心の家路 たったひとつの冴えないやりかた

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たったひとつの冴えないやりかた
飲まないアルコール中毒者のドライドランクな日常
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2011年08月17日(水) ACのステップについて(その1)

福岡の「12ステップを学ぶ集い」でファシリテーターをやらせてもらいました。
ACの人たちの関心が高く、ひょっとすると参加者の半分以上はACのグループの人たちだったかもしれません。ACODAの本を持ってきている人も、水色の表紙の12ステップ本を使う日本のACAの方もいらしてました。また、ビッグ・レッド・ブックを使っているACAのグループの人もいましたし、はたまた回復研(つまりジョーのステップ)のプログラムをやっている人もいました。

少々意外に感じたのは、「同じ12ステップであっても、アルコホーリク本人とACのやるステップは違うのではないか?」という前提で考えている人が多かったことです。同じ12ステップなのに「違うこと」をやらねばならない・・というのは誤解です(もちろん)。

ただもちろん、違いもあります。AAのステップ1はアルコールに対する無力を認めるステップです。そのために、シルクワース博士による「身体のアレルギー(渇望)」と「精神的とらわれ(強迫観念)」の概念を長々説明せねばなりません。この身体と精神のふたつの病気の概念は、アルコール以外にも薬物やギャンブルなどのアディクションにはうまく当てはまります。しかし、家族(ACを含む)の人の問題を説明するためにはあまり役に立ちません。

ステップ1は「問題」を知るステップだと言います。自分が何かの問題を抱えていることを知った人は、できればその問題を解決したいと願うものであり、それがステップに取り組む意欲を生みます。アルコホーリクの場合には、「このままではまた酒を飲んでしまうし、飲み出したらやがて自分は破滅だ」ということが問題です。

しかしステップを先に進むと、この「問題」は実は表面的なことに過ぎないことが分かってきます。

「私たちにとって飲むことは問題の一つの症候にすぎなかった」(p.92)

正常で正気の人間が、破滅へ向かう酒をまた飲み始めるわけがありません。アルコホーリクは飲んでいないときも問題を抱えており、それが「最初の一杯」を飲む狂気を呼び起こします。つまり飲酒は表面的な問題に過ぎず、内部には本質的な問題を抱えているのです。それは酒を飲んでいるときだけでなく、やめているときも存在しています。「では本質的な問題とは何か?」をつまびらかにするのがステップ3です。そこで私たちは、自分が「何もかも取り仕切りたがる役者」であることを知ります。

そして、この本質的な問題はアディクト本人・家族、もちろんACにも共通している問題です。

ACにとっても表面的な問題というのは存在します。もともとアダルト・チルドレンという概念は1970年代にアメリカのアルコホーリクの子供たちの観察によって生まれました。ACA(Adult Children of Alcoholics)の創始者となった Tonny A. は、ACの特徴を14の項目にまとめています。

洗濯物リスト アダルトチャイルドの14の特徴
http://www4.hp-ez.com/hp/acafukuoka/page4/bid-83311

洗濯物リストってのはチェックリストという意味ね。この13番目と14番目にパラ・アルコホリックという言葉が出てきます。日本語に訳すなら疑似アルコホリックでしょうか。AC自身が酒を飲む人でなくても、アルコホーリクの家庭で育った影響を受けて、アルコホーリクと同じ性質を抱えることになってしまった・・・というのがACの問題です。

酒をやめただけで回復していないアルコホーリクは「困ったちゃん」であり、周囲の人間にとっては頭痛のタネです。同じようにACも(いったんアル中になって酒をやめるという過程は経ていないものの)酒をやめただけで回復していないアル中と同じで、困ったちゃんであり、周囲にとって頭痛のタネなのです。

ACの概念が広がって行くにつれ、アルコホーリックの成人した子供(ACoA)に限らず、親が依存症でない人の中にも同じ傾向を抱えている人が少なからずいることが分かってきました。そんな彼らは「機能不全家族で育って成人した子供たち(ACoD)」と呼ばれ、ACoAと同じくACと呼ばれるようになりました。

ところで、日本のACAやACODAでも、同じくACの特徴を説明するリストを使っており、明らかにトニーのものをベースにしています。

ACA:問題
http://aca-japan.org/docs/problem.html

ACODA:機能不全家庭で育ったことにより共通して持つようになったと思われる特徴
http://www.acoda.org/problem.htm

ところが日本のACのリストは13個、ACODAのリストは12個しかありません。数が少ないのは、最後の一つか二つ、パラ・アルコホーリックであるという説明を抜いているからです。なぜその説明を欠落させたのか意図は知りません。おそらくは疑似アルコホーリクという説明が、親がアル中でない人にはかえって分かりにくくなったからではないかと思います。

しかしながら、この「AC=疑似アル中」という説明の欠落が、アルコホーリク本人とACの抱える問題が違っているという誤解を生み、さらにはステップの中身も違ってくる、つまり回復の道筋まで違ってくるという誤解まで生んでいったのではないかと思います。

その点では、アメリカのACAがビッグ・レッド・ブック(BRB)というリファレンスとともに輸入されてきたのは歓迎すべき事です。

書き足しておくと、ビッグブックには「私たちが抱えている人生の問題」として、
・私たちはいつも人間関係の問題をかかえていた。
・感情を思うようにできなかった。
・みじめさと落ち込みの餌食になっていた。
・生計を立てられなくなっていた。
・自分は役に立たない人間だと感じていた。
・恐れと不安でいっぱいだった。
・不幸だった。
・他の人が助けを必要とする時に助けになれなかった。
と書かれています(p.76)。これもアルコールではありませんが表面に表れた「症候」であり、多くがACの洗濯物リストと共通します。

(続くよ)


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by アル中のひいらぎ |MAILHomePage


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