- 2002年12月31日(火) ジンニーアとアル・マリク 「雨が降れば濡れよう、晴れれば乾こう。 帝国が滅びなば王位を去ろう。死が来れば生を去ろう。 だがそれだけのことだ。思い煩うほどの何がある」 「そなたは。アル・マリク、王よ。帝国の主よ。 汝は剣のごとく語る。剣の思考を巡らせる。 王よ、汝は剣か。鋼は汝の心か」 「そのようなことは知らぬ。 俺はここにある。いかにとは問わぬ。 理由なくしてあるものは多く、理由はいかなる役にも立たぬ。 剣と人とまた魔と悪鬼と。いわば言え、俺は俺に過ぎぬ。 いかな呼び名も俺には関わりない」 「然り。汝、王よ。アル・マリク、帝国の主よ。 汝は確かに剣。汝が心は鋼のそれぞ。 湾曲せる鋼もて汝は語り、湾曲せる鋼の言葉を汝は語る。 アル・マリク、王よ」 「それがどうした、魔よ。ジンニーア、女魔よ。 それがどうした、俺は俺に過ぎぬ。それのみだ」 「汝、王よ。帝国を統べる神の影よ。 汝が心は何に触れるのか。いかにすれば汝と語りうるのか。 鋼は鋼とよりほか語り得ぬか。剣は剣とよりほか。 アル・マリク、王よ。臣民と帝国の守護を役目とするものよ」 「帝国を焼け、ジンニーア。魔よ。 我が帝都を灰燼とせよ、青銅と石よりなる街区を破壊せよ。 七つの世紀に渡り聳え立ちし城壁と馬場、富傾けし寺院を毀て。 我が民の骸と血潮もて山河を築け、孕み女と幼子と老人を併せ殺せ。 我が身を殺し塵とし、我が屍もて叛軍の旗標とせよ。 帝国の滅亡とな、臣民の運命とな、我が身の生死とな。 だがそれらがいったい俺に何の関わりがある。 鋼もて来れ。剣もて来れ。鋼と剣もて語れ。 ジンニーア、魔よ」 - - 2002年12月30日(月) 反魂歌。わたしの犬へ。 1: 真昼を歩く、おまえとそうしたように。 森を歩く、水の辺を。おまえとそうしたように。 私は歩く、おまえとそうしたように。 さあ、戻っておいで。 戻っておいで、おまえ。 藪をさわがせるものがある。 水面をざわめかせるものがある。 みんなおまえと聞いたもの。 みんなおまえと見たもの。 さあ、戻っておいで。 戻っておいで、おまえ。 2: この手におまえの毛皮を知らせておくれ。 この耳におまえの足音を聞かせておくれ。 この目の端におまえの姿を見せておくれ。 口笛吹こう、いつもおまえを呼んだよう。 見渡そう、いつもおまえを探したよう。 耳を澄ませておまえの足音を聞こう。聞くよ。 だから。ああ、戻っておいで。 戻っておいで、そうして教えておくれ。 おまえはいなくなりなどしなかったと。 3: もうおまえを見ることはないのか。 もうお前の声を聞くことはないのか。 あの小さな墓だけが、ああ、おまえの名残なのか。 おまえは過去になるのか。おまえは忘れられるのか。 ああ、おまえ。 私はおまえの名前を呼ばない。 おまえがいないということを、今更沈黙に教えられたくはない。 ああ、おまえ。 返ってはこないのか、戻ってはこないのか。 おまえ、わたしの犬。わたしの道連れ。 - - 2002年12月29日(日) 鎮魂歌。わたしの犬へ。 1: 信じられたらいい、おまえは私を待っていたのだと。 私の帰還にその弱った心臓を震わせ、 その夜に死を呼ぶほどに私を待っていたのだと。 私は信じはしない。信じることだけが私にはできない。 信じたいと願うだけだ。 2: おまえは大儀そうに身じろぎした。 あの軽快な見のこなしはどこへ置き去りにされたのだろう? 私の愛撫は戸惑いがちで、私の思いは乱れていた。 おまえは身じろぎした。おまえは私を見上げた。 尾を振ることさえおまえには大儀だった。 おまえは体を震わせた。 私は何も言わなかった。 だがその実、おまえが振ることのできぬ尾に代えて その心臓を震わせていたことを――私は信じたかった。 それほどまでにおまえが私を待っていたと。 ――信じたかった。 3: ああ、おまえ。 あまりにも早い死ではないだろうか。 私はおまえが死んだと、その事実を理解できない。 今おまえはこの家にいないが―― 明日は帰っているだろうと、私の心は思いこみたがる。 耳の端の物音を、おまえの足音と思いこみたがる。 ああ、おまえ。 私の犬、私の道連れ。 私はおまえと遠く離れていたが、 だがその実、私はおまえと寄り添って、幾度となくあの森を歩いたよ。 あの池の間を歩いたよ。あの夕暮れを見たよ。桜の散るさまを。 おまえが笹の葉を鳴らす音を聞きながら、口笛で呼んだよ。 ああ、おまえ。 もういないというのはほんとうかい? 私の心はおそるおそる問う。 4: おまえは掌に乗るほどの大きさだった。 おまえはまだ目を見えず、ただ高い声で鳴いていた。 私はおまえを選んだ。 おまえはやんちゃな子供だった。 おまえは辺りを走りまわり、サンダルをいくつもだめにした。 私はおまえを愛した。 おまえは私の道連れだった。 おまえは私より成熟し、おまえは私とともに歩いた。 ほかになにも求めなかった。私はそれに慰んだ。 いま、わたしはおまえを失ったのか。 失ったのか、永遠に。 永遠に? それを信じるには永遠に近い時間がいるだろう。 あるいは永遠そのものが。 だが今、おまえはいない。 おまえがいない瞬間が雪のように降ってくるのか。 これから。 5: おまえの名前を私はもはや呼ばない。 私の口からその名が出ることはもうないだろう。 答えるもののない名前を。 ああ、呼んだとてどうなろう。 闇の底に白々と、ただ降り積むばかりだ。 ――――――寂しさが。 - - 2002年12月27日(金) Familia. 1: 家族というのは何と雑多な人間の集まりだ。 張り渡されているのも、世の常の人言うような愛情とは限らない。 殺しあうほどの憎しみや、絶望や、傲慢さ。 にも関わらず、それら血に増して濃いものはない。 2: 家族というのは何と奇妙な空間だ。 仕事でもなく何でもなく、ただ同じ場所に押し詰められ、 多くのものを分かち合うことを強制された人間の一群。 ここはゆりかごだ、外界の縮図だ。 ここに原型がある、世の中と言うものの。 あらゆる憎しみと愛の。 3: 家族というのは何と興味深い人間関係のパターンにより成る。 私は確かにここに戻って、そうして忘れかけていた幾つかの―― 相関や感情を思い出した。 なるほど世界はここにある。 私はここで世界のひながたを知る。 4: 半年ぶりの帰郷。 半年ぶりの家族団欒。 奇妙だ。こんなにも面白かっただろうか。ここは。 面白かったのだ、殺人者や犯罪者と同じく。 - - 2002年12月24日(火) 桜の下の死体。 1: 寒桜・冬桜というものがある。 春咲く桜とは別物だが。 寂しいようにほつほつと白くはかない花つける木。 桜の下には死体が埋まっているという。 埋まっているのは誰の死体だ。 決まっている。 2: 決まっている。 自分自身の死だ。 己が死体だ。 そら、冷たい土を破って私の左手の指が何本かのぞいている。 薬指には、細い白い古い傷跡。 あれはガラスを叩き割ったときの傷。 あのとき私は、死にたかった。 3: 私の死がある。 桜を見に行くとき、人は己が死に感嘆する。 タナトス。 おぼろに白い翼を広げる。 どの桜でも、私の死体を抱いている。 だって見ているのは私だ。 鏡のように。 4: 私の死を映す。 私の手がのぞいている。 冷たい土の下から、私の指、私の手。 寒桜、冬桜。 寂しいような花をつける。 死ほど華やかならず。 私が死んだとき。 おまえはきっと、春に咲く爛漫と。 - - 2002年12月23日(月) シネマ・キネマ・映画。 1: 久々に見たのが「ドニー・ダーゴ」。 面白かったかと言われれば、面白いと答えよう。 くだらなかったかと問われれば、くだらなかったと答えよう。 両立するじゃないか、それらは。 銀色ウサギ。(こう書くとかわいいのになあ) 意味不明の飛行機のエンジン。 児童ポルノ(悪の象徴か)のエセ聖者。 薬ばかりくれる精神科医の女。 ハロウィン・パーティ。 天に開く穴。 そうしてティーンエイジャーの少年。こども。 見なれた単語ばかり。 このあまりに記号化された世界の、どこに目新しさがある。 はっとするような鮮烈さが。 見なれた世界の見なれた面白さ、そればかり。 2: シュヴァンクマイエル、シュヴァンクマイエル。 あなたを思い出していた。 見たことのない単語を突きつける、あなたの黒い指。 もっとも、私たちはあまりにも貪欲に多くの単語を知ってしまった。 あなたさえ、シュヴァンクマイエル。 もう私たちの見なれた世界の一部だ。 私たちは、あなたの名前を知ってしまった。 だがあなたは一作ごとに謎として生まれ直す。 自らを模倣することなく自らとなる。 3: 人間はワガママだ。 私はワガママだ。 自分に理解できるものを愛さない。 愛を理解してしまえば愛は死ぬ。 だからきみは、私の謎でいてください。 私の一切を、きみの周囲に回すから。 私の思考の基点に、きみという謎を置くから。 - - 2002年12月22日(日) 遠い夢。 1: ずいぶん昔の私と出会う。 言葉もない。 こんなイヤなヤツだったろうかと。 そんな感想を抱く。 こんな話していてムカつくヤツだったろうかと。 呆れ果てる。 2: そんなこんなで、寝起きは最悪。 コーヒーがぶ飲みして頭を起こす。 そうして考える。 私は確かにあんなだった。 そうして今でも時々戻る。 気を付けよう。 3: 後悔は多い。 後悔したくはない。 後悔して先に進む。 これまでの足跡をゆっくり眺めて、 「やめとこう」と軌道修正するのが後悔。 4: どうしてもどうしても、きみ。 好き嫌いだけが私の舵らしいよ。 善も悪も信じないからね。 あー、ヤな夢見た。 - - 2002年12月19日(木) ジンニーアとアル・シムーン。 「静寂に先立っておまえはいた。そして私が生まれるのを待っていた。 待っていなかっただろうかおまえは。 私が生まれたときに、待っていたのだと知りはしなかっただろうか。 来い、ジンニーア。 来いジンニーア。おまえを連れて行こう。 そしてけして離すまい。信じよ、ジンニーア。来い」 「人の子ぞ、汝は。 定めある命の人の子ぞ。老いてさえ妾にとりては幼い。 人の子ぞ、汝は。妾を連れてなど行けぬであろう。行かぬであろう。 太陽と夜を連れて行けぬと同じく。風と月とともに行かぬと同じく。 違うかアル・シムーン、妾を放さずにいることなどできまい。 然り、妾は汝を待っていたのであろう。 汝を願っていたのであろう。原初の暗闇から。 永劫の長糸を引く妾が。針の先ほどの長さしか生きぬ汝を。 そのように断じることはできる。そのように現在が過去を名づけることもある。 だがアル・シムーン。汝と行くことは叶うまい。叶わぬであろう」 「信じよと言った。来いジンニーア、連れて行くから。 万世の主の主権さえ、世の終わりの裁きをさえ拒んでみせようから。 来い、ジンニーア。ともに行こう」 「信じるとも。叶わぬと知りながら信じるとも。 おまえとともに行く。裏切らば裏切れ。失われなば失われよ。 妾は信じる。妾は信じた。汝とともに行く。行かずにはおれぬ。 連れて行けアル・シムーン、ともに行こう」 - - 2002年12月18日(水) 湾岸線で車を走らせたことがある人へ。 1: 夜が好きだ。 日中は不細工なばかりの工場地帯、闇に沈み。 浮かび上がるのは不規則に灯された白い光。 金属の棒や球体の曲がり、くねる断片。 ここはどこだ。 この世の外。 そんなこと呟きたくなる。 ああ、夜を走る。 2: 闇の中で。 法則なき鉄と石のオブジェ、異形のマス。 どんなピカソだ、こんな有機体めいたものを作り出したのは。 船は遠くで火影を海に映す。 二つながら揺れ動く。 光揺らぐ。 湾にかかった橋が、その光海に映す。 走りぬける光は、あれは車でない。発光する生き物だ。 曲がった嘴みたよなクレーンは、コンテナ釣り上げるのでない。 あれは闇から魔物を拾うのだ。百もの光る目を灯し。 3: ここはどこだ。 ル・リエー。 ジンニーアが私に囁く。 ここはどこだ、ル・リエー。 海に沈んだ都か。第十惑星より飛来せるgreat old ones。 果て知れぬ時の果てには、死もまた死ぬるさだめとな。 ここはどこだ、ル・リエー。 クトゥルフ統べる妖異の都。 なるほど老いて古い死はひととき眠る。 幻想を走る、高速を下りるまで。 - - 2002年12月17日(火) 電車の中。 1: 年末には三日ばかり休みがもらえることになった。 とはいえ、何かあれば吹き飛ぶ休みだ。 ――ひとさまの休むときとかぶってないし(涙) 半年振りに実家に帰るよ、と、電話をしてから。 おせちが食べたいよ、少し早めに。お雑煮も、と。 そう話して電話を切ってから。 ふいに。 旅に出たくなった。 青春十八切符でも握り締めて。 遠い湖、遠い山々。 その風景の中に身を置きたくなった。 投げ出すように。 2: 遠い風景。 遠い空間。 疾走する風と肌貫く寒気。 凍てつき瞬く星。 孤独な海辺。 見知らぬ城砦と――聖殿。 行きたい! だめだ、行っちまいそうだ。 行っちまいそうだ、ブラーヴォ!(畜生め!) (書きかけ) - - 2002年12月14日(土) ジンニーア、私のおまえ。 煙と縁なき炎よ。 形ある嘆きよ。異様の双つ面よ。 1: いや驚いた。 テレビのない生活(…)に入ってはや三年。 インターネットとチャットゲームはやっていたが、 その間いわゆる「テレビゲーム」やその進化形オンラインゲームは、 ちっとも全然まるっきり興味がなかったため、 どんなものかということすら知らなかった。 どれくらい昔に私のゲーム時代が停止したかというと、 最後にやったのが、FF8。(PS) 面白いと思った最後のゲームがロマンシング・サガ3。(SF!) よくできてるとハマった最後のゲームがスターオーシャン2。(PS) 古い……。(討ち死に) で、なんとなくのぞいてみたオンラインゲーム世界。 つ、つまんなそー。(敵増やしたな) 2: 私は基本的に、テレビゲームの類は、「作品」として楽しむ。 ディテールを楽しみ、筋に「乗せられて」楽しむ。 キャラのツッコミ所にツッコんで楽しむ。 伏線を読んでほくそえみ、深読みして悦に入る。 エンターテイメントとして、「楽しまされる」ことを要求する。 つまり、お客さんとして、特別扱いされることを要求する。 簡単に言うと、金払ってんだから、ということである。 チャットゲームは無料である。 相手も同じフツーの人で、「お互い楽しみましょう」なスタンスである。 であるからして、特別扱いは要求しない。 娯楽要素に関しては「楽しめるかな?」程度のトコである。 むしろ表現の快楽、演出の快楽、つーとこのが大きい。 他人と出会ってどー転んでもいい、というのも淫靡だ。 しかも他人というのは、何を言おうとアテにはならないからまた然り。 3: オンラインゲームは。 うーん。 なんだろうなあ。 さらっと見た限りでは、作品世界という土台とルールがあって、 その上で「みんなで遊ぶ」つー感じである。 アイテムにはまってもよし、筋解きにはまってもよし。 他人と出会ってごちゃごちゃを楽しんでもよし、なんだろうなあ。 だけど。 土台とルールがしっかりしている中で、 「他人」と遊ぶというのは、非常に難しいように思う。 相手がさんざ絡んでおいて、ひょいと出てこなくなったら? ……それっきし、進まないじゃん。 そのとき土台がしっかりしすぎてたら、にっちもさっちもいかない。 そこまで絡まなければいいのかもしれんが、 それでは「他人」という不確定要素を取りこんだオンラインゲームの意味はない。 生ぬるく「コミュニケーション」を楽しみ、 生ぬるい「作品」でうだうだするくらいなら、 ――あたしはスーファミ買ってくるとも。 実際、最近のゲームはあんま面白くない。(ジジイのような言いぐさ) 4: 最近のゲームが面白くないのは、 「作品」として自己満足の臭いのプンプンするモノだからだ。 キャラ名前に胡散臭い心理学用語を並べたって、知らねーよ、ヲイ。(笑) 作ってる人間が一番楽しかっただろー。(苦笑) という印象を受けるゲームは最悪だ。 書いてる人間が一番楽しかっただろー。(苦笑) という最近の推理小説と似たようなモンだな。 面白いのは完全なるエンターテイメントである。 面白がらせてやれひきこんでやれハマらしちまえという根性である。 面白いのは精神を抉る、何一つ措くところない情念である。 どうしようもなく面白いと感ずにはいられないのはいつでも真実だけだ。 気取りはいやらしいだけだが、作りの粗雑さはウンザリする。 そしてマニア受けというのがなんだか重要に見られているようだが、 人間の遺伝子が99%まで同一であるということを鑑みると、 1割の人間も楽しませられないようなゲームは、いかんだろう。 美は普遍性を持つし、楽しさもそうだ。 5: ゲームかあ。 ……やってるヒマはネェ……。(ふ) - - 2002年12月13日(金) 眠い。 なにかがぐるぐるしてる。 眠い。丸くなる季節だ、そういえば。 なのに猫になれる場所がない。 おいで、ジンニーア。 おまえと話そう。 重さのほとんどない軽い気流からなるお前を、 ――この両腕に抱きしめて。 1: 忘年会が連チャンだ。 肝臓がヒデェ。 チャイナドレスとお化粧…… という、「誰だコレ」な格好を要求されたので、 しょーがなく、チャイナドレスを調達。 化粧は……社の庶務の人に言うと、 近所の化粧品を扱っている店で、お試しメイクやってんので、 頼んであげる、ということ。 で、行く。 2: ……。 化粧水、乳液、下地、ファンデーション。 眉をジャキジャキ刈り込まれる。 眉墨で描く、見なれない眉。 アイシャドウ、アイライナー、睫毛カール、マスカラ。 チーク、口紅、グロス。 いやあ……科学の実験のようだ。 出来あがった顔は、そこそこキレイで。(自分で言うな) チャイナドレスを着込むと…… 「誰コレ」一丁出来あがり。(写真はのせません) 3: さて、そんな優雅な格好でも、シャレてるヒマはない。 やれ受け付けだ、ビンゴのガラガラ回しだ、 使いっぱしりだ……と。 「僕は景品はきみで…」「足ちょっと上げてみて」 「スリットどこまで入ってんの?」 セクハラに耐えつつ約二時間、奮闘。 しかる後に。 泊まり業務である。脱兎のごとく退場。 さすがに帰還前に服は変えたが、化粧はそのまま。 戻るなり、妙なモノ見る目で見られた……。 まあいいや。フーヒィ。 今夜も長い。夜明けを待とう。 - - 2002年12月09日(月) 死よ、あらゆる生けるものの王者よ。 1: 傷を私は愛する。 それは私がマゾヒストだということではなく、 傷によって私がその都度自らの形を知るからである。 欠けたるところ 望み 願い そうしたものを生き生きと知るからである。 自分が何者であるかを知るからである。 どの方向に主軸を伸ばしているかを、 折られた小枝の痛みから知るからである。 そのようなものとして、私は傷を愛する。 2: 死を私は愛する。 それは彼らが何者であったか、 また私が何者であるかをはっきりと教える。 ぽっかりと開いたその痕跡の空洞によって、多くのものが見えるからである。 やがて私が死ぬとき。 私は真に私が誰であったのかを知るだろう。 世界とは何であったかを知るだろう。 愛の死も。 友情の死も。 哀しみの死も。 喜びの死も。 それらが何であったかを、克明に教えてくれる。 私は全ての死を愛する。 それゆえに死を待ち望むほど。 これは病か? 然り。 3: これは私の執拗な視線、 私の何をも省みざる視線だ。 これは病だ。 この病も死ぬことがあるのだろうか? そのときには、私はこの病の本質を知るだろう。 死なぬでもわかる。 これは私の業病だ。 癒えぬでいい。 - - 2002年12月08日(日) 「方々に思いきって切られた傷口が口を開けている。 独特の治療法を発明するためだ」 ――小林秀雄『モオツァルト』より 1: 音楽、類稀な主の手になる音楽はそのようだろう。 どのような裂け目もそこに一層美しい宝石を得るがために開いている。 そして豊かさは溢れ、満ち、また新たな生を得る。 だが犯罪は別だ。 それは人間社会に開いた傷口だ。 しかもそれを繕うに能たる手腕は見出されていない。 豊穣の口としうる天才はなおさら。 2: 不完全だが、言うなれば、司法だ。 法という人間社会の表皮を突き破った人間(=犯罪者)が その場に呼び出される。 そしてその事のありのままを提出する。 事例を目の前に見て、裁判官は自ら問う。 この傷口は、ただ傷口に過ぎないのか? それとも社会そのものがその方向へ、 骨を生じ肉を生じ、皮膚を蕾みたようはちきれさせながら伸びつつあるのか? そして、傷と名づけるか、痛み伴う出芽と名づけるか。 滅多にないが、そういう判決もある。裁判も。 3: しかしながら、裁判官は多くが頭が固い。 そう言わないまでも、柔らかくない。(笑) そして提出される事実はありのままであると限らない。 人間が為し、人間が物語化したのだ、ありのままであるはずもない。 いい言葉があるな。 群盲、象を撫でる。 だが、盲目でもなんでも、撫でてみなくちゃ始まらない。 陪審員制度を導入してみたらどうかなー……。 - - 2002年12月07日(土) そして祈りに至る。 1: あなたの視界を私は見よう。 その奥底までは見えなくても。 あなたを取り巻いていたものを見よう。 あなたの思考がどのように醸成されたのかを見よう。 あなたの視界に沈もう。 それだけがあなたを理解する手立てだ。 2: しかも私は外からあなたを見なければならない。 いかなる権利もなく資格もなくしかもその場に偶然的に立ったものとして。 (しかも誰も誰も裁く権利は持たない) あなたをほどき、 あなたを開き、 あなたを読む。 しかも裁くことなく。 あなたの行為をこの世界に織りこまねばならない。 名状しがたいのはあらゆる人間のあらゆる心の動き。 名状しがたいものを名状せねばならぬ。 それはあなたを殺すことか。犯すことか。 あなたの行為をこの世界に織りこまねばならない。 あなたによって生じた傷は事象を食い破って世界の裏地までも傷つけた。 あなたの言葉、あなたの魂もて繕わねばならない。 癒すのではなく。 - - 2002年12月05日(木) 1: 「金も名誉も命もいらぬ、そんな男をどうしようもあるはずはなかった」 と、いう言葉を読んだ。 司馬遼だったろーか。 シビれた。(笑) どうしようもない男。 自由である男。 裁けぬ男。あらゆる裁きから自由である男。 この世のまたこの世の外の、何にも従わぬ男。 シビれた。(笑) 2: そのように自由でありたい。 しかし、自由は放蕩に堕する。 自由が真に気高いのは、自ら望んであることを願うときだけだ。 何を願うか。 金でもなく。 名誉でもなく。 命でもなく。 ――神でもない。 美学というよりは、滅びへの視線。 限りあるものとして滅びを見る目。 瞬きもせず。 3: 無意味と知りつつあらゆる戒律を是という自由が欲しい。 無意味と知りつつ腕の中のものを守る自由が欲しい。 絶望を根底に敷いた自由だけがよく全てに耐える。 何にも価値を置かず執着しえぬ目だけが全てを見る。 そのような目と腕。 だぁめだ眠い。 - - 2002年12月03日(火) 見えない糸。 1: 途切れない。 どこへ行くのかわからなくても。 時にひどく落ちこんでも。 止めないから。 だから、ここには糸があるのかもしれない。 ほんとうに。 2: 糸を切ることはできる。 いくらでもできる。 そうしたいと思うこともある。 いくらでもある。 そうしないだけだ。 ただこの糸よりほかに何もいらないのだと、 自分自身の矜持さえ擲とうと、 そう、見も世もなしに叫ぶだけだ。 3: 糸は私を導かない。 私が糸を創るのだ、この手でたどることによって。 運命とはそれだけのことだ。 糸とはそれだけのものだ。 かくあれ。 -
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