心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2012年07月24日(火) 回復している・していない

AAでは「回復している」とか「回復していない」という言い方をします。

「回復」は英語のリカバリー(recovery)を訳したものです。ではリカバリーとは何なのか。
リカバリーという言葉をアルコホリズムに対して使い出したのは、シスター・イグナチアだそうです。彼女は、AAの共同創始者の一人ドクター・ボブと一緒に、セント・トーマス病院にアルコール病棟を立ち上げ、アルコホーリックの治療にあたりました。

彼女は、アルコホリズムは病気であること、二度と正常に酒が飲めるようにはならない、つまり治癒(cure)はないが回復することは可能だと説きました。

この病棟では治療プログラムに12ステップを使っていましたから、当然それによる「回復」とは12ステップの目標である「霊的体験(霊的目覚め)」を達成することを示します。だから、「回復」という言葉の使われ始めにおいては、回復=霊的体験(霊的目覚め)でした。

しかし、その後、アルコホリズムが病気だと社会に受け入れられ、対策が進むにつれ、「回復」という言葉は霊的な事柄以外にも使われるようになっていきました。現在では、身体的、精神的、社会的な事柄についても「回復」が言われます。例えば、アルコールのせいで仕事ができなくなった人が再び仕事に就くことも「回復」であるし、飲み過ぎで胃が食べ物を受け付けなくなった人が、解毒が済んで固形食が食べられるようになるのも「回復」と呼んで良いのかもしれません。

それでも12ステップという面から見れば、「回復」とは霊的な次元での話でありましょう。

AAはアルコホリズムから回復するための団体なので、人が回復している・いないは関心の対象となります。では、回復している・していないを、どうやって判断したら良いのでしょうか。それは、霊的目覚めは、外から観察して分かるものなのかどうか、という話につながります。

『12のステップと12の伝統』のステップ12のところ(p.141/144)には、霊的目覚めが存在することに疑問の余地はなく、本物の霊的目覚めには共通性があると述べられています。この本にも、またビッグブックの巻末の付録の所にも、その変化は周囲から見て分かるものだと書かれています。

では、その人のどこを見れば分かるのか(もちろん、そんな判定法はAAの本にも書いてないのですが)。

少し前の雑記で、具合の悪い人は「気分が良いこと」にこだわる、という話を書きました。人間が生きていて気分が良いことばかりじゃない、むしろそんなことは少ないぐらいが普通なのですが、アディクションの人にはそうでないわけです。(酒や薬は、いつもその期待に応えてくれました。最初の頃だけですが)。

酒や薬を使っていない素面の時に、なぜそんなに「気分が良くないのか」を考えてみることは、あまりしないのです。

僕はいままで正義感を持たない人に会ったことはありません。皆が正しく生きようとしています。また、何かを手に入れるのに努力が必要であることも、人はちゃんとわかっているものです。

一方で、同じ人が、自分の「正しさ」がどこでも常に通用して当然だと思っていたり、努力には常にそれに見合った成果があるべきだと考えていたりします。その考えを点検してみることをしません。自分が間違っているとか、それほど努力をしていないのに過大な要求をしているとは思わないのです。

こんな状態では、努力するほど欲求不満が高まります(頑張るほどにヘンなものが手に入る)。憤慨し、人や世の中を恨んでみたり、努力を嫌い無気力、厭世的になったりします。

その人が気分良くなるためには、世の中がその人を中心に周らなくてはなりません。もちろん、そんなことは起こりえないのですが。

時には物事が順調に進むこともあります。回復していようが、いまいが、物事が順調な時には気分が良いものです。だから、順調さや気分の良さで回復は計れません。

回復が分かるのは、その人の思い通りに物事が動かない時です。「気分が良くなるため」に努力してきた人は、思惑通りに進まなくなったときに、恨みがましい行動に終始しがちです。自分が正しいと信じていることや努力の方向性を点検してみることはしないものです。

「私たちが自分で自分のみじめさを作り出したのははっきりしている」(p.141)

酒を飲んでトラブルを起こし、そのペナルティを食らったから惨めになったのではありません。アルコホーリックは素面の時にも自ら惨めさを作り出す生き方をしているのです。努力の方向性が、自分が「気分良くなるため」なのだから当たり前です。


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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