優しく殺されたい - 2002年09月21日(土) 電話を取る。 意識は夢の下に潜んでても、受話器を取る手がちゃんとあの人の電話ってわかってる。 来週の水曜日から一週間、レコーディングの缶詰だってあの人が言った。 「きみは何すんの、今日?」 「しごと〜。」 「え? 土曜日なのに?」 「あしたもしごと〜。」 「え? 日曜日なのに?」 「なーにいってんのー? しゅうまつしごとのときもあるじゃんあたし〜。」 「ああ、そうか。最近世間のことわかってないからなあ。そう言えば日本は三連休らしいけど。僕には関係ないし。」 「なあに? ああ、えっとー、しゅんぶんのひー?」 「そういうやつ。先週も三連休だったみたいよ。」 「いいなあ、にほんはいっぱいおやすみがあってー。」 あの人は、レコーディングしたら新しい CD 送るよって言った。 前の分は? アメリカに来たとき買ってくれたつるつるになる石鹸は? あわあわのお風呂の素は? 絵本は? カレンダーは? 去年の誕生日に送ってくれるはずだったお人形は? それから、それから、あとなんだっけ? 「住所、教えてくれないの?」 だって教えたらまた待っちゃうもん。送ってくれないじゃん、ちっとも。 眠たくて、声にならない。 「いまなんじー?」 「夕方の4時半。」 じゃあ朝の5時半かあ、ってぼんやり思った。 でもそれ、間違ってた。3時半だったんだ。 おかげで起きられなくて、10分遅刻しちゃった。ボスのいない週末でよかった。 帰って、Radio VH1 を聴く。 いつもは聴かないステーションに行ってみたら、「Killing me softly with his song」が流れた。 その指で私の痛みをかき鳴らし、その言葉で私の人生を歌い、その歌で私を優しく殺して、その歌で私を優しく殺して、その言葉で私の人生の全てを語ってた。群衆の中で私は恥ずかしさに火照った。まるで私の文字をひとつずつ読み上げてるかのようだった。歌が終わって欲しいと祈った。でも彼は、ただ、ただ、その指で私の痛みをかき鳴らし、その言葉で私の人生を歌い、その歌で私を優しく殺して、その歌で私を優しく殺して、その言葉で私の人生の全てを語り、その歌で私を優しく殺し続けてた。 人生のシナリオは、ときどき出来すぎてる。出来すぎて滑稽なお芝居みたいに。 あの人の曲でわたしは優しく殺されたい。 わたしの全てを見透かすようなあの人の心が創る音で、わたしは優しく殺されたい。 キーボードを走るわたしの大好きなあの指が生み出すメロディーで、わたしは優しく殺されたい。 天使の奏でるあの美しい音楽で、わたしはうっとりと優しく甘く、殺され続けたい。 だから住所を教えなくちゃ。 明日も電話するよって、あの人は言ってた。 -
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