わたしのもの - 2002年09月24日(火) 約束の時間通りにカダーのアパートに着いた。 明るい陽差しの中で見るおうちは、前に見たよりずっと素敵だった。 ドアの窓から中が見えるけど、鍵がかかってて、ベルを押してもノックしてもカダーは出て来ない。 10分ほどノックし続けて、やっと出て来たカダーは「ごめん、寝てた」って言ったあと、「How are you?」って抱き締めてくれた。 カダーがシャワーを浴びてるあいだ、古い本棚に古い童話の本を見つけて読んでた。「僕は獣医さんになりたい」って題のお話だった。シャワーから出てきたカダーに言う。「この男の子の名前さ、Dick だってさ。絶対今じゃつけない名前だよね。そう言えば昔アメリカ人の友だちがね、お父さんの名前が Dick っていって、お母さんがお父さんを大声で呼ぶたんびに顔が真っ赤になるって言ってたよ」。カダーは笑いながら、笑ってるわたしのくちびるをくちびるで塞いだ。 カダーとカダーのルームメイトにうどんを作ってあげることになってて、「いつ作ってくれるのさ」って昨日電話でカダーが言った。ルームメイトが日本の料理が好きで、インスタントじゃないちゃんとしたうどんが食べたいって言ってたから。 「だって、あなたずっと忙しいじゃん。」 「そうだけど、知ってるだろ? ほんとに忙しいって。仕事行ってて、学校も行ってて、課題はたくさんあるし、ほかにもやることいっぱいあるし。」 「女の子もたくさんいるし?」 「女の子もたくさんいるし。」 「・・・。」 「何黙ってんだよ。女の子なんかいないよ。」 「女の子いないの?」 「いないよ。あれからセックスもしてないよ。あれからだよ?」 「信じられない。」 「信じようが信じまいが、してないものはしてない。」 コンドームつけようとするカダーに、「なんで?」って聞く。 「ほかの男とやってない?」「ないよ。そんなわけないじゃん」。 コーヒーを煎れてくれる。それから「チョコレートチップのクッキーがあるよ」ってお皿に並べてくれて、冷蔵庫からオリーブのペーストを出した。プレッツェルをクッキーの横に乗っけて、「これつけて食べてみな」って言う。オリーブのペーストなんて初めてだった。カダーはそれからオリーブの木の話や世界一古い町の話や、自分の国のことをたくさん聞かせてくれた。物語を聞いてるみたいに胸がドキドキする。カダーの国のことを聞かせてくれるときのカダーが好きだと思う。 オリーブのペーストはおいしかった。カダーはわたしが気に入るのをきっと知ってた。「おいしー」って言いながら、舌を使ってプレッツェルの穴をオリーブのペーストで埋めてから、「ほら、かわいい?」って見せたら呆れられた。あの、呆れたときの表情と左手をくるっとフリップする癖が好きだと思う。 テーブルの上を急いで半分だけ片付けて、出掛ける用意をする。 クッキー持って行きなよって、子どものおやつみたいに持たせてくれるのが好きだと思う。 カダーがわたしの車を運転して、携帯電話を買いにカダーの友だちのところに行く。 カダーの運転は強引なのに丁寧で、スピード出すのに優しくて、マナーの悪いドライバーをマザーファッカーなんて罵るくせに落ち着いてる。「運転の仕方って性格出るよな」って言うから「うん。あなたの運転、アグレシブ」って言ってやったけど、ほんとはそんなこと思ってない。「あたしは?」って聞いたら「言わないほうがいいと思う」って言われた。カダーの運転の仕方が好きだと思う。 友だちにわたしを紹介してくれるときのやり方が好きだと思う。 わたしのことを何でも知ってるみたいに、ちっちゃなことを自慢げに言ってくれるときの言い方が好きだと思う。 自分で決められないわたしに、冷静でかしこくて救い上げてくれるような助言をくれるときの自信が好きだと思う。 だから、わたしのものにしたいと思う。 わたしだけのものにしたいと思う。 そんな、わたしの好きなカダーのもの、全部。 -
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