った、一人ひとりが心の中で大将にエールを送った。


そんなある日、店に、大将から電話があった、

「赤い焼きそばを、二つジムに持ってきてくれへんか!」

初めてだった、ジムに配達するのが・・・。

「はい!わかりました!大将?まだ練習してるんですか?」

「やってるで!もう終わるけど!・・・」

この時間になると43号線も車が少なくなった、暗い国道沿いの中で

そこだけが灯りが漏れて、中を覗くと、大将ともう一人いた・・・。

「まいどー!一平です!赤い焼きそば持ってきましたー!」

その、もう一人の車椅子の人がこっちを振り向き、

「こんな、遅くにわるかったなー、このジムに通ってるんだって?」

「あ、あはい!」・・・・・・(大将にそっくり!・・・えええまさか!」



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2003年11月17日(月) その41

その41

大将が奥に引っ込んでるとき、逆三角形のみんなが,なにやら話してるのを聞いてると、どうやらポスターの全日本大会の事らしく・・・。

「今度は大将は出るのかなー」

「いやーもう年やでー絶対でーへんと思うで!」

「でも、大学のときは学生選手権で四位とか五位とか言うとったやろ!」

「アホか学生と社会人といっしょにすな!」

「せやけど今度で9回目やろ!もうあきらめてるでー」

「それもそーやな」

「それでも、大将はお父さんに憧れて今日までやってきたんやろ!」

「入り口にある、あのお父さんの写真をいつも大将は見てるんやろなー」

「そう思うとやっぱり、全日本で入賞したいやろなー大将!頑張れやな!」


大将が奥から出てきた・・・

「みんなーちょっと集まってくれ!」


みんなが大将を取り囲むように集まった、

「これから、もう!カップラーメンは食へんで!何故かと言うと」

「今度の全日本大会で引退する!最後の大会にする!」

「みんなには初めて言うけど、俺はもう9回も挑戦してきた!」

「あれ?みんな知ってたんかいな・・・10回を区切りにやめる!」

大将の目が潤んでいました、父との約束を果せなかった、せいなんだろうか

すると、大将を取り囲んだみんなの中から、


誰となく、一人が、パチパチと手を叩きだした・・・すると、みんなが叩きだした、不思議とみんなの心が一つになった、

「大将!大将!頑張ってください!頑張ってください!」



大将は泣いていた・・・下を向いて肩を震わせてた・・・。



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2003年11月14日(金) その40

その40

相変わらず開かないジムの戸を、こじ開けると靴箱の上の方に額入りの

大きな写真があったんです、みんなに聞くところによると、オバQ、

いやいや!大将のお父さんらしくて、真ん中の人が何やらチャンピョン

らしくて、大きなトロフィーを抱えていて、左右の人のどちらが、二位・三位

か分からないけど、確か左側の人が、思わず、大将!と、言うぐらい似てて

誰が見てもお父さんとわかりますが、おそらく、ボディービルの日本では

奔りじゃないかと思います、おそらく大将は父を見て育ったんでしょうね、

写真を見て感じた事は、今の大将のもっと若い時に父は全日本の三位に

なってたってことです・・・。


私がジムにかよいだして半年ぐらいたった頃、ジムの鏡の横になにやら

新しいポスターが貼られていたんです、

「全日本ボディービル大会」と、書かれた大きなポスターでした。



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2003年11月13日(木) その39

その39
そんな、ある日、私が配達から帰って来たら、店の中からウエイトレスさん

が、外にいる私の近くに来てビックリした顔をして、

「何か凄い腕の大きい人らが着てるよ!カウンターいっぱい!」

ははあーん!私は、ピーンときた!

「やっぱり来ましたね!あ!大将は?」

「赤い焼きそばや、汁、なんて言ってたのが、恥ずかしくなったみたいや」
「ははは、もう!遅いちゅーねん、なあー」

カウンターいっぱいに座った逆三角形の人達は、みんなで大笑いしてた。

カウンターの中から注文をたずねると、みんな声をそろえて・・・。

「すみません!赤い焼きそばを、お願いします!」・・・・(うまい!笑)

それを聞いてたウエイトレスさんが、

「あなた達は、あの、オバQさんの、お連れさんですね!」・・(オバQ?)

筋肉マンの人達が笑い渦になったのは、オバQの名前のセイ!!



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2003年11月07日(金) その38



その38

大将の話しは続きます・・・

「金があるときは、赤い焼きそばに、汁を付けてもらうんや!」・・・・(ん!・・・汁?)

後ろから、また筋肉マンが・・・

「汁って?なんですの?」

大将が後ろの連中をバカにしたように、

「おまえらは、こんなええもんをしらんやろ!これがまた美味いんや!」

「ちょっと、あかぬけた、じょうひんな味や!おまえらには合わへん!」

筋肉マンが手に持っていたダンベルを置いて、むっ、とした顔をして、

「それって、胡椒とか小さいパンの揚げたのが浮いてるやつですか・・・?」

「大将!それね・・・スープって言いますねん!汁って何んですの?」

大将!おおきな声で!

「汁や!しるや!アホか!焼きそばに汁や!なに言うとんねん・・・」・・・・・(こわ!)

うしろの全員が大将を囲むように・・・、

「いつもカウンターで、そうやって注文してはるんですか?」

大将は鼻息が荒くなり、大きな頭を左右に振りながら奥のカーテンの中に消えていった。

筋肉マンたちが小さい声で・・・、

「汁やて!ううううう、腹がさけそうや!その店、行ってみよーや!」


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