天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

全てのことは理由があって起こる - 2002年10月02日(水)

カダーの大きな寝返りで目が覚めた。うめき声を上げて震えたから、驚いて額に手を当てたら熱かった。「寒いの?」って聞いたら「寒い」って震える声で言った。首も熱かった。カダーは「吐き気がする」って言った。時計を見たら7時だった。24時間開いてるドラッグストアにお薬と熱冷ましのハーブティを買いに行こうとしたら、カダーが止めた。ここにいてって言った。

期限のペーパーは出来てるはずもなく、今日はクラス休んだほうがいいって言ったけど、カダーは聞かなかった。ほかに何もないからコーヒーを飲むってカダーが言って、煎れてあげた。カダーが持ってたお薬の中からフルー用のお薬を見つけてそれを飲ませた。「きみはここにいなよ」って言って、送ってあげるって言ったのも聞かないで、カダーは自分で車を運転して学校に行った。心配だから学校に着いたら電話してって言ったのに、電話はかかってこなかった。カダーらしかった。

ひとりでぼんやりリビングルームに座ってたら、カダーのルームメイトが起きてきた。
コーヒーを煎れてくれて、一緒にお部屋の掃除をして、わたしは何も聞かずにいたけどルームメイトが夕べのことを話し出した。その女の子が自分の胸で泣いたこと。先週もおなじことがあったこと。幸せじゃない涙は誰でも嫌いだって言った。わたしは平気を装って、でも胸が痛かった。泣かせてるのはカダーだ。先週もおなじことがあったんだ。

ルームメイトは、カダーが好きな、海の公園にわたしを連れてってくれた。

前に住んでたアパートからほんの半マイルのとこなのに、わたしは行ったことがなかった。名前だけは知ってたけど、そんな公園だなんて思ってもいなかった。カダーが言ってたとおりの、ほんとに素敵な公園だった。連れてってあげるって言ってくれたのに、叶わないでいたビーチのある公園。

海は蒼く蒼くキラキラ光って、何隻ものボートがいろんな色の帆を光に揺らめかせて、海岸沿いに遊歩道があって、その後ろの小高い丘は小さな実のなる背の高い木で覆われてて、ビーチに続く芝生にはカナディアン・ギースの群がいた。
あの、カナディアン・ギースがいた。
あの、なつかしいカナディアン・ギースがいた。

あの街みたいだった。あの街のビーチとおんなじだった。
心臓の鼓動が激しくなった。倒れるかと思った。
両腕を広げてバランスを保って、何度も深呼吸して、「あたし、泣きそう」って言ったら「泣くなよ」ってルームメイトが言った。

ルームメイトはわたしとカダーのことを聞いた。「ガールフレンドじゃないの。愛してないって言われた」って言った。「きみは愛してるの?」って聞かれた。「わかんない。愛さないようにしてる」って答えた。愛してるって思わないようにしてるって言ったほうが正解だったかもしれない。

カダーのルームメイトとたくさん話して、わたしは初めて、カダーがどうして前のガールフレンドを友だちとして失いたくないのかがわかった。カダーは何もかも失った人だ。それは知ってた。自分の国に帰れない。帰れなくなった。個人的な理由ではなくて、政治的な理由で。それはわたしが日本に帰れない理由とは全く違った。カダーも、あの9月11日の出来事の犠牲者のひとりだった。知ってたのに、分かってなかった。何もかも一から築かなきゃいけなくなったこの国で、巡り会って、楽しい時間を過ごしたその女の子の存在をゼロにしてしまうなんて、何かをまた失ってしまうなんて、たとえステディな関係を自分から絶ったとしても、それ以上にもう「失う」ことはカダーには怖れでしかないんだ。

カダーがあんなに友だちを大切にする理由もわかった。
自由でいたい気持ちもわかった。何もかも失いながら、カダーにはあまりにもたくさんの束縛がある。


全てのことは、理由があって起こる。
そして、起こるときには起こる。
だから受け入れるしかない。


夕方にはカダーは帰って来る。
「いてやりなよ」ってルームメイトは言った。「きみだって心配なんだろ?」。
わたしはカダーが元気になるためにおいしいものを作ってあげたかった。うんと遅いブランチを一緒に食べてから、ルームメイトとスーパーマーケットに買い物に行った。カダーの好きなシーフードで、あったかいリゾットを作ることに決めた。


-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail