忘れない日 - 2002年09月11日(水) 少し寒かったから、熱いお湯をたくさん出して時間をかけてシャワーを浴びる。 濃い黄色の、片方の端に濃いブルーの四角が一列に並んでる新しいバスタオルは、わたしのためのタオルだってカダーは言った。バスルームには、おんなじタオルのサイズの大きいのがかかってた。 バスルームも広くて綺麗で、大きな窓には、わたしに選んでくれた紺色のスクロールカーテンとおんなじカーテンのサイズの大きいのがかかってた。 きちんと仕事の支度をして、カダーのベッドルームに戻る。 まだ眠ってるカダーを覗き込んで、「行ってくるね」って小声で言ってみる。 カダーは目を覚まして、わたしの髪を撫でて、とても素敵に微笑んで「綺麗だよ」って言った。 「何か食べる? シリアル? フルーツ?」「ううん、何もいらない」「食べて行きなよ」。そう言って体を起こすから、「いいの。寝ててよ、このまま」って言ったけど、カダーはベッドから起き出してわたしの肩を両手で抱きながらキッチンに連れてった。「バナナ、好き?」。笑いながら「好きだよ。大好き」って答える。「じゃあ、持って行きなよ」「うん」。大きなバナナを一本ちぎって、わたしに持たせてくれた。 そして抱き締めてくれる。また泣きそうになる。でもそれは、痛みよりも切なさに似てた。「またここに来たいな」「おいでよ」「電話してくれるの?」「もちろん」「また会える?」「会うって」「いつ?」「きみが会いたいときにいつでも」「うそつき」。ふたりで笑った。それから顔を見上げて、言ってみた。「もう、ほかの子のところに行かないで」。 「行かない」「ほんと?」「行かない」「約束する?」「約束する」「ほんとに?」「約束する」。 背伸びをして首に抱きついて、耳元で「I like you」って言ったら、ぎゅうっとわたしを抱き締めたカダーが「I love you」って言った。 わたしは笑った。「もうふりしなくていいんだよ」って言いかけてやめた。また泣きそうになった。でもそれは、切なさよりも幸せに似てた。 何度も何度もキスしながら送り出してくれる。 車を出すあいだもずっと見ていてくれる。 見えなくなるまで手を振っててくれる。 多分、今まで一緒に過ごしたなかで、一番幸せに近かった日。 ふりでもお芝居の幸せでも何でも、ほんとみたいに幸せだった。 全部ほんとのことって思いそうになるくらい、幸せに似てた。 だからきっと、もうこんな日はないんだろうなって思う。 そしてこの日のことを、忘れないんだろうなって思う。 似たような日があった。 似たような切ない夜と一緒に。 おんなじように幸せに似ていた。 そして日付がまったくおんなじ、忘れないあの日の前だった。 9月11日。 アプリシエーション週間にこの日を重ねて、病院でお昼にスタッフへの感謝とあの日の追悼のパーティがあった。 だからといって、誰もあの日のことをもうわざわざ口にしない。それは、今日が思い出すための日ではないから。忘れないことと、思い出すことは、違う。この街に住む人たちの誰の胸にも、それぞれの形でそれぞれの思いで、それはずっと忘れられずに留められていて、口にするにはまだひりひりと痛すぎるものだから。 静かに穏やかに、ひとりひとりが特別な思いを胸に、過ぎて行った日。 -
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