レイチェル - 2002年09月19日(木) 来週の月曜日だったはずのお休みが、ビクトリアのわがままのせいで火曜日に変更された。でもおかげで別に休みを取らずにすんで、火曜日にカダーに会える。 「休み取れる日決めたら教えてよ」って言ってたから、今日は電話するちゃんとした理由が出来た。電話を取ったカダーが、「今トイレ中だから、1分経ったらかけ直す」って言った。切ってほんの少し経ったら電話が鳴る。知らない男の人の声だった。「レイチェル、いますか?」って。カダーが声色変えていたずらしてるのかと思った。「いいえ。レイチェルって名前の人はここにはいませんよ。番号お間違えじゃないですか?」って言いながら、まだカダーかもしれないって思ってた。 「あなた、誰ですか?」って男の人が聞くからちょっとムッとしたけど、やっぱりカダーがいたずらしてるのかなって思って、「あなたこそ誰?」って笑いそうになって聞いたら、「コンラードですけど」。ほんとにコンラードさんみたいだった。声が心配そうだった。ここにレイチェルがいないのが本当ってわかって、その人は丁寧に謝って切った。 それからすぐにカダーからの電話が鳴った。今日はちゃんとかけ直してくれた。 ルームメイトと一緒にマジェッドのアパートに来てるって言った。カダーがこのあいだまで住んでた場所。わたしの前のアパートとおんなじところ。 「なつかしい?」って聞いたら「なつかしいよ」って言った。「あたしもなつかしいな。いいアパートだったよね」「うん、いいアパートだよ」。ルームメイトがプレイボーイのチャネル観てるって言う。マジェッドはケーブルTV の会社に勤めてるから、200近くあるチャネル、全部ただで観られる。「アイツが観てるってことは、必然的に僕も観てるんだけどさ」「プレイボーイのチャネル観るためにマジェッドんち行ったの?」「違うさ。ランドリーしに来たんだよ」。おうちのアパートはランドリールームがないからやっぱりカダーも不便なんだ。このあいだは大学の寮にランドリーしに行ったって言ってた。 「久しぶりにマジェッドに会いたかったしさ。そしてプレイボーイがおまけについてくる」。相変わらずカダーは器用に、わたしとのおしゃべりにほかの二人も交えて、電話なのにみんなでおしゃべりしてるみたいなシチュエイションを上手に作る。不思議な人。 「また電話するよ」って言うから、「してくれないじゃん」ってちょっと拗ねた。「今日は僕がかけただろ? あれ、どっちがかけたんだっけ?」「あたしでしょ?」「いや、この電話は僕からかけた」。「ちっとも電話くれない」ってまた拗ねたら、じゃああとでまたかけるからってカダーは言った。カダーの前じゃいい子でいなくちゃって頑張るけど、ほかの二人がいるからなんとなく緩んでしまう。それでそれがちょっと心地よかったりする。 1時間くらい経って、ほんとにかけてくれた。マジェッドのアパートからの帰り道。 「ほんとにかけてくれると思わなかった」って嬉しそうに言っちゃった。「なんでさ。ちゃんと僕からだって電話してるじゃん」。「忙しいからさ、時々しか出来ないけどさ。心配するなよ、ね?」「うん、わかってる。わかってるよ、忙しいって。いい子だもん、あたし」。忙しいって言いながらほかの子と寝たじゃないって、思った。「いい子だよ。きみは sweetheart だよ」。違うよ、無理してるのに、って、思った。 「キスして欲しい?」「うん、うん」「ン〜マッ」「ふふ。それ好き」「おやすみ。いい夢見なね」「うん、おやすみ。あなたもね」。 カダーがいなかったら、今日もわたしはひとりであの人の電話を待ってた。鳴らない電話を待ってた。鳴らないからこっちからかけてた。繋がらない電話にかけてた。 だから、少し切ないけど、こんなだけど、カダーに会わせてくれたことに感謝。 誰? あの娘? わかんないけど。 また電話が鳴った。あのコンラードっていう男の人だった。 レイチェルの電話番号を探したいって言った。この番号の前の持ち主の連絡先がわからないかって聞かれた。そこはニューヨークの○○なのかってここの場所の名前を確かめてた。わたしはもう2ヶ月くらい前にこの番号を取って、前に誰がこの番号を使ってたかはわたしではわからない、その人がここに住んでこの電話を使ってたわけじゃないから、でも電話会社には記録があるはずだから分かるかもしれない、教えてくれないかもしれないけど、って説明した。コンラードさんだって落ち着いて考えたらそんなのわかるだろうに、とても落ち着いてるふうじゃなかった。「そうですか」ってがっかりした声で言ってから、「何度も電話してご迷惑おかけしました」ってまたとても丁寧に謝った。「いいえ。見つかるといいですね」ってわたしは言って、コンラードさんが切るのを待ってから切った。 レイチェルが見つかるといい。ほんとにそう思う。 レイチェルの事情なんか知らないから勝手にそんなこと思っちゃいけないけど、コンラードさんのために見つかって欲しいと思う。 レイチェルは意地を張って、新しい番号を教えなかったのかもしれない。もしそうならレイチェルのためにも、コンラードさんに早く見つけてあげて欲しいと思う。 みんな幸せになれ。前より、今より。少しくらい切なくても。 -
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