天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

寝顔 - 2002年10月01日(火)

「今あいつが電話して来たよ。『女の子が外であなたのこと待ってるわよ』ってさ」。
わたしをアパートに入れて、リビングルームのカウチに座らせて、自分も隣りに座って、心配そうに顔を覗いてるわたしに困ったような可笑しいような微笑みを漏らしてから、カダーが言った。前のガールフレンドのことだった。

それからカダーは話し始めた。その子が自分のルームメイトと一緒に、ワインのボトルを持って突然やって来たこと。カダーがペーパーを書かなくちゃいけないからって自分のベッドルームに閉じこもって勉強を始めたこと。リビングルームでしばらくカダーのルームメイトと過ごしてる間に彼女は泣き出しちゃったこと。でもカダーはほんとにペーパーを仕上げなきゃいけなかったし泣かれるのが嫌で相手に出来ないで放っておいたこと。たまりかねたカダーのルームメイトがなんで自分が巻き込まれなくちゃいけないんだみたいなことを言って、それでますます彼女は泣いたこと。カダーがワインを一口飲みにリビングルームに行ったら、彼女はやけくそみたいにワインをがぶがぶ飲み出したこと。カダーはそれがものすごく嫌だったこと。そこへわたしから電話がかかって来たこと。女の子からの電話って察して彼女はバスルームに入って泣き続けたこと。

バカだなと思った。バカだけど、わたしはその子の気持ちが自分のことみたいにわかった。
もう別れたはずなのにまだ友だちで、でも「友だち」を彼女は受け入れられなくて、まだ愛してるから会いたくて、会ってもう前みたいじゃないってわかったらそれが辛くて、だけど我慢して友だちのふりして、一生懸命我慢してるからちっちゃいことで我慢の糸が切れちゃって、泣くと嫌がられるってわかってるのに泣いて。
バカだと思ったのは、わたしはカダーの新しいガールフレンドなんかじゃないのにってこと。わたしだっておんなじ「友だちでいようって言われ組」なのにってこと。だけど彼女にそんなことわかるはずがない。カダーがそう言ったって信じるはずがない。


彼女はいつもカダーに愛をねだってばかりいた、って言った。カダーに愛して欲しがってばかりいて、カダーはだから彼女が愛して欲しがってたようには愛せなかった。

「愛してないって言ったの?」
「言わない。僕は愛してるとか愛してないとか、言わない。」
「あたしには言ったよ、愛してないって。」
「きみは大人だから。ちゃんと意味を理解してくれる人だから。」
違うよ。そんなこと心で理解出来るほど、わたしは大人じゃない。頭で理解出来るくらいには大人だけど。
「ごめん。きみのこと愛してなくて。愛せなくて」ってカダーが言った。
「ごめんだなんて思わなくていいよ。あたしだって愛してないもん。」
「だから?」
「だから、おあいこ。」
カダーがちっちゃく笑った。

カダーは誰のものにもなりたくない。自由でいたい。それで別れて、だけど彼女を完全には失いたくない。だから会う。そうやって彼女を傷つけてる。このあいだ「寝た」って言ったのは、やっぱりその子のことだった。求められたらヤッちゃうのはしょうがない。求められたんじゃなくて自分からヤリたくなったのかもしれないし、それもしょうがない。寝たあとめちゃくちゃ後悔したって言った。もう絶対抱きたくないって言った。彼女はよりを戻したがってるけどそれは出来ないって言った。それでも友だちとして失いたくないって言った。

一番バカはカダーだと思った。

全部取っておこうとしたら何もかも失うこともあるんだよ。
何かを失わなきゃいけないときもあるんだよ。
それに、あなたがそうやって彼女と友だちでいようとすることは、彼女を傷つけ続けることになるんだよ。

まるで自分のことだって思いながらそんなことをカダーにたくさん言った。いつかわたしにそうするカダーのために、自分に言い聞かせてるみたいだった。

カダーはわたしにたくさん言い返して、それで、なぜだかわたしはだんだんカダーが愛おしくなっていった。「I like you」って言ったら、カダーは背中を向けて「I donユt like you」って子どもみたいに言った。

「I like you」
「I donユt like you」
「I like you」
「I donユt like you」
「I like you」
「...I like you」。

それからカダーはいろんなことをわたしにたくさんたくさん話した。
自分のこと。ここに来てからのこと。仕事のこと。ルームメイトのこと。わたしのこと。
いろんなこと。いろんなこと。いろんなこと。
今までわたしに話したことなかったことを、全部吐き出してるみたいだった。
こんなにたくさんふたりで話したことなんかなかった。
ときどきジョーク言い合っては笑いながら、それでもカダーはこころの中に溜まってる葛藤とか不安とか心配とかそういういろんな重たいものをひとつずつ吐き出してた。
わたしはそれをひとつずつ手のひらに受け止めて、おしゃべりに紛らせてこっそり後ろ手で握りつぶしてた。二度とカダーの中に戻らなければいいって思いながら。

もう朝の4時になってた。
カダーはわたしの手を取って、ぎゅっと握って、「きみはあったかいよ。あったかくて、心が広い」、そう言って、そしてそのままわたしの手を離さないで眠った。
少しだけまだ疲れた顔した、泣いたあとの子どものみたいな寝顔だった。




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