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終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年03月31日(木)

Calling

 この古い空間に尋ねる。覚えているか、あの夜を覚えているか。カクテル光線が降り注ぎ、雨が降った夜を覚えているか。一人の少年がその夢を置いて立ち去った日を覚えているか。ああ、この古い空間に尋ねる。


眠いので寝る。ソフキトク、スグカエレ。


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- 2005年03月30日(水)

大阪出張3日目。つまんねえ。
昨年夏にあれだけ燃えたのはなんだったんだ。
考察する気も起きないよ、今日なんかさ。

更新は帰還まで停滞しそうな気配。


マルチェロの剣は、ぱしんとククールの剣を弾き飛ばしてぴたりとその喉元で止まった。マルチェロの剣呑な眼差しは刃渡りと腕の長さ分を隔てて刃より以上にククールを釘付けにする。
「それでどうする、騎士団員ククール」
マルチェロが動いて切っ先がその肌をかすめたのを感じ、ククールは唇を引きつらせて笑った。
「あんた地獄に落ちるぜ、マルチェロ団長」


…パクリ細木●子編。なんのヒネリもない。


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- 2005年03月29日(火)

「この兄を酔わせて」マルチェロは言った。その手には赤い酒。
「おまえはどうしようというのだ」
 ちらりとこちらを見上げてきた眼差しの揶揄めいた鋭い甘さに、ククールは心臓が止まるかと思った。


もう少し続けようと思ったけど
……あんまりバカバカしいのでこんだけ。某CMのパクリです。
二次創作をやる場合は、「その物語」「そのキャラ」でなければ
考えられないこと、できないことを、書かなくては『ならない』と思う。
そうでないと、他人の想像世界を借りる意味がない。
だから。
どうしたってエロは遠くなるんだ…。


大阪出張二日目。つまらん。


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- 2005年03月28日(月)

大阪である。疲れた(まだ1日目)。
喧騒と怒号が好きだ。悲鳴が好きだ。勝利と敗北が好きだ。
憎悪と愛とが好きだ。憧れと不安と絶望が。
人間が生きるという相すべてが好きだ。

そのうち、日記のアーカイブでも作ろうかなあ。
自分で何書いたか覚えちゃいねえ。


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- 2005年03月27日(日)

明日から大阪なのでわたわたしている。進まねぇ。
結局、「闇の底」は竜(=背教者)たちの話として始めたはずだが、
メモをなくしたせいで大まかな流れがわからなく…。


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- 2005年03月26日(土)

赤い空の話と一緒に、シルマリルの方もついでに更新してしまった。
どうもやること愚図だよ、私。
月曜日から大阪出張なのに、なんの用意もしていない。
ゴミは出してから出るぞー!おー!(一人暮らしってやつは…)





ところでやっぱり今月の休みは1日で打ち止めだ。


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- 2005年03月25日(金)

もし私のサイトの小説を、アップされた直後に読んだ人がいるとする。
そのひとは、たとえば三日後に見直したら、多分びっくりするだろう。
ええ、そうです。たまにぜんぜん違う話になってます。
いいのか悪いのかわからないけど、
自分の書いたものについて非常に、非常に気になる。
誤字脱字とか語順とか意味が通りにくいところとか多いので、
直してるうちに…違う話に!おかしいなあ…。

とりあえず、霧と春はかなり改訂したってこと。
あと、赤い空の話を書こう。本筋に帰る前にそれやっとかんとあかんわ。


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- 2005年03月24日(木)

フジテレビと「長い春」状態だったニッポン放送。
ようやくフジテレビはニッポン放送と結婚する気になったが、
そこへライブドアが!
ニッポン放送の保護者(=株)を掴んで、嫁に来いと迫る。
フジテレビもニッポン放送もその身内も、
「好き同士が一緒になるのが一番」と説得しようとするがダメで、
それならとフジテレビが打った奇策も失敗。
ニッポン放送はライブドアとイヤイヤながらの結婚を強いられそうだ。


……。


まあいいや。よくないけど。


ガチンコで話を進めたいが、風景描写が好きで進まない。
CSルイス(『ナルニア国物語』作者)は
ケンブリッジの同僚だったJRRトールキン(『指輪物語』作者)を、
「偉大ですが愚図で手順のない人です」
と評したというが、多分後半部分は私もあたってる。


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- 2005年03月23日(水)

明るいって、そういうことくわァ!<霧
自分で突っ込んでむなしくなってるたつみです。
最近は太郎飴ともいうらしいよ!

ところで、生まれて初めて「ウェブ拍手」をもらっちまいました!
これはうれしいぞ!ていうか設置して24時間くらい
解析画面というものの存在を知りませんでした。
アホです。いやーでも、マジでうれしかったです。
ありがとうございました。

ところで私の念願、「兄弟でエロ」はいつ果たされるんでしょうか。
ぶっちゃけどっちが「上」でもいいんだけどさ。
でも兄貴は弟相手に立たないから受けだね!
それはさておき。




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- 2005年03月22日(火)

弟について考えてみました。メチャクチャだ。
とりあえず私が考えた範囲ではいろいろメチャクチャだ。
捏造ですとかってどっかに書いとく方がいいのかな。

なんでもいいや。
明るい話が書きたいなあ。明日は明るい話を書こう。
明るくて幸せで涙が出そうな話がいい。
でもってエロい話がいい。
私が書く兄弟はどーも、ド ウ テ イ臭い気がしている。


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- 2005年03月21日(月)

BBSってどうやって設定するんだろう。(@ネット歴7年)

鋭意DQページを充実させてる勤務中。
もともと仕事以外ではヒッキーなのでサーチ参加はドキドキものです。
でも参加したかったんだもん…。

作りが簡素なのは単に腕がないからです。
あと今でもAirH”なので遅いから。

そろそろ弟のことを考える時期にきているらしい。
しかし、女性向けってどうやって書いたかな…。


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- 2005年03月20日(日)

三連休?なにそれ。(このままいくと、今月の休みは1日で打ち止めだ)

ドラクエの兄弟騎士サイトを作ってしまいました。
なので、ショート・ショートみたいなものは、
そっちに移そうと思っています。
消すのは面倒くさいからこっちにも置いとくけど。

兄→弟
「剣はそこそこ使えるし、魔法も使える。ご祈祷もこなせる。
 なのになんで真面目に聖堂騎士をせんのじゃゴラァ!」
というのがデフォルトであって、
オディロ院長が危ないのに「兄貴!」とかって寄ってきたことで、
「修道騎士の大前提である所属長への絶対の忠誠さえも
 ないがしろにするようなヤツにもはや用はない」
になったと思う。いや、マジ。私が上司でもキレると思う。
一方、これはあくまで「聖堂騎士団員ククール」と括ろうとしていることの
あらわれであって、弟がちょっとでも「弟」として認めてほしくて
んで騎士としてはかなりサイテーなことをやってることを、
わかっててあえて無視しているんじゃないかと思うわけですよ。

弟→兄
「俺を弟としてみてくれないなら、おとなしくなんかしてやるもんか。
 せいぜい悪さして困らせてやる」が、デフォルト。
かなーりはた迷惑な駄々っ子だと思う。
私が上司なら僻地に飛ばす。絶対、飛ばす。
しかしククールももちろんわかっている。
「俺ってサイテー」という自己嫌悪を逆手にとってまっしぐら。
一方、冷静なところもあって、自分のやってることも、
兄貴の考えていることもわかってる。わかっちゃいるけどやめられない。
悟ったようなこと言ってたってやめられない。
そして兄貴が大好きだ。愛してほしい大好きだけど。
最後のアレは、つまり煮詰まったすえの飛躍だと思う。
「あんたが大好きなんだ。だけどこいつはどうしようもない。
 だけど死ぬのはやめてくれ。どうすりゃいいのかわからないけど、
 でも死ぬのはやめてくれ」
はた迷惑な駄々っ子だが、この時点ではすでに兄のが上手の駄々っ子。


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- 2005年03月19日(土)

決めた。
ドラクエのページ作るよ。
で、日記には日記書くよ。


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- 2005年03月18日(金)

「あんたんとこの兄弟騎士はトンスラ剃ってそうだよねー」(知人X)
いやだよそんな兄弟、と答えつつ抹香臭いことは否定しない。
修道院で育って抹香臭くなかったらそっちのがおかしいって。
祈祷と神学と聖歌は教養というよりも血肉でしょうよ。

*トンスラ:頭頂部のみを剃り上げる基督教の僧侶の髪型。
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 マルチェロは頭を垂れ、微動だにしない。唇は音もなく祈りを刻み、その指はロザーリオの環の数珠を際限もなく数えていく。
 ククールは黙って兄を見ていた。どのような道にあるときも、兄の信仰は小揺るぎもしなかった。世界を滅ぼすほど激しい兄の霊が正気を保つには、おそらく存在するためだけにでも神の概念を失うことはできないのだろう。別の言い方をするなら、兄がこれほど強固な信仰を持っていなければ世界を危うく滅ぼしかけたほどの悪は為せなかっただろう。
 奇妙なことだとククールは考える。まったく奇妙なことではないか。悪がその背骨に神を持ち、神がその信仰を悪魔に許すとは。背徳が信仰を持つものによってなされるとは。ククールは手を伸ばして兄の肩に置いた。
「――兄貴」
 答えはない。もとより期待などしていなかった。
「帰ってこいよ。ここには神様も悪魔もいないけど。人間は崇高でも偉大でもないけど。でも、そこは寒いだろう」
 ククールは顔を伏せた。それから少し笑ってしゃがみ、兄に寄り添った。
「わかった、俺も祈るよ。あんたの魂の救済のために祈るよ。二人で祈ればその分だけきっと、早く帰って来れるさ」
 眠りもせず食べもせぬ兄の前に膝をつき、秀でた額に額を寄せた。乾いた肌はそれでも暖かく、ククールは耐えかねて両手を開き、兄を抱いた。知っているよりずっと痩せた体が腕の中に入ってしまったことが辛かった。


「神よ、心から祈ります」


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- 2005年03月16日(水)

剣もて語れ

 細剣はバスタードソードとは違う。細い刀身は粗忽な手に扱われればすぐに折れるし、粗雑なやり方では子供にさえ致命傷を負わせられない。だがうまくすれば傷一つ負わずに戦闘を潜り抜けることだってできるのだ。
 間合いと距離と速さ。動きは直線を基本とし、相手の体ではなく針で突くように心臓だけを狙いとする。技が練れれば優美とさえ舞踏に似たとさえ呼ばれよう。だが真実はあくまで洗練された殺人法だ。
 ククールがどちらかといえば華麗に流れた所作をするのに対し、マルチェロのそれは殺人法としての性格をより明確にしている。だが強さは互角。
 速いテンポで試合は進んでいる。院長オディロはのんびりと髭を撫でながら、この日ばかりは試合場に装いを変えた修道院の中庭を見下ろしている。すでに試合は大方終わり、まだ残っている騎士は兄弟二人となった。出番を終えた騎士たちはそれぞれあざだのかすり傷だのの手当てをしながら回廊から野次を飛ばす。オディロの合図で旗が翻った。
 ねじを巻かれたように兄弟騎士は円を描きつつ柄を打ち合わせた。ククールの銀の髪、マルチェロの青い外衣が翻り、銀の針に似た刀身が揺れる。
 ククールはひどく楽しそうだとオディロは考える。最近、夜遅くまで剣の稽古をしていたのはただ兄が必ず上るであろう決勝戦の舞台に自身も上がるため。そこでは身分の差も血のつながりが作った罠も関わりない。
 高い音が立つ。どよめきが一層大きくなる。
 マルチェロもまたひどく楽しそうだとオディロは考える。相手が誰かなど関わりなく、思うさま剣をぶん回せるのが好きなのだ。自分では頭もいいつもりだろうが、そのあたりは子供のときから単純よな、と、オディロは若き騎士団長が聞いたら真っ青になって怒り出しそうなことを考えている。
 マルチェロがすばやく回転する。速さをのせた剣をククールが上から叩きつけて止めた。二人は今にも笑い出しそうだとオディロは考える。
 これからどうなるかなどオディロは問わない。なべて起きることは起きるであろう。神の望むことならば起きぬはずもない。だが信仰はこうも言う。すべて起きねばならぬことは起き、だがその後にはよくなるであろう。
 ククールが直線を残して兄の懐に飛び込んだ。そら、そんなふうに素直に言えばいいのだ。マルチェロはすんでのところで飛びのく。どちらも急いでこの試合を終えるつもりはないと悟ってオディロは笑った。この兄弟は心ゆくまで語りあおうとしておるわ。


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- 2005年03月15日(火)

行かざるまた帰らざるに

 暗い空間は空っぽだ。死ですら灰か塵が残すだけそこより空虚ではない。彼は黙っている。言葉さえないのだ。あれほど激しかった彼の感情や記憶、その名さえこの虚無にあっては次第に流出し拡散して、掴めるほども残っていない。かつて感情にまた記憶に苦しんでいたときには彼はそれを望みさえしたが、だがその望みもとうに消えてしまった。
 残っているものがあるとすれば、おぼろげな願いであった。夜に遠い火灯りを臨むよう、かすかにまたたく願いであった。だがそれも消えつつある。
 ……――。
 かすかな音を聞きつけた。音。彼は耳があったことを思い出した。聞くことをを思い出した。そして頭を廻らせた。そして体についてかつて知っていたことを思い出した。それに付随するものどもが戻ってきた。彼は深く息を吸い、そして夜明けの香りをそこに知ってかすかに笑った。
 ――――。
 音はさらにその声を大きくしている。親しい声だ、呼んでいる。彼は目を思い出そうとした。目を。見ることを。知ることを。そして思い出した。


 青い目の弟がなんとも情けない顔でのぞきこんでいるのを、マルチェロはぼんやりと見上げた。昼食後、本を読んでいるうちにいつの間にか眠っていたらしい。そんなことはかつてはなかったが。だがまあ、多少の変化があってもおかしくはない程度にはいろいろあった。
「おい、兄貴」
 これも変化の一つだ。以前ならそんなふうに呼ぶことを許しはしなかった。そしてこれについては今でもまだ、多少のわだかまりはある。マルチェロは憮然として弟を見上げたが、青い目の弟は恥知らずにもひどくふやけた顔をして、この胸の上にへたった。
「…かと思った」
 マルチェロは何も言わなかった。ククールは顔を上げた。
「あんた、死んでるのかと思った」
 その言葉がある意味で正しいことをマルチェロは知っている。かつての騎士団長は死んだのだ。野心が死んだときにともに死んだのだ。そしてその日、ククールが手を取って引き上げたのは別の人間だった。
 おかしなものだ、と、マルチェロは考える。人が変わるというのは次第に変わるというようなものではない。死んで生まれ変わるのだ。別のものとして灰のうちから新たに立ち出るのだ。マルチェロは手を伸ばし、弟の髪を撫でた。
「右手を見よ、また左手を見よ。神の手にならざるものあらんや」
 ククールが得たりというように子供の顔で笑い、続けた。
「従うことは生きることなり、生きることは従うことなり」
 なるほどそれはよく知られた祈祷の文句だ。出典と続きがわかったとて自慢になるほどではない。マルチェロは目を閉じて笑い、胸の前で十字を切った。
「神を称えよ」
 ククールの詠唱が重なった。


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- 2005年03月14日(月)

 夜半、空を翔る。変身の呪文は暗い皮質の翼を彼に与えた。その強い一打ちごとに暗い地上は鋼めいた鉤爪の下を過ぎていく。なぜそのような形をとろうとしたのか悪魔は自らに問わない。だが悪魔であろうとすることがおそらく必要だったのだ。悪魔の形を借りることが。
 眼下の山脈が切れた。星明かりに輝きを放つ湖が浮かび上がる。悪魔は翼を翻した。高度を下げるうちにも夜の冷気が彼の毛皮を冷やしてゆく。人の言葉を知らぬ異形の脳髄が呟いた呪文は音もなく光もおよそ人間に似たものが知覚するすべさえない形で落ちて湖畔に広がった。
 湖畔、村ひとつない辺境、高地の湖。人の世を捨てたものの世。再び翼を翻し、音もなく粗末な草葺の家の前に舞い降りた。しなやかな腕が体を支えるうち、悪魔でさえ驚いたことに扉が開いた。
「私に眠りの魔法が効くなどと思ったか?」
 扉を立ち出てこちらに歩みだした人の姿は言った。傲慢でもなくかといって静かでもない。心かき乱されたものの声だと悪魔は知る。
「そして私が善悪を知る者であることを忘れたか――おまえと同じく」
 悪魔は応えなかった。だがかすかに身を震わせ、伸ばされた手の前で魔法を解いた。それとも解けたのであろうか。翼は萎み毛皮は失せ湾曲した鉤爪は消えた。残ったのはよろめく細い体の少年だ。
「――ククール、久しいな」
 ククールは震え、そして唐突に身内に戻った人間くささとでもいうものに戸惑ってかすかに微笑した。男もまたかすかに笑った。ククールは両腕を開いて男をつかまえ、かすれた声で囁いた。
「マルチェロ――兄貴。あんたを探していたんだ」
 マルチェロが笑い、ククールを抱きとめた。
「おまえの抱擁が私を私にした。ククール、おまえがここに来るまでは、私は長いあいだ、どこにもいなかったのだよ」


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今度はどこに行こうとするのだ、私の想像よ。
発見の文脈か、それとも誕生の文脈か。
これが逆だったら、ククールは心臓を毟り取られているな。
そしてそれもまた名づけと発見の行為だろう。


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- 2005年03月13日(日)

店じまいするカフェを、街角に立って見ていた。
運び出される椅子や扉に聖堂騎士団の紋章がついていた。
あれっと思って隣に立ってたマルチェロに聞いたら、
「赤字の店を経営しておくわけにはいかんだろう」と諭された。

 という夢を見ました。
 経営多角化してカフェまで経営していたとは…さすが金の亡者。
 でも家具に金をかけたいいカフェだったので閉店は残念だよ!


クイーンのベストと、黒人霊歌とマタイ受難曲を買った。なんだそりゃ。
音程のない私にはどんな音楽も本当の意味では音でさえないと言ったら、
いったいAさん、きみは面白がるだろうかね?
音は私にとっていわく言いがたい啓示のようだ。
その本質をけっして理解できない世界の秘密のようだ。
しかもどれも同じだ。歌詞がなければどれがどれかなんてわからんよ。

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『悪魔が暗い翼を広げるのを私は見た。その翼は天の端より端に届いた。
 見下ろす目には絶望と怒りが燃え、鞭打たれる星さながら輝いていた』

 幽閉の男は書物から視線を上げた。幼いころから幾度となく読んできた聖典ばかりがその長い虜囚の日々のために残された書物だ。塔の部屋は広くもなく、高い窓は遠慮なく豊かな光を満たしてくる。『汝敬虔なれ』とは文字ならずしてこの場所に深く刻まれた言葉だ。
 悪魔を気取るつもりはない、と、男は皮肉をこめて考える。生きて虜となる辱めをあえて忍ぶものに自らをそのように言う資格はない。あのとき地の底に落ちて死に霊となってなおも憎しみを燃やし続けていれば自らをそう呼んだかもしれないが。だが、それでは。
 新法王が彼を封じ込めた理由についてはわかりきっている。なまじ裁判にかけて片棒をかつがせた悪事について口外されては困るというのだ。『悔い改めの機会を与える』という口当たりのいい口実で幽閉し、ほとぼりの冷めたころにでもこっそり暗殺する腹だろう。だがそんなことはどうでもいい。
 自分がここに生きている意味はどうだ? 死ぬなら今日にでもできる。今すぐにでも。歯でもって舌を食いちぎるだけの勇気を持ち合わせていることについては疑いはなかった。だがそうはしていない。これはなぜだ。それどころか眠る間を惜しんで聖典を開き、そのなかに何かを探すよう焦燥に駆られて読みふけっている。これはいったいどういうことだ。
「救いでも求めているというのか」
 低い声で囁いてみて、男は厳しく眉を寄せた。口に出して言葉にした瞬間にそれが正しいこと、まさに彼が希っていたことであるとわかったのだ。彼はむしろうろたえ恐れて粗末な椅子から立ち上がった。
 だがいかなる救いがあるというのだ。この手で罪なきものを殺した者に。邪悪に手を染め、あまつさえ暗いものを呼び起こしさえした者に。今もなお世界の四方で彼のなした悪が涙を呼び、悲しみを広げているというのに。
「あのような悪の代価が地獄であることは疑いないではないか。厳しい天の主より支払われるにあたって永遠の責め苦こそ代価に似つかわしい大罪ではないか。今さら救いなど…」
 そのとき鳥の羽音がして光が一瞬翳り、高い窓を打ち仰いだ目を光が打った。マルチェロは声もなく後ずさった。いまだ世界は彼に光を奪わず、大気を奪わぬ。これはどうしたことだ。これは。神の前に罪ではないとでもいうのか。否、罪であろう。まこと罪であろう。善なること全き神の目においてどれほど胸痛ましめる罪であろう。ではその慈悲は。その愛は。
「……」
 マルチェロは膝をつき深くうなだれた。まこと面を上げるに耐え得ぬ愛であった。罪人にもさらに呼びかけられる声の強さよ。我がもとに戻れとは。夜の最中に迷ったものの上にさえためらいなく。しかもその声は幾度も響いたのではなかったか。初めは母の声をして、一度はオディロとして、また弟ククールをして。マルチェロはもはや身動きもならなかった。強情と諦観は仮面のごとく落ち、堰を切ったよう涙は落ちる。
 揺るがぬ愛は確かにあった。求めて得られぬと泣いていたものが。しまいには力ずくで手に入れようと願ったものが。なんということだ。常にそこに。


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もう一つ、夢の話で思い出したので追加。
なんでか知りませんがぼろんちょのククールが突っ立ってるんです。
で、私が救急箱探しておろおろしてますと、マルチェロが、
「おまえ、肋骨見えてるぞ」
…。ぱんつみえてるぞってんじゃないんだからさ!お兄さん!
というかククールあれですか、腐った死体?腐る前の死体?ぎゃあ!


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- 2005年03月12日(土)

 さて、息つくひまもなく不幸と悲惨と異様な興奮を書いてきて少し疲れた。好きで書いてるから別にいいのだが、このへんで一回休む。

 キリスト教的な「神」についての私の全ての知識は、「ナルニア国物語」(CSルイス)に始まる。これは純然たる読書の順番の問題で、私は幼稚園のころの「日本昔話シリーズ」などの幼児書から、小学校一年生のときにこの本に飛び移った。正確には読んだのではない。母が枕元で読んでくれたのである。姉と一緒になって「もっと読んで」ととりすがり、下手すりゃ二時間くらい読ませたらしい。

 だから、私の「神」の原像は同シリーズのアスランである。解説すると、アスランは人としては描かれず、「海の彼方の大帝」の息子、力強い前足と豊かなたてがみを持つ獅子とされる。純粋にイエスの移し変えであれば子羊でもあったろうが、何の因果かCSルイスという稀有なファンタジーの名手のフィルターを通してみたために、私の「神」の姿は獅子である。
 もっともそれ以外はさして元本と変わることはなく、同シリーズ中でアスランは罪あるものの代わりに自ら死に、さらに蘇りを果たすというキリスト教的筋書きを踏む。さらに最終話で最後の戦いが起き、世界は裁きの日を迎える。

 CSルイスは一時期、無神論者であったことで知られる。しかし後に熱烈なキリスト者に転じ、宗教的著作を多く残している。ここに一つ、日本人にはいわく到達しがたい発想を見出したのは中学校のころであろうか。
 神は「あえて面を上げるに耐えざる」愛でもって人を愛したもう、というのがそれである。簡単に要約すると、こういうことだ。
 神は人を愛するが、それはわがままな孫を目を細めて見る好々爺としての愛ではない。神は人を愛し、人が神の愛にふさわしいものとなることを望む。絶えざる自己放棄による帰依を求める。そしてそれのみが人の幸いである。神は人がその高みに至ることを熱望し、ために悪もまた苦痛もあるいは地獄による脅しもあえてためらうことがない。
 全く重たい愛である。だがそれに続けてルイスは言う。
 人はそもそもの初めから、神への帰依に勝る喜びがないことを知っているのではないか?美しい風景の美しさ、壮麗な詩歌の響きに喜びを感じるとき、それは神への愛を感じているのではないか?

 さて、ドラゴンクエスト8のマルチェロとククールに至るまでにはもう一つ寄り道をしなくてはならない。キェルケゴール「死に至る病」である。
 信仰に至る諸段階と躓きの石の発想はここにある。地獄のありようというものについてもそうである。まあ、この思想については要約不可能なので何も述べないが、強い人間は自分自身であろうとして絶望して神にそむく。という一文を私が愛好していることは誰にでもわかるはずだ。

 マルチェロの罪は神に対しては傲慢(「私に従え」)であり、人に対しては殺人である。法王庁はもちろんどっちの罪も裁かねばならないが、その宗教的存在としての原理上、神に対する罪に重きを置くであろう。悔い改めが果たされたところであらためて人の法に照らして罰することになる。悔い改めが果たされない場合は神の法に任せるとして放逐されるのではないか。でなかったら悔い改めるまで拷問とかな。

 「悔い改めない」バージョンその1、破門の話は、中世の儀式に基づいている。ええと、何日に書いたんだったっけかな。蝋燭の火を消す呪いの儀式ね。絶望した強い人間。その2、放逐は11日付けと、ククールに殺される話の2本が該当する。ちょっと違う要素もあるけど。
 「悔い改める」バージョンはまだ書いてない。
 「保留中」は祈る兄弟の甘げな断片と、蝶の話。首をくくるマルチェロは保留中にふと囚われた人間的な絶望、スタヴローギン(「悪霊」ドストエフスキー)のパクリだというのは知ってる人はすぐわかる話。

 ククールの扱いはいろいろですね。補完的な役割とか、別の選択肢の先にいたりとか。彼の兄貴に対する愛情が主なテーマになることは絶対ない。もしそうかもと見えても、それはただ単に私にマルチェロの側から書ききる能力がない場合だけですね。哀れだ。

 それで、今後は何を書くのか。マルチェロの救済の可能性を探りたい。カラマーゾフの兄弟しかないのか?わからん。あともう一つ。祈祷の文句は基本的にオリジナルだが、発想の多くはイスラムにとっている。いいじゃん、だって好きなんだもん。


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- 2005年03月11日(金)

闇の中を:

 闇の中を行く影がある。しのつく氷雨のさなか、夜のさなかを行く影が。野の獣さえこのような夜には湿った巣穴にこもり、長い尾を巻いて眠るというのに。男は獣でさえない。腕から流れる血で黒い雨をなおも黒く染めて、歩き続ける。すでに凍え痺れて手足の感覚はない。耳を打つ雨の絶え間ない音に呪われでもしたよう歩む。ただひたすらに。
 遠い昔、やはり私はこのように走った、と男は闇に言った。このように走り、だがそのときは神を信じていた。罪を恐れていた。今はもう信じていない。恐れてもいない。なぜなら私はすでに神を遠く逃れ、罪は私を猟犬のように追い立てる。だからここにあるのはただの闇、ただの寒さだ。もはや獣でさえなく、それでも習い性は消えぬとみえる。祈りの言葉は稲妻のように身内に瞬き、この暗い心を物凄まじくも照らし出す。

    御身の手は長く、地平の果てより
  朝を見たり                恐れよ
              慈悲遍く慈愛深くして

     許しを請うべし。さらば与えられん。

 ここは出口のない暗闇、迷宮だ。遠い昔に迷い込んで以来、ただひたすらに迷っていたのだ。多くのものを得たと思っていたがすべては幻にすぎなかった。真っ直ぐに進んでいたと思っていたというのに、すべては惑わしにすぎなかった。許しなど求めはせぬ、と、男は言う。
 罪は猟犬のように男を追いかけ、生臭い息吹は首の後ろに触れてくる。神と人とに対する罪のなんと速い足を持つこと。心安らぐことはもはやない。野の獣でさえ巣穴を持つが、男はただひた走りに逃れるよりほかない。
 夜が一重に幕を下ろし、雨が三重に幕を落とした。逃げる男の姿はこの世ならぬ夜半の闇に消え、もはや足音も残されぬ。


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- 2005年03月10日(木)

肉体の迷宮性:死刑執行人の両義性:神に対する罪と人に対する罪:火刑
…について考えている(なんのこっちゃ)




影を歩み:
 口付けの味はそもそもの初めから血のそれ。そうであればこうなったことに不思議はない。兄の心臓を貫いた剣を引き抜き、まだ温みの残る鋼に触れた。目を見開いたまま死んだ兄はかすかに唇の端から血をこぼし笑いもせぬ。
「…さあれ、この手に罪あり」
 ククールの唇からは祈りがこぼれる。初め静かにやがて狂おしく。切迫した早い呼吸がその声を高くしてゆく。しまいには叫びと変わるところなく。
「この手に罪ありて我が嘆きなり。
 主よ、僧は御前にありて言問わんとす。
 然り、是は問いなり。
 などて大道の上に躓きの石を置き給いしか。
 などて人に罪犯すこと許したまいしか。
 御身は地の底に落ちて生まれ在れしことを呪うものどもに
 いかなる理を語りたもうか。
 僧は問わんとす、悲しみに満ちて」
 ククールは兄の手をとって穴の開いた心臓の上に組ませた。祈りは絶叫により近い。百年も前に死んだ僧侶の残した言葉はククールの唇と舌を借りてここに蘇り新たに悲痛な意味を付与されて暗い森に響き響く。
「問わんと…ッ」
 ついに言葉が途切れた。ククールは号泣をもはや抑えず兄の上に伏した。半ば狂気し刃を手に彷徨して人の世に害なす兄をこの手で殺さねばならなかった、その悲嘆が胸を破る。兄はあの日、あの場所で言ったではないか。「私の命を助けたことを後悔する」と。その通りだ。助けた手で殺したことを嘆かずにいられるはずはない。悔いずにいられるはずは。兄の赤く染まった青い衣をククールは握り締め、顔を歪めた。涙はその頬を落ちてゆく。
「――されど主よ、僧は御身に帰依するものなり。
 御身によりて見ることをし、
 御身によりて聞くことを許され、
 御身によりて歩むものなり」
 嗚咽するククールの背後で黒衣の僧侶が祈りを続けた。罪人マルチェロの死の見届け人、法王庁から使わされた刑の執行者ククールの付き添いであり見張り役であった。僧は祈りをこめて十字を切った。
「僧は証す。
 御身をおいてほかに神なく、御身のなせしことすべて深き由縁あるを。
 しかるのちに信仰をここに告白す。
 我ら永遠の家に依るものなり」
 ククールは泣きながら首を振った。最期に兄から奪った口付けの苦さはまだ舌の上にあって、ククールを手酷く責める。


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- 2005年03月09日(水)

影はどこに行った:

 草原は春の盛りの真昼。川を渡る空気は明るく温い風は光るよう。冬はどこに行った、と、ククールは足を投げ出して座り込み、楽しげに囁いた。すぐ傍らの草の上には兄が長々と寝そべっている。頬にまた額に目に光は輝いている。その鼻先に金色の蝶が止まるに至ってククールは笑った。さすがに目を開いたマルチェロの顔がいやにきょとんとして見えたので。
「兄貴、なかなか似合ってるぜ」
 背をかがめて顔を近づければ、表情筋を動かしもならないマルチェロが物問いたげに見上げてくる。蝶に翼はゆっくりと閉じては開く。マルチェロの目が一度瞬いた。その緑柱石の瞳は陽光を受けて輝き、影などかつて知らぬよう。金色の蝶がかすかな音させて羽ばたき、驚いたよう飛び立った。
「逃げてしまったではないか」
 マルチェロの囁きにククールは笑った。吐息を食むよう唇を近づけながら口付けを盗むことは差し控えた。蝶を驚かせるだけではすむまいから。手を伸ばしてその額に置く。捕まえてしまえばそれだけのものだ。秀でた額の湾曲を手のひらに知る。この有限の丸い箱の中に。ただこれだけの箱に。
「――『ひとつの永遠が仕舞われているのをおまえは見るであろう』」
 ククールは囁いた。マルチェロは囚われたまま笑って続けた。
「『有限のうちに無限があるとは』」
 前触れもなくククールのうちに一つの感情が弾けた。すがるよう兄の粗末な麻の衣の胸倉をつかまえ、顔を埋める。約束の期日まであと幾日だ。影はすでに兄の胸のうちに畳み込まれた。この静謐、静穏はその証だ。あんたはどうする気だとその言葉だけ口に出せず。

「春の盛り、その真昼の時に目覚めよ。
 世に悲しみのありしことなきがごとき喜びの祝宴を見よ。
 そはまこと、汝が永遠の家の思い出となり深き喜びの源泉となるならん」

 マルチェロの低い声の詠う祈りが、ククールの苦い耳に響いてきた。


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- 2005年03月08日(火)

そして別の男:

 部屋の中には誰もいない。長方形の窓から差し込む夕刻の光はすでに長く、古い木の机の空っぽの表面を斜めに明るく浮き上がらせていた。
 手紙など見出されはしなかった。ついに一つの言葉も残されてはいなかった。ククールは机の上に左手を置いて、呆然として頭を垂れた。
 マルチェロが自ら縊れて死んだのは昨夜のことだ。死に顔は不思議なことにククールの記憶には残ろうとしなかった。どんなにしても、最初に見出した揺れるつま先しか思い出せない。死者を梁から下ろし、寝台に寝かせて夜中祈りを捧げ、朝とともに凍てついた丘の上に葬ったことは順序正しく頭にあるのに、風景の全ては消されたようだ。
 兄はなにをどう悩み、どのようにしてあの輪にした縄のもとにたどりついたのか。また何を思いながら最後に三脚を蹴ったのか。遺言もなく走り書きもなくそしていくら考えても、その兆しさえ思い当たらぬ。
「あんた、死ぬことを決めときでさえ俺を許してくれなかったんだ」
 ククールは囁いた。音もない嵐が胸の奥から吹き上げてくる。喘ぐような息が喉から漏れ、燃えるようにまぶたは熱い。荒涼とした冬の風はしだいに夜の彷徨の前触れを響かせ始める。しかもその長い夜のどこにも、兄はいないのだ。
 ククールは声もなく喚いた。夜は明けぬであろう。冬は果てぬであろう。この悲嘆は根雪のごとく心に住み付きいかなる芽生えも許さぬであろう。帰るべき家も郷里も持たずともに行くべき伴侶を持たぬもののごとき寄る辺なさは消えぬであろう。閉じたまぶたから涙はこぼれ流れ、木目の上に滴り落ちて翳らせる。
 そしてまた、昨日のこの時刻、この場所で、一人の男がやはり物思いに満ちて立っていたことは誰にも知られることはないであろう。その男がペンもインクもなく一つの意志を残したことは気づかれぬであろう。罪のままに己が命を絶つにあたり、ただ己が埋葬を許すことによって長く拒み続けてきた半血の弟を家族と認めた真意はついに汲まれぬであろう。
 雪が降り始めた。




マルチェロと罪

幼時 :迫害(罪)を身に受ける
少年―邂逅:被迫害者としての傷からの回復過程をいかに生きたか
邂逅―青年:被迫害者から迫害者への変質をいかに生きたか
サヴェッラ・ゴルド:法王の殺人、大量殺人を犯す
その後:罪人としての生をいかに生きるか


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- 2005年03月07日(月)

祈らぬ男:

 マルチェロはもはや問わない。罪は彼のものであった。それはよりどころでありかけがえのないものであった。どこにもない故郷のように近しく、かつてあったことのない伴侶のように手放しえぬものであった。
「いかにも私は罪を犯した。裁くがいい。
 私はいかなる救いも許しも求めぬ。生きてきたように死ぬ」
 あるものはその言葉を不遜といい、あるものは罪だと言った。だがそうした言葉はマルチェロに届かない。彼は断崖の果てに行くことを決めた。この世にはもう願いも望みもない。かかる橋もない胸壁のごとく孤立している。この男は生きながら死んでいるのだと、年老いた僧侶の一人が言った。

 闇の中に星の形して五本の蝋燭が浮かび、中央に縄打たれたマルチェロが、それでも頭を掲げて立っていた。彼はこれから起きることを全て見ることを強く決意している。
 低い呪詛が高い天井に響き始めた。蝋燭を掲げる五人の枢機卿がしきたりに則り、人々の永遠の営みと彼らの魂の救いから穢れとみなしたマルチェロを切り離そうというのだ。それが迷信であろうとなかろうと、そう決意するに至るまでに多くの心が要した逡巡と議論がそのまま儀式の真実であろう。古い聖堂の窓は塗られ扉は閉ざされ、はるかに離れた村ではこの恐るべき儀式の恐怖があふれ出さぬよう鐘を立て続けに鳴らしている。
 長い長い呪詛が終わった。燭台の石突が石の床に叩きつけられ、炎が震えた。だがマルチェロはわずかも揺るがぬ。ことさら老いた声が。
「魂は失われた。かつてマルチェロと呼ばれた魂は失われた」
 まだその響きが大気中から失せぬ間に、四つの声が唱和した。
「悲しみとともに我らは証する。もはやなし」
 一斉に炎は吹き消され、闇が落ちた。

 石突を突いて、足音が遠ざかり始めた。マルチェロは口を開いた。
「私は死んだ。だが真実はとうに死んでいた。
 神に願うことがあれば一つだ。そうとも、生まれなどせねばよかった!」
 答えはない。これより先、人の世にマルチェロは存在せぬ。誰もその声を聞いてはならず、その目を見てはならず、触れられても応えてはならない。この古い教会も五人の老僧の退出の後に塗りこめられる。
 そして再びマルチェロは自らの発言通り死者のごとく沈黙し、言葉を発することはなかった。闇は百年を超えてなお深く暗くこの家に落ちた。






6日付のものとセット。
罪をいかに生きるか。例題1と2って感じ。
もっといろいろ書き出さないと。


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- 2005年03月06日(日)

祈り(マルチェロ):
神よ、私と私の罪はわかちがたく結びついています。

行くところすべて影のごとく私の罪は私に従い、
善悪を問わずすべての行為と思索は罪につながれています。

私は他者の血をして我が躓きの石と呼ぶ傲慢を拒むものです。
その取り返しのつかぬ悲嘆を通らねばならぬという救いを望まぬものです。
しかし許しを得ていましばし、この世界に留まりたいと願う、
その理由もまた、私はこの手のうちに持っているのです。

ああ、神よ。
誇りを捨て去り、心よりあなたに祈ります。

貧困と困窮に幼かった私を残して逝かざるをえぬことを哀しんだ母を、
孤児であった私を慈しみ育てこの額に惜しみなく祝福を注いだ老人を、
罪ある私のために夜毎祈る言葉を捜すこの半血の弟の想いを、
どうか神よ、哀れみたまえ。

我がゆえにあらず、ただこのまことある人々のゆえに、
神よ、この罪ある手に慈悲を垂れたまえ。


対話:
 ククールは兄の座る寝台の脇の椅子にかけて、古びた祈祷書の項をめくる。それがここのところ、兄弟の眠りの前の習慣となっていた。
「そりゃ、あんたが朝の祈りを好きなのは知ってるけどよ、今は夜だぜ?」
「いいだろう、別に」
「そうだけどよ、たまには終末聖歌にしないか?」
「おまえの好みだろう、それは」
「いいだろ、別に」
「いや、だめだ」
「なんでだ」
 マルチェロが微笑した。ククールは結局のところ、兄には弱い。唇を尖らせて譲歩し、祈りの召集歌を代案として提案する。兄は同意し、先に立って韻律豊かな祈祷を詠み始めた。全ての祈りを暗記しているマルチェロには祈祷書は必要ない。文面を追うククールの方がよほどおぼつかなく聞こえる。
「なあ、兄貴。へんな話だが、俺たち、就寝の祈りを唱えたことはないな」
「そういえばそうだな」
「あんたも提案しないし、俺もしようって言わない」
「そうだな」
「もうほとんどの祈りは一緒に唱えたのに」
「どうしてだ?」
「そりゃね、俺は寝る前には一人で祈る必要があるんだよ」
「奇遇だな、私もだ」
「何を祈ってる?」
「おまえはどうだ?」
「言わないさ」
「私もだ」


祈り(ククール):
どうか神様、お願いです。ああ、お願いです。
兄貴を取り上げないでください。行かせないでください。

この手で俺はたくさんのことをしました。
そん中にはいいこともあったはずです。
もしほんの少しでもあんたの心にかなったことがあったら、
どうかあいつを許してください。
他にはなんにも、俺はいらない。

あいつが犯した罪が大きすぎるというのなら、
その半分は俺のせいだから、俺にまわしてください。

そんだけです。そんだけです、神様。
あんた、俺らの両親も院長のじいさんも救ってくれなかったんだから、
これっくらい聞いてくれたっていいだろ。あ、今のうそ、うそ。
聞いてください。お願いです。


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- 2005年03月05日(土)

基礎編:
 マルチェロとククールは向き合っている。不穏な空気をかもし出す二対の瞳の間には、湯気を上げるスープがある。つまり問題はそれであった。
「なんで、俺の、スープが、飲めない、んだ?」
 一語ずつ区切って強調するククールを、マルチェロは真っ向から睨んだ。
「飲めないのではない。飲まないのだ」
「ふざけるな!」
 怒り狂ったククールの投げた枕が寝台に座るマルチェロを直撃した。


  実はスープは魔界産フエフキトビガニのようなお味で、
  飲めるような代物ではなかったが、「飲めない」と言っては弟が
  傷つくだろうと配慮し、あえて「自分のわがまま」を装って
  飲まないと答えたというオチ。しかし攻撃には反撃するのはもちろん
  で、兄弟仲はますますこじれる。
  つまりちょっと間違ったやさしさの持ち主なんだという話。




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- 2005年03月04日(金)

とてもストレスフルな状況にある。しかも誰のせいでもない。
私は私の子宮が嫌いだ。


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- 2005年03月03日(木)

 夢の中で。暗い夢の中で。
 棺は全方位に列なして並び、その果ては闇に消えている。罪はかくのごとく前に置かれた。
 夢に確たる文字があるわけではない。だが棺のひとつひとつには名前が打ち付けられ、人生からちぎりとられた人間のあったことを告げる。半ばで絶たれた喜びあるいは悲しみ。では告訴人として断罪するのはそれらすべてのありえたかもしれぬものどもだ。そうだ、母もこのようにして死んだとマルチェロは考える。オディロ院長も。奪われちぎり取られ、死んだ。己がその死を悲しんだように悲しんだものが幾人いたか。では残されたものたちもまた告訴人として法廷に立つのか。己が裁き手であれば火刑か磔刑を言い渡すだろうと考える。
 マルチェロは静かに歩き始めた。棺並ぶ暗がりは柱もなく壁もなく、ただ寒々しく広がってゆく。腰に下げる剣も常に身に帯びていた金の飾り環も地位を示す指輪もない。廃された王のごとく粗い麻の衣を着て歩む。歩むうちにふと胸苦しい爽快感に駆られた。
 ――思えばすべての日々は夜だった、すべての季節は冬だった。
 だが朝を望んだことも、春を願ったこともない。営々と積み重ねてきた願いが崩れ果てた今更、願うはずもない。冷徹な足と頭が望むのは、いかなる慈悲も請わず受けぬと遠い昔に決めたとおりに死ぬことだけだ。生きてきたように死ぬことを。絶壁の果てまで歩むことを。つまりそれが、すべてが過ちであった証左に他ならない。
 母のいまわの言葉は己の幸福を願うものだった。オディロ院長はこの額に祝福を与えた。だが当の本人は生に背いて過ぎ去ることのみを願っている。失敗したのは誰なのですか、と、マルチェロは記憶の中の二人に尋ね、死者は黙して応えない。
 夢のうちにいつしか棺の列さえ失われ、影は目の当たりに広大に沈む。かつて朝を知らぬ永劫のひとつ夜、目覚めぬ眠りさながら暗たんとして。あるいはすでに死に、ここは果てなき地獄のうちのどこかだというのかとさえ疑われた。だがマルチェロはいぶかった。膨大な虚無の奥底から、聞こえてくるものがある。音か、声か。聞き入った耳に。

  目覚めよ、夜の闇は去り行かんとす。
  見よ、力強き方の御威稜は天に示されぬ。

  地平を破れるは曙光ぞ。見よ燦爛と露は輝く。
  これぞ奇跡ならんや。夜は今ぞ明くる。

  新たなる朝ぞ、喜びに満ちて祈れ。
  太陽は今し楽の音のごとく新たに生まれ出でり。

 声は最初は闇に呑まれるほどにかすかで弱々しかったが、耳を傾けるうちにいよいよ力を得て音楽性を増し、最後のくだりは天使の群れの合唱のごとく天地を震わせた。美しい歌だとマルチェロは思った。そうだ、マイエラの朝ごとにこの歌が歌われ、昇る太陽に飾り窓のひとつひとつから色彩鮮やかな光が奔騰しつつ堂宇を満たしゆくさまは、院長席の横からよく見えたものだ。新しい孤児が入り、己が騎士団の見習いとなったためにその場所を長くは占めはしなかったとはいえ、どうしてあれほどの美しさを忘れていられたのか。
 凍えた手が温められて血の通うよう、多くの美しいものの幻がふいにマルチェロの心に立ち戻ってきた。多くの朝が、また春が。母がふたたび笑顔と若さを得て初夏の庭に立ち、高い声で呼ぶ声さえ聞こえた。マルチェロはわずかに笑い、それからあらためて母を悼み、オディロを悼んだ。
 マルチェロは気づいた。闇は薄れ、今や明けつつある。見上げれば天空は薄青い色をしている。これは犯した罪の色だ、と、マルチェロは思った。




諸般の事情によりHPがなくなりました。
すべて私が悪いんです。
緊急避難先は下の通り。

http://tarouame31.nobody.jp/


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- 2005年03月02日(水)

あっはん。


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- 2005年03月01日(火)

うわ!


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