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終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2005年01月29日(土)

 俺はこんなことを望んだのだろうかとマルチェロは自らに問い返す。きしむ肌とうめき声。際限もなく肌を探る指とこすりつけられる熱い手のひら。どことなくなにとなく体はすりあわされ、他人の臓器に体の奥を探られる異様な興奮に精神をおかされる。
 そんなことを本当に俺は望んだのかとマルチェロは問い返す。寝静まった修道院の夜半、高い塀に囲まれた空き地に立って。裸身にうすものを引っ掛けただけの体はまだ熱を帯び、冬の厳しい寒気も少年の域を脱し始めたばかりの痩せた体に牙を立てない。月光は無残なまでに明るく、その光はマルチェロを陰影で彩り、厳しくうつむく顔を照らし出した。
 体の奥から熱の名残はしとどに溢れて足を伝う。いっそ手荒に扱われればよかったと、マルチェロは騎士団長の愛撫の手際のよさを憎む。苦痛になら嘲笑になら耐えるのはまだ難しくはない。少なくともなれている。だが年配の騎士の愛撫は巧みで熱に不慣れな体はたやすく翻弄された。あげた声、示したしぐさを思いかえすことこそ耐え難い。
 徳高い院長オディロは、実務面に限っていえば無能といってよかった。代わって院内を取り仕切る騎士団長は温厚で金銭についてはおおむね潔白であり、衆道の悪癖に染まっているという欠点はあるものの、修道院を率いるに足りるとみられていた。またその悪癖も、男ばかりの集団生活とあって必要悪として認められる程度のもの。稚児を手篭めにするわけでもなく、秀でたものをそば仕えとして親身に育てる態度には賞賛さえ向けられている。
だがマルチェロは、その申し出を長い間断り続けていた。オディロの庇護の下、静かに学び静かに生きること以外には望むことなどなかったからだ。そのことで別段冷ややかに扱われることもなかった。一介の修道士として生きていくのだと信じていた。
 そうだ、信じていたのだ。銀の髪の子供が来るまでは。オディロの部屋の、彼が座っていた低い木の椅子にその子供が座り、彼がそうしていたように安心しきった顔で老院長と他愛もない会話を交わすのを見るまでは。息が詰まるほどの恐れとともに自問したのだ。 また逃げねばならないのかと自問したのだ。また魔物の恐怖に怯え、飢えの恐怖に震えてあの長い闇をひた走りに走らねばならないのか。今度こそ救いはない。
 牙を手に入れるのだ、爪を。放逐されるのではなく、放逐しよう。傷ついた獣のように震えながら自身に語りかけた。奪われるのでなく奪い、傷つくのではなく傷つけるものになるのだ。誰にも利用されず誰にも支配されないものにならなければならない。
 月光が降ってくる。マルチェロは重い体でたどりついた空き地の隅の井戸をのぞきこむ。深い闇の底の水面から同じ顔が見返してきた。しばらくその顔を見つめていたが、ふいに地面から己が体を引き剥がすようにして立ち上がると、つるべを引き上げて、汲み上げたままの氷のように冷たい水を全身に叩きつけた。一度、二度。千の針を突き立てたような冷たさは、繰り返すうちに感じなくなった。震えているのは寒さのせいだ。体の芯に残る熱が消え、ぬめりがすっかり消えてようやく、マルチェロはその手を止めた。



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- 2005年01月22日(土)

 ―恩寵なるや。

 マルチェロは一分の隙もない。少なくともククールの見る限りはそうであった。武芸に秀で学問に長じ、それゆえ誰にも一目置かれかつ傲岸不遜。燃え盛る炎さながら頭を掲げて歩む様子は辺りを払い、善悪を超越した抗いがたさがあった。
 オディロは早い時期からマルチェロの中の高慢を危惧していた。しかし自身が親代わりをつとめた少年の才能と勝ち取った華々しい人望はこのお人よしの老人にとって大いなる喜びであり、背中を押してやろうと思わせるものでもあったろう。あるいは最初にククールが耳にしたとおり、オディロは時が解決する―すべて起きねばならぬことは起き、だがのちにすべては良くなる―とのある種冷厳とさえいえる哲学から沈黙を守り助力を請われれば与えたのであろうか。
 いずれにせよマルチェロは騎士団の幹部候補としてサヴェッラでの研修を終え、ゴルドへの巡礼を果たし、次期騎士団長としてマイエラに戻って今は実権の半ばを握る。一方ククールは騎士団の末席に加えられこそしたが、真面目に勤める気はなく与えられた日々を酒と女に紛らわす以外に気晴らしを見出せない。

 馬車は行く。ああそれで、と、ククールは考える。俺は何を待っているんだろう。根城の洞窟の奥に行き付けなかった伝説の島への海図を隠した海賊は何を待っていたんだろう。銀髪の尖った耳の月の眷属はあの不思議な空間で何を待っていたんだろう。待っているんだろう。ああ海が砂漠に変わるまで長い長い時を陸地に過ごし続けた船は。邪悪を血をもて封じられた杖は。異世界を行く鳥は。
 ああ誰もが何かを待っていた。待っている。そうしてそれがなにかわかっていないものも少なくないはずだ。ならば俺は。―ならば俺は。マルチェロ、俺は何を待っているんだ。あんたが死ぬ日をか。その日には俺はきっと泣けようから。それともほかの何かか。あんたが笑みをたたえて振りかえってくれる日をか。そんな日にはきっと、俺はどうしていいのかわかるまい。だから生きている。

 石の家は夕暮れを迎えている。崩れかけた窓から入りこむ光は長く伸びた。すべての光が荘厳さを感じさせるのはなぜなのか。マルチェロはそこに立っている。燃え盛っていた炎はとうに消えた。翡翠の目はうつろに開かれ、乱れた髪は頬に落ちている。待っていたことはもう起きたのではないのかと、ククールは考える。なるほどあれほど多くのことが起きたのだ、その中にはククールが待っていたことも混じっていたのかもしれなかった。ただそれが何だったかわからないだけ。
 兄貴、と、ククールは呼ぶ。マルチェロには聞こえない。ククールは声を出しては呼ばないからだ。マルチェロは影のごとく石の家を横切り、扉から出て立ち去った。残されたククールはまだ生きている。黙って。








だめだろう、もう…。
同じところをぐるっぐる回ってます。もうだめだろう。
とりあえず進展しない兄弟だから。兄は廃人、弟は優柔不断。
コミュニケーション不全の永遠旋律を基調に果てしなく沈む。
しずさん助けて!

それでもってなぜ雪国かっていうと宇都宮が寒いからだ!コンチクショー!
日課は毎日マルチェロ狩り(ヲイ)。ええそうですストックしてますセーブデータ。


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- 2005年01月21日(金)

 沈黙は夜明け前の雪原にその翼を広げている。風は吹かぬ。雪はやんだ。
 細かな雲がいくらか地平のあたりにわだかまるほかは天は晴れ上がっている。東の果てはもうよほど明るい。だが太陽はまだ地平よりいくらか下にあり、天地はぼんやりとした黎明の青白さに染まっている。影の生まれる前の時刻であった。
 マルチェロは音もなく歩く。凍てついた大地は足元で崩れもせず軋みもしない。マルチェロその人のごとく。寒さに色あせた頬に額に黒髪は流れ、緑の瞳は虚ろ。希望を持たないものには朝もまた夜の続きにすぎぬと賢者なら言ったか。ならば夜を歩むがごとく。マルチェロは朝のはざまを歩いてゆく。
 ――世界の影は、その身うちにあるのであろうか。


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- 2005年01月20日(木)

 この手からこぼれ落ちてしまうな。頼むから。目を閉じてうなだれるククールの背後を規則正しい足音が過ぎ去っていく。結局のところククールは何一つ望んではいないのだ。その男が生きてどこかにいさえすれば。
 いやそれは嘘だ。ククールは自分が立ちあがりたいことを知っている。追いかけて好きなだけ疑問とも繰言とも非難とも懺悔ともつかぬ言葉をぶつけたいのを知っている。ただそうできないだけだ。怖くて。あまりにも怖くて。
 そうだ、怖いのだ。そのあたりの魔物も人間も一撃で仕留める腕と魔力を持った自分がいったいなにを今更こんなとぼけた男をと思わなくもないが。それにしたってこの男に嫌われることだけを畏れてながいこと生きてきたのだ。仕方がない。
 声をかけて無視されたら、それだけで傷つく。冷ややかな視線を向けられたら。短刀のように手厳しい言葉で打ち払われたら。考えるだけで身がすくむ。そのあたりの乙女じゃあるまいしと自嘲したって怖いものは怖いのだ。仕方がない。
 だけどあんたが足を止めて振りかえってくれたなら。こちらを見てくれたなら。もしかして偶然にも笑みが唇の端に残っていたりしてくれたら。
 ああそれだけで。俺は十年ばかり生きていけるだろう。それだけ。





……いつか進展があるんじゃないかと思っていたが…ムリ…か…


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- 2005年01月19日(水)

見よ、天は力ある方の怒りに震えている。
雲は引き裂かれ空は血のごとき赤に染まる。畏れよ。
罪人が世界の外に投げ落とされるときがきた。ホサナ。

 マルチェロは丸天井の聖堂のその壇上に立つ。堂宇に修道士は居並び、威嚇するような聖歌は湧きあがる雲のように空間を埋め尽す。マルチェロは歌わない。彼は歌が嫌いだ。人の口から出る声にすぎないはずのものが、重なり溶け合って響けば人のものならぬ厚みと荘重さと哀切を帯びる。マルチェロはそれが好きではない。
 人は人に過ぎぬ。声は声に過ぎぬ。いったいなにほどのことがある。マルチェロはひそかにうそぶく。だが歌わない。できれば聞きたくもなかった。罪人を打つ神の裁きの恐ろしさまた迅速さを歌い上げる終末聖歌が彼は嫌いだ。罪を犯すまえに助けられなかった神が何を裁くというのだ、と、マルチェロは苦々しく思う。

裁きの日はきた。畏れよ、罪人。
山々は大地から毟り取られ、星々はほつれ落ち海は乾きに乾いた。
地獄は貪欲な口を開き地の穢れを底ぐらい腹の奥に飲みこんだ。ホサナ。

 マルチェロはただそこに立ったまま見ることと聞くことをやめた。彼は半ば無意識にそれをすることができる。胸の中の教会組織のありふれた謀略に視線を注げばいいだけだ。それで見たくないものも聞きたくないものも遠ざかる。結局、それは常に他人が周辺を徘徊する修道院では不可欠の能力であったし、だからマルチェロがその方法を身につけていることに不思議はまったくなかった。
 マルチェロは石像のように壇上に立つ。その目は聖堂を埋め尽す修道士たちを見ない。その耳は激しさを増す歌を聴かない。それが利口と彼は思いこんでいたが、そのようにして見逃すものが多いことには思い及ばない。歌はその調子を変えた。

万軍の主を畏れよ、その拳によく耐えうるものなし。
ホサナ、右手の人々は喜びに満ちて立ち出で、御前にぬかずく。
千年の白き日に続く夜明けは今ぞ東の地平を飾れり。ホサナ。


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- 2005年01月18日(火)

 太陽にまさる光輝ありや、天にまさる高みありや。
 祈りに集え、霊の家に集え。ホサナ。

 習い覚えた聖歌を口ずさみ、ククールは雪の林を歩く。小暗い針葉樹の陰が青白い雪に映え、絶え間なく降り続く雪が空間をほの明るく照らし出す。このような風景がいったい人間の精神に異常を来させずにすむものなのかとククールは考える。
 この風景はこの世のものなのか。この夜はこの世のものなのか。物狂おしく胸騒がせる風景ではないか、あまりにも。あまりにも。誰かの名を呼びたくなる。人間は営々と耕し沈黙と魂の平穏を抱いて生涯を終えることもできる種族だというのに。なのになぜこんな、そらおそろしいような風景を大地はまとうのか。狂えというがごとく。

 ホサナ、ホサナ。

 自分がいったいその男の何をこれほど思慕しているのか、ククールにはわからない。あるいは思慕しているのかどうかさえ。わかっているのはつまりそうだ。彼にはほかの誰でもなく兄に言わねばならぬ言葉があり、ほかの誰でもない兄から聞かねばならない言葉がある。少なくともそう信じている。それだけだ。
 だがそれはいつか叶うのか。ククールにはわからない。あるいは叶わないのか。そうかもしれない。だが叶えたいという願いばかりは消えまい。奇妙だ。どうして自分は天に向けて手を伸ばす茨のように、望みを抱いてやまないのか。
 ああ奇妙なことだ。

 来れ、祈れ。ホサナ。
 永遠の主はもろ手を広げ、御家に我らを迎え入れたまえり。
 揺るぎ無き庇護と許しのもと祈れ。ホサナ。


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- 2005年01月17日(月)

 阪神大震災の被災者の方々に捧ぐ。
 どうかこのすべての祈りが、風となって、あなたがたの頬に触れるよう。


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- 2005年01月16日(日)

 なんだかよくわからないものを数日にわたって書きなぐってしまった…。
 なにをしたいのかわからないのは私か。私だな。うん。
 とりあえずドラクエシリーズ愛好家として、8はちょっとシビアだなと。
 子供向けソフトのくせに死人とか汚職とか腹違いとかネタ出していいのか…?

 ちょっと面白いなと思ったのはマルチェロとククールの腹違い兄弟の僧侶騎士。兄貴のマルチェロが若くして聖堂騎士団という修道院付き騎士団の団長になっているのに比べ、ククールは兄に反発し酒場で女と酒とトラブルとギャンブルの日々。嫡出のククールの誕生でマルチェロが冷や飯食ったという背景があるため、マルチェロはククールに対し大人気なく嫌悪感を剥き出しにしている。一方、ククールは表向き反発してはいるが、兄に対する愛着は捨てきれない様子だ。
 二人の親代わりとなっている修道院長オディロが殺害されたことから、この二人が物語にからむことになる。オディロはまだらボケのような気配だが、マルチェロにとっては唯一頭の上がらない相手であり、ククールにとっては折り合いの悪い修道院内で唯一、愛情の通う相手である。兄弟にとってかけがえのない存在であるとともに、二人が反発しあいながらも修道院に留まり続ける理由でもある。
 そのオディロの死によって、マルチェロもククールも影響を受けずにはいられない。マルチェロは権力欲に走り、ククールは旅の一行とともに出奔する。長いあいだ止まっていた時計が一気に進み始めるような感さえある。二人はともにオディロの仇を討つと言うが、その向きはまるっきり逆方向だ。

 さて、ここから先はネタバレになる。二人の道は再び交わる。それは上り詰めたマルチェロが法皇に即位するその壇上であり、追跡の旅を続けてきたククールが追ってきた魔の杖があるところである。杖はマルチェロの手の中にあるからだ。
 こっから先はいわずと知れているので特筆する必要もないと思うが、オディロの死から再会までの経路が逆方向ながら重なる部分が目につくので考察していく。

 マルチェロは檀家から寄付という名で搾り取った金を武器に、大司教に取り入り、教皇の近衛隊長とでもいうべき地位に上る。さらにたまさか手に入れた杖の魔力を利用して法皇位につく。…ゲームだけ見てるとよくわからないが、多分、途中で、聖堂騎士団長→修道院長→教皇近衛隊長?→枢機卿?→法皇、くらいの段階は踏んでいるんじゃないだろうかと思われる。有利な条件は献金システムと化した大修道院を地盤に持っていること。不利なのは不義の子の血筋。
 彼を突き動かすものはなにか。檀家から金を搾り取り、武力で圧力をかけ、気前よく賄賂をばらまく。悪事とはいえ、武力革命みたいな単純なものとは違ってなまなかなことではできない。いつどこで何をするかの選択肢は無限に多く、しかも落とし穴はあちこちにあいているからだ。頭の良さとド根性と鋼鉄の意志がある。
 それだけいろいろあればもうちっとマシなことを思いつきそうなものであるが、権力にこだわる。これは出自に対するコンプレックスか。
 権力とったらなにがあると考えているのかだけがわからない。なにをしたかったのかも今一つわからない。多分、猜疑心の強い不幸な独裁者になったろう。憎悪だけで何かを手に入れなければならないという焦燥に駆られることもあるのだ。
 別離から再会までという物語に登場する期間は、マルチェロにとってある意味とんとん拍子な時期であったが、同時に混迷深まった時期ではないだろうか。で、彼がそれにどういう形で決着をつけたのかは語られない。マルチェロはどこにもいなくなる。この広い世界のどっかにいないのかチクショー! 妄想しほうだい。

 ククールはこんど。めちゃねむ。


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- 2005年01月15日(土)

 祈りを、ああどうか祈りを。
 マルチェロは思い出すことがない。マルチェロはゴルドの夜を思い出すことがない。晴れの式典を朝に控えて左手に掴んだ杖からしんしんと染み出す温度のない冷たさを、その中で指先から死んでいくような長い闇の時間といつからか訪れもせずまた望みもしなかった眠りを。もはや理由すらない野心と支配への嫌悪、それでもなおわが身を駆りたてる悪意に似た意志を。どこか遠くどこか深くで何かにあるいは誰かに救いを求める声を。それはほんとうにあったことなのだろうか。
 マルチェロは思い出すことがない。マルチェロはサヴェッラの夜を思い出すことがない。朝は夜のように始まり夜は夜のように続いた。法皇を憎んだのはその老人が壮麗な館の中で満ち足りていたからだ。誰もに愛されていたからではない。誰もを愛していたからだ。マルチェロその人をさえ。憎まれるならいい。憎しみならありふれている。だが愛は。そんなものは許すわけにはいかなかった。違うか。だがそう呟いたマルチェロは過去のこだまだ。もはやない。
 マルチェロは思い出すことがない。マルチェロはマイエラの夜を思い出すことがない。しんしんと降る雪のように降り積もった日々を。我が身を呪うように我が身に課した憎しみを。すべての善を悪にした我が身の悪意を。そうとも彼の悪意は彼の善行のすべてを汚し、それゆえ彼は世界と銀髪の弟に対すると同様、己が身をも激しく呪った。激しく激しく呪った。その呪いが彼のすべての行為を決めてきた。だがそれももはやない。もはやない。もはや。
 マルチェロは何一つ思い出すことがない。マルチェロの魂は今、石のうちにある。やがて目覚めることがあるのかは誰一人知ることがない。おそらくは神以外には。そして彼の足は雪を踏み、赤い服の少年の横を通り過ぎていく。木漏れ日は雪の上にまだらに落ちて青白く輝いている。青白く。


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- 2005年01月14日(金)

 それで俺はどうしようっていうんだ、と、ククールは途方に暮れる。マルチェロは長い祈りの中にいるように彼を省みない。その緑の目にはククールは見えてはいまい。そもそも見えていたことなどあるのだろうか。声もまた。どのような手がこの男に触れられるのだろうとククールは自問する。そもそもなぜ自分が石の家から出て行かないのか、ククールにはそれがわからない。わかっていたことなどない。
 こんな状況がそういえば昔もあった、と、ククールは考える。修道院にたどりついた当初だ。兄とは知らず(オディロはすぐには教えなかった)出会ったときのやさしさを忘れられずに近づけはしないまま少し離れてうろうろしていた。今だってあのときと同様、自分が何をしたいのかなんてわかっちゃいないんだ、くそ。ククールは雪を踏む。院長、助けてくれ。俺は破裂しそうだ。なのにどこへも行きたくないんだ。ここにいたいんだ。くそったれな兄貴の石の家に。ああその石の心を。
 ククールは雪を踏む。松の幹を殴り杉の幹を殴る。雪は落ちて頭上に降り髪と服と肌を凍らせる。祈りの言葉を呪いのように吐き捨てた。時を巻き戻す術はなく起きたことをなかったことにする手立てはない。それがどうしたとククールは叫ぶ。それでもこれから何かをすることはできるはずだ、傷を消せずとも癒すことは。かつてはできなかったことも今はできるはずだ。その手立てが見出せれば。
 ああその石の心を。ククールは雪の上に体を投げ出した。もうすぐマルチェロがここを通るはずだ。時計のように正確に一日を勤行に費やす男が。あの緑の目をつぶしてやったらどうするだろうかと物騒なことを考えながら、ククールは目を閉じ、黙って足音を待った。雪を踏む足音を。


DQ8、ククール×マルチェロ……って嘘だろと思う人。(挙手)


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- 2005年01月11日(火)

雪の朝の野はあまりに明るく、マルチェロの黒髪は現実感をなくして一枚の絵に似ている。厳しい面持ちの中で、緑の目は隠しようもなく虚ろ。以前のマルチェロの影のようだ。そうとも影だ、と、マルチェロは自嘲する。したいと思うこともするべきこともなくただ今日と明日とを生き延びる私は以前の私の影に過ぎない。
 だが実際、と、マルチェロは考える。形ばかり祈る手に髪に肩に背に、雪は冷たく清潔に落ちてくる。だが実際、私は何かをほんとうに望んだことがあっただろうか。私がしたいと思っていたことは、本当に私のしたかったことだろうか。名誉を権力を富を力を矜持を罪を罪なきものの殺害を、私は望んでいたのだろうか。それともそれはただ後ろから追いたてる声に過ぎなかったのだろうか。
 マルチェロは声を立てない。ただ一人きり石の家に住むものに声がいるはずもない。何一つ願わず何一つ望まぬものに言葉が必要なはずもない。石の家に住み始めてから、次第に石のように孤独に石のように外界に隔絶するマルチェロの内部で、なお問いばかり廻っていた。時折皮膚の外側に垣間見た風景は驚くほどの早さで過ぎ去っていくようだった。いつからかその風景のところどころに赤い影がのぞくようになったが、マルチェロはぼんやりとそれを意識するのみでその意味や正体については考えてみようともしなかった。なぜ考える必要があるだろう、マルチェロは石だ。あるいは人はこのような状態にあるものを狂気と呼ぶのかもしれなかった。
 そもそもの始めから私は石でなかったのか、と、マルチェロは考える。そもそもの始めから今まで、私はここにこうしていたのではないのか。豪奢を極める法王の館も壮麗な聖堂も人間たちも権力も罪も名誉も富もどこかよそで誰かに身に起きたことにすぎないのではないのか。私はいつもこうしてここにいたのではないか。そうしてどこにも行けないのではないのか。
 ―だが私はどこかに行こうとしたことがあったのだろうか。
 その問いを最後にマルチェロの問いも止まった。型どおり時間通り勤行する手足ばかり残り、時節にあわせて正確に流れる季節だけが残った。




*DQ8。ククール×マルチェロ。なんつーか自閉症め。ククール哀れ。


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- 2005年01月10日(月)


 雪の朝の野はあまりに明るく、マルチェロの黒髪は現実感をなくして一枚の絵に似ている。厳しい面持ちの中で、緑の目は隠しようもなく虚ろ。以前のマルチェロの影のようだ。
 ククールがマルチェロを見出したのは偶然だった。それとも必然だったのだろうか? 仲間と別れて三カ月、季節が夏から秋に変わるに十分な時日探しつづた。人里離れ、見捨てられた石の家に行きついたのは確かに偶然だったが、探していたのは隠れもなく本当だ。見つけたマルチェロは少しばかり痩せ、相変わらず背高く、そして言葉を失っていた。なにがマルチェロから言葉を奪ったのか、ククールにはわからない。
 あるいはマルチェロは、ただ言葉を口にしようとしていないだけなのだろうか? 十年来嫌い抜いてきた(そして意に反して命を救われた)弟に向けて口にすべき言葉を見出せないだけなのだろうか? それも十分にありそうなことだ。だから断りもせずマルチェロの家に住みついたのは半ば以上まで嫌がらせだといっていい。
 権力にこだわり地位と名誉にこだわり野心強いマルチェロが、放逐の身となったとはいえどうしてこんな辺境に住みついたのか、ククールにはわからない。広くもない石の家で互いの存在を避け続ける奇妙な同居を始めてから、ククールはマルチェロについて真っ向から考えた。それまでもマルチェロのことばかり考えていると思っていたが、なんのことはない、マルチェロにあしらわれる自分のことを考えていただけだと知った。だがそうと合点し考えてみたところでそうそう結論など出るものではない。気づけば秋は深まり、わずかばかり残っていた木の葉も散って、雪と氷の季節に到った。
 それで、俺はどうすりゃいいんだ、と、ククールは考えた。マルチェロは粗末な毛織の服に荒縄の帯という修道僧のいでたちで朝の勤行の最中だ。雪に膝をつき、なおも降り続く雪に髪を凍らせたままロザリオを握り締め、それでいて寒そうな顔も見せないのだから嫌になる。マイエラ修道院の管理の行き届いた館での生活も、サヴェッラ大聖堂の贅を尽くした白亜の館での日々も、影響を及ぼさなかったのか。それこそ奇妙ではないか。その手を血に汚してまでこの世の栄光を欲しがった男が。
 それともそうではなかったのだろうか。ククールは毛皮のフードに首をうずめなて考える。兄貴は権力も名誉も本当はいらなかったのだろうか。殺人の罪は別のことのために犯されたのだろうか。この男は本当のところ、野に生き野に死にそして何一つ気に病むこともないような性質の男だったのだろうか。あるいはそうかもしれない。だがそうと信じるのはあまりに安直すぎはしまいか。たまに人間離れする兄貴だって、結局のところ人間なのだ。富も名誉も地位も賞賛も欲しいだろう、それらに恵まれなかった者の常として。
「……」ククールは考え事に飽きた。自分がいないように振舞う兄の無言にも日々繰り返される隅から隅まで隙のない勤行を見守るのに飽きた。ククールは立ちあがり、足音を消そうともせずに祈りを捧げるマルチェロに近づいた。
「なあ、俺は頭悪いんだ。それに回りくどいのは性にあわねえ」ククールは言った。
「あんたなんなんだ。何がしてえんだ、何がしたかったんだ。俺のことどう思ってんだ。どう思ってたんだ。言えよ、兄貴。頼むから言ってくれ」
 答えがあるとは思っていなかった。反応だって期待してやいなかったとも、くそ。ああ、あんたは何に祈り、何のために祈り、どうして死ぬこともせずにそこにいるんだ。ククールは声にも出さずに叫んだ。雪は黙って降ってくる。これだっていつものことさ、と、くそ面白くもなくククールは胸の内で呟いた。






*DQ8。ククール×マルチェロ。どうせマイナーだよ。


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- 2005年01月08日(土)


1:
 王子は左手を下に横たわったまま、耳を済ましていた。部屋を横切って近づいてくる足音がある。片足を軽く引きずる足音は、確かに従者ハスンのそれに違いなかった。老齢に近いこの丸々と太った黒人奴隷は王子が幼いころからの世話係である。乳母の手を離れた日からもっとも身近であったといってもよい。
 ハスンが右膝を痛めたのは、王子が五歳の時だ。乗っていた駱駝が不意に暴れ出したのを引き止めようとし、手綱をつかんだまましばらく引きずられたのだ。鋭い石に削られて裂け、白い骨までのぞかせた膝から血が流れるのさえそのままに、この太った無学な奴隷は泣きじゃくる王子を腕に抱えてあやしたものだった。そして王子が十二歳の誕生日を迎えた今日でも、ハスンは―やたらに迷信深いところを除けば―もっとも信頼に値する忠実な従者であった。
 王子を起こすのはハスンの毎朝の仕事だ。最近では、王子は片足を引きずる足音だけで目を覚ます。だが、よほどのことがない限りはハスンの職務をまっとうさせてやることにしていた。“神かけて、王子様。すっかり体が溶けて寝床にくっついてしまっていないところを見せてくだっせ”。独特の抑揚をつけた目覚ましの文句は王子の覚えているかぎり判で押したように決まっていた。
 だが今朝は様子が違うようだ―と王子は考えた。身じろぎもせずに横たわり、足音はどうやら寝台の枕元、卓子の横あたりで止まり、近づいてくる気配がない。常時の習慣を乱すべきか考えあぐね、王子は薄目を開いた。
 ハスンの足が見えた。いつもの古びた皮の草履だ。太った毛だらけの足だ。だが奇妙なことに震えている。せわしなく往来することはあっても、震えるところなど見た記憶はなかった。王子は――
「神様、おお神様、お許し下さい、お許しを」
 驚愕の向こうにむせび吼えるような声が聞こえた。体に加えられた衝撃が何か飲みこむまでに一秒もかかっただろうか。大きな太った手が王子の喉をつかみ上げ、寝台に埋めこもうとするようにすさまじい力をかけてくる。喉の骨が軋み、起きていることの衝撃が実際の苦痛に勝って視界を眩ませる。目を血走らせ、口の端に泡を浮かべるハスンの顔は地獄から立ち戻った悪鬼のようだ。
 右手は夢中で動いた。
「――」
 血走ったハスンの目がなおさら大きく開いた。その目が何度か瞬くのを王子は見た。太った顔から今にもこぼれ落ちそうなほどぎょろりとむき出された目玉は何度か瞬き、不意に反転した。それと同時に喉のあたりから圧迫が消えた。
 さんざんに咳き込み、王子がようやく我を取り戻したとき、ハスンは床に倒れ、すでに生き絶えていた。王子は自分の右手に握り締めたままの短刀を不意に見つけ、次いで血まみれの死体を見た。枕の下に隠してあった短刀がいつ自分の手に入り、その刃が何度ハスンの太った体を貫いたのか、王子は覚えていない。手の中の刃が分厚い生きた肉を突き通す気味の悪い感触だけが残っていた。短刀の柄に貼りついた指を震える手で一本ずつ引き剥がし、王子は刃を投げ捨てた。
 短刀は石灰で塗られた土の壁にあたって鈍い音をたて、次いで床に転がった。手も顔もぬるぬると生暖かく、真新しい血の鉄錆に似た匂いがした。王子は黙って寝台を降りた。小さな天窓から忍び入る早暁の青い光で、部屋はぼんやりと明るい。声もなく見渡した視線が古びた机の上の細い紙片を捉えた。帯状のそれは伝書鳩の足に巻きつけるために特に薄く長く作られたそれであろう。王子は指先の血を敷布でぬぐい、紙片を手に取った。
『―時すでに―公正の族は敗れ、完全は―男子の尽殺を―。―かな逃亡―』
 読み取れた文字は少なく、その意味が理解されるまでにしばらくかかった。王子は紙片を起き、黙って天窓を見上げた。四角い窓の外の空は昨日と変わらず夜明けを告げる。だが世界が王子に向ける顔はもはや昨日と同じではない。


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- 2005年01月07日(金)


0:
(あったこと、それともなかったことなのか)

私は良き魔物。一つの魂を探している。
炎から作られた我が身にかけて、唯一の神の御名にかけて、ただ一つの魂だけを。
それは、そもそものはじめから私の伴侶だった。
分かち難きを分けたもうたのは、神の御業。

(こう前置きして、その魔物は言葉を始めた)

夜の砂漠、露の滴る大地の憩いのとき、私は初めて目覚めた。
私を作るのは、輝く青い炎の奔流。
創られたばかりの私を前に、神は静かに言われた。
全ての魔物は欠けている。魂を探せよ。
かくして全ての魔物の負う宿命を、私もまた内に刻まれて生まれ落ちたことを知った。
そうとも、全ての魔物は欠けているのだ、旅人よ。
だからこそ我らは人間に纏わり、時には害を時には利を与える。
我々は、我々とは、捜し求めるものなのだ。

(私は言った。「だが人間もまた己の平安を捜し求める」
 すると魔物は笑ったようだった)

汝等の平安は汝等の内にある。だが、人の子よ。
我らの平安は、我らの外にあるのだ。

(私はそれ以上、魔物の邪魔をしようとは思わなかった。
 そこで魔物は続けた)

灼熱の陽光に焼き付けられながら、砂漠のうわべを彷徨する遊牧の民の天幕を探した。
月光の下、白銀に輝く海の面を行く船の狭い船窓から内を覗いた。
湧き出る泉のほとり、 なつめやしを育てる者たちの白い土の家に訊ねた。
豪奢を極める秘められた後宮でさえ、私の探索を逃れることはできず、
商人たちの集う市場、 騎士たちの遊ぶ馬場 、奥まった路地裏の静かな家々、
皆、私の訪問を受けなかったものはなかった。
だがどこにもなかった。私の平安、私の魂は。
嘆きは幾世紀の上に続き、彷徨は幾万の日と月におよんだ。
輝かしいこの身の青い奔流も、絶えることなき嘆きにより色褪せるかと思われた。

だが、至高の神は称うべきかな。
その前に隠されたるものなく、詳らかならざるものなし。


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- 2005年01月06日(木)



ジンニーア、冬の夕暮れが駆けてくる。
光は地平に沈む。夜は天にめぐる。
私の嘆息は白く心は沈む、おまえの足跡は見つからない。
ジンニーア、私はあと、どれほど生きればいいのか。


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- 2005年01月05日(水)

一カ月近く、ネットからほぼ落ちていた。
理由はつまりPCが全面的な修理を必要とする状況におちいったから。
それだけ。

文字で事実以外の何かを表現する能力が大分と衰退した気がする。
そういやアレだ、小説もほとんどまったく読んでいない。
年末年始と超の字のつくヒマなあいだに本は一山読んだが、
小説は「このミス」一位と評判の高かった『ダヴィンチ・コード』だけだ。
読みながら、メインのネタについて「どっかでこのネタ聞いたような」感が
消えず、「なんだったろか」と本だなをあさってみた。あったよ。
『レンヌ・ル・シャトーの謎』、まんまネタじゃないか。
しかしこの本、1980年代の出版なんだけどな。
しかも出版当初はけっこう騒がれたんだけどな。
なんで今更、みなさんこんな古いネタの本を絶賛してるんだろう。
まあ、新しい要素がないわけではないが…

しかし、なんというか。ここからネタバレになるのだが、
「キリストの血筋」というものが本当に伝わっていたとして、
対ローマという対立の図式はそれ自体陳腐なものだとしても、
その視点から見た西洋の歴史というのは非常に精神的な緊張感の高い、
一般民衆をまで巻き込む矛盾とトラウマに満ちたものだ。
そんな精神的な負荷をかけられた民族がかってあっただろうか。
近代理性の誕生にそうした過酷な相克が前提としてあったとしたら…
それは確かに、西洋“もどき”の日本人の思考の及ぶ外のものだろう。
そういう意味で、うさんくさいプリウレ文書の人々の名はそれなりに面白い。


映画は一つも見なかった。
去年見たなかでいい意味で記憶に残っているものは少ない。
「SAW」
「ハウルの動く城」
…だけ!?
(*ロード・オブ・ザ・リングは完全版で見る気だ)

本では、
「広い宇宙に地球人しか見当たらない50の理由」
「スノーボール・アース」
「遺伝子をめぐる23の物語」
「ザ・ジグゾーマン」
「死体につく虫が犯人を告げる」
「アダムの呪い」「イヴの7人の娘たち」
…かな、面白かったのは。小説がないよ(笑)


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