どうしてこういう勘は - 2002年09月30日(月) 土曜日の夜。クッキーを焼いた。 明日期限のペーパーがあるってカダーが言ってたから、差し入れに持ってってびっくりさせようと思い立った。もう11半を回ってたけど。 こんなふうに突然行って、そしたら他の女の子がいたりして。 これが勘だったらまた当たったりして。 そしたら、ああどうしてこういう勘は当たってしまうんでしょうって、もう笑い話だな。 って、運転しながら、真面目なんだかふざけてるんだか自分でもわかんなかった。 カダーの家の前から電話する。 「何してたの?」 「ん・・・何も。これから勉強始めようと思ってたとこ。」 「今あなたのおうちの前にいるんだよ。」 「嘘だろ?」 「ほんと。クッキー焼いたから持ってきてあげたの。」 「冗談だろ? ほんとはどこにいるの?」 「ほんとにおうちの前。」 「・・・。今さ、うちじゃないんだよ。友だちのとこにいるんだよ。」 「・・・。」 「ごめん、あとで電話するからさ。」 カダーの声は少し変だった。 リビングルームとカダーのベッドルームには灯りがついてた。 「・・・。なんで嘘つくの? だって灯りがついてる。」 「友だちのとこにいるんだって。うちには誰もいないよ。ちょっと今話せないから、30分後にかけるから。」 リビングルームのカーテンの向こうに人影が見えた。そっと外を確かめてるみたいだった。 「・・・。わかった。いいのいいの、いないんなら。」 それでもほんとにいないのかもしれないと無理に思って、クッキーの袋とカードを、アパートの玄関に回ってドアの下に置いた。ノックしてみたけど、誰も出て来なかった。 車のところに戻ったら、さっきは半分しか閉まってなかったカダーのベッドルームのカーテンが、今度は全部閉まってた。胸にズンとなんか重たいものが沈んだ。ほら、やっぱり勘が当たったんだ、って、思った。怖かった。でも不思議と落ち着いてた。 30分したらかけてくれるって言ったんだからって、じっとおうちの様子を見ながら待ってた。リビングルームの窓とカダーのベッドルームの窓と自分の腕時計を、代わりばんこに見てた。携帯、役に立ってるじゃん、ってこんなときにそんなことも思ってた。そして待てずに、わたしから電話した。 「なんで嘘つくの? おうちにいるんでしょ? じゃなきゃ、あなたのお部屋のカーテン閉めたの誰?」 「知らないよ。僕はうちにいないんだから。ごめん。今日は会えないよ。今は会えないよ。」 「・・・。会わなくていいよ。クッキー持って来ただけだから。会わなくていいの。でもなんで嘘つくのか知りたい。」 カダーは少し黙ってて、それから言った。 「・・・。後で説明するから。」 「誰かが一緒なの?」 「違う。きみが考えてるようなことじゃない。とにかく、また後でかけるから。わかった?」 「ほんとにかけてくれるの? あたし、ここで待ってるよ?」 もう殆ど涙声になってた。とうとう今日は帰りの高速をこれからボロボロになって走るんだって思った。それでもなんとなく落ち着いてた。 ドライブウェイから車が一台バックで降りて来た。 カダーかと思ったけど、カダーの車じゃなかった。 ライトを消して停めてるわたしの車の横を、その白い車はゆっくりすり抜けた。目を凝らして運転席を見た。女の子が乗ってた。助手席にも誰かがいた。 車が行ってしまったすぐあとに、携帯が鳴った。 さっきまで少しおかしかっただけのカダーの声はトーンが変わってた。わたしが問題を大きくしたとかなんとか言って、わたしを責めてるふうな口調だった。意味が半分しかわからなかった。女の子のことには間違いなかった。 やっと心臓がどきどきしてきた。黙ってたら、前のガールフレンドがその子のルームメイトと遊びに来てたんだってカダーは言った。今でも友だちって知ってる。その子がまだカダーのことを愛してることも知ってる。 「だってそう言ってくれなかったじゃない。うちにいないなんて嘘ついたじゃない。人が来てるからとか前の彼女が来てるからって言ってくれてたら、あたし諦めて帰ってたのに。」 違う。それでも玄関に回ってドアをノックしてクッキーを渡して、わたしったら確かめてたかもしれない。そして女の子が来てるって知って、やっぱり泣きながら帰ってた。 「白い車が出て行っただろ? 見た?」 「うん。」 「・・・。アパートにおいで。中に入りなよ。話すからさ。」 カダーはいつもの声に戻っててわたしはちょっと安心して、その子が帰ったことにも安心して、カダーが帰れって言わずに中に入れてくれることにも安心して、わたしは車を車道に置いて真っ暗なドライブウェイを歩いて登って、だけどまだどきどきがおさまり切らないまま、ドアをノックした。 -
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