心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2013年07月10日(水) AAを自助グループと呼ばない

このサイト(http://www.ieji.org/)のタイトルは「心の家路」で、「〜アルコール依存症からの回復と自助グループの勧め〜」という副題がついています。これはこのサイトを始めた2002年当時の僕が、AAは自助グループだと考えていたことが反映されています。

現在の僕は「AAを自助グループと呼ぶべきではない」と考えています。なぜそういう考えに至ったのか、という説明が必要でしょう。

自助という言葉は、英語のセルフヘルプ(self help)の翻訳です。間にハイフンの入った self-help という言葉は19世紀に登場したそうです。これは法律の用語で、民法では「自力救済」、刑法では「自救行為」と訳されます。これは自分の力で権利の内容を実現することです。

例えば僕の財布から金が盗まれたとしましょう。犯人と金のありかが分かっていれば、僕は自分でその金を取り返すことができます。これを自力救済と呼びます。現代の法律では原則として自力救済は禁止されています。というのは、自力救済の実力行使を代行する民間組織(ヤ○ザとか)がはびこってしまうからです。現代では、法律で定められた手続きに従って国家権力(裁判所など)に代行してもらわねばなりません。

もちろん必要な範囲内で自力救済をすることは認められており、例えばお兄ちゃんが買った今週のヤングジャンプを弟が自分の部屋に持っていってしまった場合、いちいち裁判所を使わなくてもお兄ちゃんは自力でヤンジャンを取り戻してかまわないわけです。

ともあれ、self-helpとは自力で問題を解決することを指しました。一般用語となってもその趣旨は変わりません。例えば英語版の wikipedia を見ると self help をこう定義しています。

http://en.wikipedia.org/wiki/Self-help

Self-help, or self-improvement, is a self-guided improvement -- economically, intellectually, or emotionally -- often with a substantial psychological basis. Many different self-help groupings exist and each has its own focus, techniques, associated beliefs, proponents and in some cases, leaders.

セルフヘルプ(自己改善)とは、自律による経済・知力・感情の改善であり、その多くは心理学的な知見を伴っている。セルフヘルプは様々にグループ分けできるが、それぞれに独自の対象・技法・関連する信仰・主唱者・(時には)指導者を持つ。

オンラインのMerriam-Websterを引くと、

http://www.merriam-webster.com/dictionary/self%20help

Definition of SELF-HELP
the action or process of bettering oneself or overcoming one's problems without the aid of others; especially : the coping with one's personal or emotional problems without professional help

他者の助けを借りずに自己を改善あるいは自分の抱えている問題に克服すること。特に、職業家の手助けなしに、個人的・感情的な問題をうまく処理することを指す。

つまりセルフヘルプとは、他者の手助けを得ずに自律的に自力で問題に対処していくことを指しています。おそらく現代の日本語でそのニュアンスを最も的確に示している言葉は「自己啓発」ではないでしょうか。

セルフヘルプ=自己啓発

さて、セルフヘルプを日本語に訳すときには「自助」の言葉が当てられます。自助という言葉を調べていくと、必ず登場してくる言葉が、

「天は自ら助くる者を助く」

という中村正直(なかむらまさなお)の言葉です。19世紀の英国の作家サミュエル・スマイルズの"Self-Help"の翻訳である『西国立志編』(別題「自助論」)の序文に出てくる言葉です。『西国立志編』は福沢諭吉の『學問ノスヽメ』と並ぶ明治時代のベストセラーです。その内容は、欧米の様々な人物の成功談です。
日本語の辞書で「自助」を調べてみましょう(Yahoo!辞書)。

(大辞泉)他人の力によらず、自分の力だけで事を成し遂げること。
(大辞林)他の力に依存せず、独力で事をなすこと。

つまり「自助」とは人の力を頼らずに自力で成し遂げることであり、スマイルズの自助論はそれを美談として取り上げた本です。

セルフヘルプにしても自助にしても、その語義の中心に「人の手助けを受けないで」という意味があります。ところが、自助グループというのは人から手助けを受けるために参加する場所です。確かに、自助グループは行政主導ではないし、職業的専門家から指導を受けるわけでもありません。けれど、それは人を頼らず、人から手助けを受けないという意味ではなく、むしろその逆、積極的にお互いに助け合う場です。

セルフヘルプグループは「互助会」と訳した方が良かったのでしょう。英語でも mutual help/mutual aid group という名前が使われています。「相互援助グループ」「相互支援グループ」と訳されます。

自助という言葉は誤解を生みやすく、AAを指して自助グループという言葉を使うのは適切とは言えません。

もうひとつ誤解を挙げます。自助グループは共通した問題を抱えた人の集まりとして説明されることがよくあります。AAの序文にも「共通の問題」という言葉が出てきます。

しかしながら、ビッグブックの第二章の冒頭にはこうあります。

「同じ苦しみを味わったということは、私たちを結び合わせる強力な接着剤の一つではあるが、それだけでは、いまの私たちのようには決してなれなかっただろう。私たち一人一人にとっての偉大な事実は、私たちが共通の解決方法を見つけたということにある」

共通の問題を抱えている人が集まってもAAにはなりません。AAミーティングは、ある人は問題をこのように解決した、別の人は別の方法で解決した・・という分かち合いをする場所ではなく、全員が同じ解決方法を共有している集まりです。そして、その方法が12ステップなのです。

自助グループ(self-help group)とは何かがはっきり定義されているわけではありませんが、共通の問題を抱えた人の集まりである事は意識されていても、ひとつの解決方法を参加者全員が共有することを目指していることはあまり意識されていません。AAはそうですが、自助グループは必ずしもそうではない。

だから、やはりAAを示すのに自助グループという言葉は使わないほうが良いのです。

実のところAAは自らを自助グループだと定義したことはないし、AAはself-help groupだと表明したことはありません。アメリカのGSOや常任理事会の出した文書を総ざらえして調べたわけじゃありませんが、おそらく無いでしょう。

AAをself-help group(自助グループ)に分類したのはAA外の人たちのしたことです。その影響を受けてAAメンバーがAAのことを自助グループだと思い、AAは自助グループだという情報を発信したことはいくらでもあったことでしょう(このサイトのタイトルにもまだ含まれているし)。日本のJSOなり理事会の発した文書に自助グループという言葉が含まれていたことがありました。今は、自助グループという言葉は使うことを避けるようにしています(取り締まっているわけじゃありませんよ)。

(注:AAはセルフ・サポートという言葉は使っています。ただしこれは、伝統7にある経済的な自立を示す言葉です。AAはAAメンバーからの献金のみを受け取り、他から寄付や助成金を受け取りません。そのことを指してself-supportと言っています)。

大切なことは、AAはお互いに助け合う場所だということです。

先月アメリカに行く機会があり、三晩連続でAAミーティングにも出席しました。ミーティングの前後には、たくさんの人が僕に声をかけてくれました。「日本から来たのか。ステップはやっているのか。スポンサーはいるのか」と声をかけてくれました。「なんだったら俺がスポンサーをやってやろうか」という勢いです。数ヶ月前までホームレスをしていて今も正業があるか怪しい若い黒人がそう言うのです。明日には僕は日本に帰っちゃうのにね。それはともかく、AAへ来たことを歓迎する気持ちと、「俺はお前の手助けがしたいんだ」という闇雲で暑苦しいほどの熱意は感じました。その熱意こそが、アメリカのAAを140万人の大所帯にした原動力の一つに違いありません。

あなたもAAに加われば、他の人の手助けをすることが求められるでしょう。けれど、他の人を手助けするには、まず自分がこころよく他の誰かから手助けを受ける(つまり誰かにスポンサーになってもらう)ことが不可欠です。そして、してもらったことを、誰か他の人にしてあげれば良いのです(そのようにして共通の解決方法が手渡されていきます)。

AAは他からの助けを得ずに自分で自分を助ける場所ではありません。私たちはAAでお互いに助け合っているのです。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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