ぬくもり - 2002年10月23日(水) 夜がすっかり明けてしまった。 あの人に電話した。絶対電話に出られない仕事の時間って分かってたけど、ただ番号を押したかった。明るい声が聞こえた。「届いたよ」って。この間送ってあげたヤツ。早かった。もう着いた。間に合ったね、ハロウィーンのイベントに。「出てくれないと思ってた」「うん。ほんとは出られないとこなんだけどさ、ありがとうって言いたかったから」。仕事中だからいつもみたいにはしゃいでない。でも嬉しいのが伝わったよ。 目が真っ赤に充血して、ぐりんと黒いクマが出来てて、めちゃくちゃ冴えない顔して仕事に行った。お昼休みに、ジェニーが学校のリサーチ・ペーパーに選んだトピックのことを話すのをみんなで聞いてたら、突然、ほんとに突然、何の前触れもなくボロボロボロボロ涙がこぼれた。 「どうしたの?」ってみんなが驚く。「またフロアで誰かドクターと口論したんでしょ」ってジェニーが言う。「胃が痛いの?」ってドリーンが子どもに言うみたいに聞く。フィロミーナが目をまんまるくしてじーっとわたしを見る。「何でもない。何でもないから、聞かないで。ジェニー、早く続き話してよ」。必死で笑おうとしてるのに、「ねえ・・・どうしたのよ?」ってジェニーはわたしの顔を覗き込んだ。 もうね、またこんなバカなこと言えないよ。お願いだから、今は知らん顔してて、って思いながら、両手で涙を拭ってはこらえてたらヒックヒックが止まらなくなった。 「誰だよ、アンタのハートをまたブレイクしたドクターは」ってジェニーが茶化してくれたから、「ドクターじゃないよ」ってやっと声に出せて、「平気だから。ごめん」ってやっと笑えた。 うちに帰るのがやだなあって思ってたら、ちょうどうまい具合に車のエンジンがかからなくて、駐車場から AAA を呼ぶ。待ってるあいだに、クラスから帰る途中のジェニーが電話をくれた。普通に笑っておしゃべりした。AAA が来てバッテリーをジャンプインしてもらって、うちに帰ってエンジン止めて、もう一度かけてみたらまたかからなかった。うちからまた AAA を呼ぶ。待ってるあいだにまたジェニーが電話をくれた。 「大丈夫?」って聞く。ちゃんと分かってたよ、心配してくれてるの。 少し黙ったあと、「カダーなんだ」って言った。 「女の子が出来たって言われたの。」 「・・・。」 「それで、もうあたしと会わないって。」 「アンタ、カダーにそういう感情持ってなかったでしょ?」 「I donユt know. Maybe」って答えて誤魔化した。 「No って答えてよ、 No って。ほんとに I donユt know. Maybe って思ってるにしても、No って答えるの!」 笑ったけど、鼻の奥がつんとした。 カダーはアンタが好きになる人じゃないよってジェニーは言った。だから、もういいじゃん。もういいから、忘れちゃいな? ああ、でもアンタの性格なんだよね、それ。なんて言ったらいいんだろ、「あんなヤツ」って思えないとこ。なんて言ったらいいんだろ。なんて言ったらいいんだろ。 わかるよ、ジェニーの言いたいこと。ドクターのときだって、いつまでも「でもいい人だったんだよ」って言ってて、呆れられてた。スパッと断ち切れないんだよ。 だけど、たぶん今度は大丈夫。たぶん。 この次のときはね、余計な分まで好きなっちゃいけないよ。ね、友だちのところで止まってなよ。友だちの状態が一番素敵じゃん。それ以上距離が縮むとね、悲しみと痛みがおまけについてきて、シンドイことが増えるんだから。ね、この次誰かと仲良くなったら、好きになりすぎちゃいけないからね。 でもね、ジェニー。悲しみと痛みがくっついて来ても、他にはないぬくもりがあるんだよ。わたし、あったかいのがいい。ゆらゆらゆらゆらあったかい、あのぬくもりが大好きなんだもん。幸せなんだもん。要るんだもん。・・・また失っちゃった。 「急に気温が下がったから、バッテリーがやられたんだよ。ジャンプインしても、もう無駄だよ」。AAA のお兄さんに言われた。お店はもう閉まってる時間だし、困ってたら、自分ちに持ってるバッテリーを40ドルで譲ってつけてあげるって言ってくれた。信用していいのかどうかわかんないけど、40ドルは安いからそうしてもらった。 今日はほんとに寒い。 でも、カダーのことは大丈夫だから。たぶん、たぶん、大丈夫だから。 -
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