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終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2004年01月23日(金)

蒼白い神の家。5

 銀河系がゆっくりと移り行く。広い窓から見た銀河の鎖は銀を連ねた首飾りのように見えた。おそらく首飾りなのだろう。でなくもそれに近いものだ。ジンニーアがそれを飾る。それともその影を。青黒い闇が家の中を流れる。電話は鳴らない。
「まだ待っているの」ジンニーアが言った。「出ないのに」
「まだ待っているんだ」私は答えた。「出ないのに」
「拒絶を楽しんでいるの。それとも拒絶に依存しているの」
 それは実際正しい質問だったのだろう。考えずにはいられない質問だったからだ。私はしばらく考えた。それから用心深く答えた。「後の方だと思うよ」
「それなら、結局、電話を取るしかないわ」
「なぜ?」
「わかっているでしょう」
「わかっているよ」
「いつ取るの?」
「さあね」
「だけど」ジンニーアが言った。「取らない方がいいわ」
「わかっているよ」私は答えた。「いなくなってしまいたいと時々思う」
「そんなこと、いつでもできるわ」
「そんな夢を毎晩見るよ」私は言った。「これもその一つだ」


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- 2004年01月22日(木)

蒼白い神の家。4

「何を撮るの」とジンニーアが言った。私はカメラをいじっていた手を休めた。
 私のカメラは二年前の型だがトラブルもなく、衝撃にも強い。まだ使いこなしていない部分もあるが、一つの風景に様々な表情を与えることができる。フィルム式に比べて遠近感や質感は確かに劣るが、性能は十分すぎるほどだ。手にずっしりと重い。
「写真を撮るってどういうことなのかしらね」ジンニーアが言った。
「さあね」私は答えた。「私だって知らないよ、そんなことは」
「でもどう?考えてみない」ジンニーアが言った。私は顔を上げた。ジンニーアは例によって好奇心で目を輝かせている。何が彼女をそそのかすのか私は知らない。
「いいよ。でもどうやって考える? あてずっぽうを聞きたいわけじゃないだろう」
「そうね」ジンニーアが首を傾げた。「これまで何を撮ってきたのかしら?」
 私は考えた。これまで撮ったものが頭を廻る。思いつくままに口にした。
「そうだね……。橋。道。夜――朝。星、と…森。光」
「何か共通点はないかしら。何か、シャッターを押したいと思わせたもの」
「さあね」私は答えた。「私だって知らないよ、そんなことは」
「そんなこともあるでしょう」ジンニーアが言った。「でも考えて」
 私は考えた。考えたが、どうもそちら側からはたどりつかないようだった。
「いいわ、方向を変えましょう」ジンニーアが言った。
「撮ったものはどうしたのかしら? どうするために撮ったの?」
 さあね、と言いかけて私はやめた。そんなことは考えたこともなかった。
「あなたはいったい」ジンニーアが呆れたように頬杖をついた。「なぜ撮るの?」
「それは」私は言った。「――撮りたかったからだよ」


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- 2004年01月21日(水)

蒼白い神の家。3

「それで」とジンニーアが言った。「何を待っているの」
「ああ、うん。――電話を。電話を待ってる」私は答えた。答えてからしまったと気付く。ちょうどそのことを考えていたのだ。そしてもちろんジンニーアは確信犯だ。
「出ないのに?」ジンニーアが言った。「それとも出るの?」
「出ないよ。それでも待っているんだ」私は答えた。「おかしいかい?」
「そんなこともあるでしょう。でも教えて」ジンニーアが言った。「怒ってるんじゃなかったの?」
「怒っているよ。それでも待っているんだ」
「出ないのに?」ジンニーアが言った。「それとも出るの?」
「出ないよ」私は答えた。「それでも待っているんだ」
 ジンニーアが肩をすくめて笑った。首回りに巻いた蒼白い夜明けの光がゆらゆらと揺れてその向こうに曙光が見えた。極北の光だったのかもしれない。
「それで」とジンニーアが言った。「どうしたいの?」
「それがわかればね」と私は言った。「それがわかればね、ジンニーア」


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- 2004年01月20日(火)

蒼白い神の家。2



「実際これはどういうことだろうね」と私は言った。
 今朝の紙面にはI県で大量のコイが処分されたニュースが踊っている。
「どうって?」ジンニーアがテーブルの向こう側から言った。
「このあいだはY県で大量のニワトリが処分されただろう?」私は答えた。
「そういえばそうね」ジンニーアが頷いた。「でもそれで?」
 どうやら彼女は意地の悪い気分でいるらしい。私は肩をすくめた。
「例えば明日にだね、小学生のこどもが水槽で飼っている金魚を殺し始めても、少しもおかしくないだろうと思うよ。命を大切になんていうのは標語にすぎないと今日、大人が証明したのだからね。こんな殺しがまかり通ると。違うかい?」
 ジンニーアは上目遣いに笑った。「子供ってそんなに馬鹿じゃないわ」
「わかっているとも」私は言った。「だが私の言っている意味もわかるだろう?」
「もちろんよ」ジンニーアが言った。「だけどそんなものでしょう?」
「そう思ってほしくはないんだ」私は言った。「こんなことはあっちゃいけない」
「ほんとうなのに?」ジンニーアは訝しむ。「そしてここにあることなのに」
「ああ、そうだよ」私は言った。
「勝手ね」ジンニーアは言った。泣くことができたなら。


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- 2004年01月19日(月)

青白い神の家。



「ねえ、どうして電話に出ないの」
 床に膝をついて朝食のケースを開けている私の頭の上で、ジンニーアが言った。
「電話って、何のことさ」私は顔を上げずに言った。
 本当のところ、私はわかっていた。ジンニーアもそれを知っていた。それで私とジンニーアは我慢比べを始めたわけだが、幸いなことにケースの蓋は開けるのに手がかかり――つまりその分私が有利だった。ジンニーアが言った。
「あなたが悪いのだから、電話を無視する権利はないのよ」
「権利はないね」私は答えた。ケースはようやく開き、私は顔を上げた。
「私は電話を無視する権利はないね。怒る権利もね。私が悪いのだから」
 それから私は付け加えた。「それでも私は怒っているらしいよ」
 ジンニーアは肩をすくめて笑った。「そういうこともあるわ」
「そうだね。まったくそうだね」私は言った。「因果律とは嘘だよ」
「生まれたときから不幸な人間もいる。理由もなく、必要もなく。
 最初と最後は物語の中にしかない。それだってひとが発明したのさ」
「ええ、そうね」ジンニーアは言った。「さあ、朝食にしましょう」
 私は頷いた。ケースの中には星が三千ばかり光っている。私は匙を添えた。


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- 2004年01月18日(日)




「悪を行うのはひどく簡単なことだ」とAは言った。
「ほんのわずかな好奇心、ほんのわずかな自己満足で足りる。
 あるいは怠惰、いらだち。ときにはそんなささいなものさえいらない。
 気付けば悪は目の前にある。足元から石を拾うより簡単なことだ」
「そうだろうか」とBは問い返した。「ほんとうにそうだろうか」
Aは答えた。「新聞を見ればいい。テレビでも同じことだ」
「風が吹いただけで一人の男が死んだ。首を吊った男を妻が見つけた。
 悪は罪よりも先にある。それより早く来たのは死だけだ」



こんなものが降り積もる。
こんなものがもう頭の上まで積もってる。
どうして耐えられる。それでも耐えていかなければならないなら。
どうか祈りを。どうか祈りを。どうか出口を。


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- 2004年01月17日(土)

これはどこにでもあるものだ。
そしてこれは多分、流れをたどれば自然なのだろう。
私の感情がどうであっても、それはそれだけのことだ。
それは誰にも関わりない。全くのところ。
とはいえ私がどう“する”かはまた別だ。




は、腹痛…っ。(食いすぎ)


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- 2004年01月15日(木)

任期満了にともなう大阪府知事選告示。
47都道府県中最悪の財政改革が争点となるとみられている。

現職・太田房江氏の第1声、
「これまで大阪府財政再建のタネを撒いて来ました」


……タネがカネと聞こえたのは私だけか。
大阪という町の難しさは、そのまま大阪という町の影の深さだ。


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- 2004年01月13日(火)

Can you hear me?

絶望さえ声であるこの世界で、沈黙しようとするものは誰か。
声なきものであることが意味を持つのはここではない。どこでもない。
なら声に出して叫ぼう。ときにその叫びが世界を切り裂いても。




メモ:
最近のヒットテレビ番組「ワールド・ビジネス・サテライト」。
で、14日深夜に紹介していた大手玩具メーカーの新製品。
「ドラえもん」(バンダイ):しゃべって動くドラえもん。
「夢見殿」(タカラ):見たい夢が見れるらしい。
一見、売れそうである。コンセプトはすごくよい。でも…。
ドラえもんちゃちい。文句なしにちゃちい。
夢見殿アホらしい。効果ありそうな気がしない。
ほんとにデータ集めたのか? 夢じゃなく?(笑)
……売れないと思う。すっごく思う。


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- 2004年01月12日(月)



遠ざかりつつある。行きつつある。前を行く車のテールライトは遠い。






メモ:
うわー水平取れてないー。
乗用車走行中に運転席で片手でシャッター切る(真似しちゃいけません)には、
モータードライブ付きデジタル一眼レフは非常に重い。
女の細腕じゃー…ちょっと水平は保持できないねえ。
筋トレでもすっかなぁ…。


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- 2004年01月11日(日)

ファントム・ペイン
事故などで失った手足が痛むこと。脳の中の認識の書き換えが追い付かずに、
「動かせ」という指令に対して実行のフィードバックが得られないことから
脳によって「麻痺」などと認識されて起きる。


……Calling
私とあなたとの間に、例えば絆があったとして。
絆を無くして痛むのだと言えたらいい。
だが絆などなかったとしたら。
ねえ、ないものを無くして痛いなんてことはあるだろうか。

ないものを無くすことはできるだろうか。
あったことなどなかったものを。
そんなことができないというなら、この痛みはなに。
あるはずのない痛み。ああそれなら。


これも、ねえ、ファントム・ペイン。


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- 2004年01月10日(土)

とりあえず、“ここ”でまとめをしておきたい。
バトーとは誰かまた何か。…唐突だが「攻殻機動隊」の彼である。

1:
彼の髪について書き留めておこう。
彼の髪は長い。だがきつく縛られている。

これはどういうことか。

髪が長いというのは独特のことだ。
独特の印象を与えるものであり、独特の感覚を生み出すものだ。
彼は髪が事実として「長い」ことは疑いない。
だが長い髪というものに付属する感覚や意味からは遠ざけられている。

ここにおいて彼の本質の一つが示される。
彼は“何か”だが、その“何か”の意味するものからは遠ざけられている。


2:
次に、彼の義眼について書き留めておこう。
彼の義眼は不透明で機械的だ。見ることはできる。だが見られることがない。

彼は“いない”。彼は肉体として存在しない。

では彼はどこにいるのか。人間の形をした殻の中だ。
彼は世界という事象の生起の現場とは隔てられ、そこに近づく手立てはない。
彼は外側にいる。そして視覚に留まらず彼はもっと本質的な形で外側にいる。
つまりこういうことだ。彼は本質的に変化することができない。

(ここに私はバトー=男の隠れた比喩を見る。
 男は外に精子を放出する。だがそのことによって変化=受胎することがない。
 この一事によって男は本質的に限りなく――の外側に位置付けられる。
 一方素子は人形遣いによって変化≠受胎させられる。
 そして彼女は自らの子供に言及する。映画版のセリフも意味深だ。
 男の生産性はいずれも男自身の変容を前提としない)

必然的に彼は取り残される。
彼は残される。そしてそのことによって語り手として機能する。


3:
最後に、彼について勝手なことを書きたい。

バトーは非常に両義的な存在だ。
「筋肉ダルマ」としての一見明快な外観さえ嘘。
多分、彼は苦悩することができる。だが彼は変容できない。
素子の予言通り彼女の「子供」が訪ねてきても、彼は融合を肯わないだろう。
彼にできるのは愛することくらいだ。

そうだ、苦しむような手つきで。


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- 2004年01月07日(水)

壁紙

長らくロード・オブ・ザ・リングのイメージ絵だったが、
このほど火星に変えた。赤茶けた石ころだらけの平野だ。
この石の一つさえ、私たちとは異なる時を経てきた。

おまえは何を見た。何を見てきた。
おまえは流れる水に削られたのか、それとも絶え間ない風に?
ああ、薄赤いおまえの空にはどんな風が吹くのだ。
太陽はどんなに見える。ああどんなふうに上り沈む。
影はどのように伸び、どのように闇は訪れる。


火星行きたい…。
月でもいい…。
いやこのさい、南極でもいいから…(くぅう)。


ただ無音のうちに聞きたいものがある。
そうとも、何もなければ何があるかよくわかるだろうから。


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- 2004年01月06日(火)




「地図みたいだね」と言った人があった。
なるほどこれは地図に似ている――地上約7000フィートからの風景。
だがこれは別のものだ。なぜなら地図に雲や陰や光の加減は存在しない。

それにほら、地図を歩く事も飛ぶこともできないが、
この風景は歩き飛べる。
手を伸ばすこともできる。届かなくても。


メモ:
多分、日光上空。多分、大谷川。ちゃんと聞いてればよかった…。
ああっ、広角で撮ればよかったのにぃ〜。


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- 2004年01月03日(土)




ジンニーア、私はおまえを知る。おまえもまた私を知る。
もういい。もうそろそろ、私は行きたい。


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- 2004年01月01日(木)



あけましておめでとうございます。

今年は仕事に専念し、努力を惜しまず一つ一つのことを重ねていきたい。
そして見る「目」と表現する「手」を養いたい。
カメラとレンズに負けない腕を養いたい。

みなさまにとってよい年になりますように。



メモ:
午前6時半、明智平。
気温は多分マイナス5℃前後。めちゃ寒い…。


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