日記 - 2002年09月16日(月) 明日はジェニーのバースデーだから、今日お祝いに晩ごはんを食べに行った。 明日はジェニーは仕事のあと学校があるから。ジェニーも9月から夜にマスターのコースを取ってる。カダーがコースを取ってるのとおんなじ大学で。 久しぶりにジェニーと出掛けて、楽しかった。ジェニーはカダーを知ってるけど、わたしとカダーとのことは何も知らない。わたしがカダーを好きなことも知らない。こんな幸せじゃない関係を知ったら、ジェニーはきっとまた怒る。カダーのことを、またドクターのことみたいに「ひどい男」って思われたくないから言えない。レズがわたしをずっとデートに誘ってたのは知ってる。ジェニーはレズをよさそうな人って言ってて、だから土曜日にごはんを一緒に食べたことを話した。わたしから電話をかけたって言ったら、ちょっとびっくりしてたけど。 楽しくて、帰り道、またうちに帰ってひとりになるのが辛くなる。あれからカダーは電話をくれなくて、わたしからかけてばかりいる。忙しいと「あとでかけるよ」って言いながら、かけてくれない。 今日もわたしからかけてしまった。また忙しいって言われたらやだなって思いながら。今日はたくさん話せた。カダーは「日記、もう書いたの?」って聞く。わたしが日記をつけてることを、まだ前のアパートにいるときに話してた。ほかの誰も知らないこと。あの人にだって内緒のこと。 どんなこと書いてるのさってカダーは聞いて、毎日一体何を書くのかよくわかんないよって言った。それから、読んで聞かせてって言った。「日本語で?」「英語でだよ」「だめ。内緒のことだもん」「その日にあったことを書くんじゃないの?」「その日にあったこととかその前にあったこととか、その時に考えたこと」「聞きたいよ」「だめ」「いいじゃん。一日分だけ、英語に訳して聞かせてよ」。 カダーは言い出したら聞かない。しょうがないから、一日分を選んで、英語に訳しながら読み始めた。カダーと初めて会ったときのことを書いた日の日記。 途中でためらって止まったら、「飛ばしたり変えたりするなよ。ちゃんとそのまま読みなよ」って言う。飛ばすに決まってんじゃん、あの人のことの部分は。ドクターのこと書いてる部分も誤魔化した。 読みながら、「覚えてる?」って聞くと、「覚えてるよ」って言う。わたしは照れて、笑いながら「やだ。恥ずかしいよ」って言っては止まる。カダーは笑わずに「ほら、待ってるんだから」って言う。「最後まで読んだら、何くれる?」「キスしてあげる」。そう言ってまたあの「ンーマッ」のキスをくれて、「最後まで読んだらもうひとつあげるから」って言った。 「ほかには何もくれないの? あたしの誰にも秘密の日記を読んで聞かせてあげてるんだよ?」「何が欲しいの?」「会いたい」。 いつって約束出来ないって言われた。ウィークデイは毎日忙しいし、日曜日もクラスがあるし、今度の土曜日はルームメイトの友だちのバースデーパーティに一緒に行くって。 「・・・。わかった。じゃあ続き、行くよ?」。明るい声で言う。 最後の部分を飛ばしたから、尻切れトンボになって終わった。「終わったよ」って言ったら「また飛ばしたな」って言われた。「これで全部だって。終わったからキスして」。 「いいね。I liked listening to that. I liked hearing you read it. 書き留めておいたことを、その日に戻って読んだらその時の感覚が蘇ってくるんだね。そういうのっていいね」。 そう言ってくれて、嬉しかった。カダーは言葉が好きで、感覚を大事にする人で感情にセンシティブで、わたし、カダーのそういうところが好きだ。はじめの頃の感覚が蘇って、カダーはどんな気持ちになったんだろう。少しだけ、電話から聞こえる呼吸に乗って伝わった気がした。そのままあの頃の感覚がずっと蘇っててくれればいいのに。 おやすみを言って切ってしばらくしたら、あの人が電話をくれた。 あの人ったら、わたしが教えた電話番号の、一番最後の数字を書き落としてたらしい。最後のひとつが足りないのに気がついて、0から順番におしまいにくっつけてかけて、6のとこでやっと録音したわたしの声が聞こえてメッセージを残したって言った。それはおとといのことだったらしいけど、留守電には何も入ってなかった。 何てメッセージ入れたの? って聞いたら、「かけたよー。またかけるねー」だって。 時が蘇る。 ちょっと幸せな日だった。 その日がちょっと幸せならそれでいいって思えるようになりたい。 遠い先のこともすぐ近い先のことも、憂えることなく。 考えたくないことは何も考えずに。 -
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