小さな出来事 - 2002年11月04日(月) それはほんとにゲームみたいだった。 まるでゲームの中の出来事だった。 それから、かけっこにも似てたし、お姫様ごっごにも似てた。 負けたふりして勝って、勝ったふりして負けて、結局負けても勝ってもないけど自分のために満足して相手のためにも満足して、「楽しかったね」って笑い合うようなゲームだった。 飲めないくせに強いお酒を飲んで、飲んでるときはおいしくて幸せだけどあとで気持ち悪くなるような、そんなのよりずっと健康的だった。楽しかった。楽しくて、なんでもない小さな出来事だった。 目が覚めたらお昼をとっくに過ぎてて、それからもずっとベッドの中で笑いながら3人でおしゃべりしてた。 3時頃になってやっと「朝ごはん食べに行こう」ってルームメイトとルームメイトの友だちが言って、わたしはルームメイトのお部屋で洋服を着る。「たばこ吸っていい?」って聞いて、リビングルームの窓辺でたばこを吸った。少し開けた窓から冷たい空気に向かって煙りを吐き出しながら、色づいた葉っぱを眺めてた。「大丈夫?」って、またカダーのことを考えてると思ったのか、ルームメイトがそばに来て聞いた。「綺麗だよ。ねえ、セントラルパークの葉っぱが見たい」「今日はダメだよ」「うん、今日じゃなくて」。今年も「オータム・イン・ニューヨークごっこ」は出来ないなあって、やっぱり少しカダーのことを考えてた。あのときジンクスだってもう諦めてたくせに。 グリークのごはんを食べてアパートに戻った。それからわたしはうちに帰ることにした。ルームメイトにハグして、ありがとうを言った。「See you soon, right?」って言うから「ほんと?」って聞いたら「1年後」って笑う。「No。そんなこと言わないで」。やめてよ、カダーみたいな意地悪は、って思った。それからルームメイトの友だちに大きく腕を広げる。コートごと力いっぱい抱き締めてくれて、友だちは「今度来るときまた会おうね」って言った。「うん、絶対会おうね。試験頑張ってね。それから明日、運転に気をつけてボストンに帰るんだよ」。 夜の11時半ごろ、電話で目が覚める。 「Hello?」って何度も言ってて、声が遠くてあの人だと思った。「もしもし?」って日本語で言ってみたけど「Hello」が返って来て、やっと誰だかわかった。「カダー?」。 「なんでそんなことしたの?」って、悲しそうにカダーが言った。 カダーが電話してきたことに少しだけ驚いたのと、カダーが悲しそうだったのが少しだけ悲しかった以外、わたしは動揺してなかった。ただ、カダーは誤解してて、それがいやだった。「あなたに何か悪いことしてやろうと思ったわけじゃない。あなたを苦しめようなんて思ってない。思ったことない」。そう言ったけど、「嘘だ」ってカダーは言った。 「会いたいから来て」ってカダーが言う。「聞きたいことがあるから」って。 「今から? だってあたし明日仕事だし、今からは行けないよ」 「来て。お願いだから」 「聞きたいことって何?」 「来てくれよ、頼むから」 「・・・。わかった、行く」。 ルームメイトには自分が呼んだんじゃないってことにしてくれってカダーは言った。 半分だけカダーの意図がわかった。あと半分はわけがわからなかった。 行って起こりうることを運転しながらいろいろ想像してはみたけど、カダーを悲しませないで済むならなんだっていいやって思ってた。 カダーはわたしを抱いた。 キスして。抱き締めて。きみを抱きたい。そう言った。 あいつから話を聞いたとき、自分がきみをまだどんなに好きかって気がついた。 きみを離したくないって気がついた。カダーは何度もそう言った。 -
|
|