「I love you」 - 2002年09月10日(火) 仕事に疲れてベッドでうとうとしてたら電話が鳴った。 「今からうちにおいで。今日泊まって、明日ここから仕事に行きなよ。そうしなよ」って、カダーが言った。 どうしたのかな、ルームメイトが今日は帰って来ないのかな、って思いながら、待っててくれてるガスステーションに向かって高速をぶっ飛ばした。わたしがカダーの新しいアパートの場所を知らないから、「僕たちの前のアパートのそばのモービルのステーションで待ってるから」ってカダーは言った。ああそうだ、おんなじアパートのビルに住んでたんだよね、って、カダーの「僕たちの」って言い方がなんか可笑しくて嬉しかった。 「今の時間なら高速空いてるから30分で来られるだろ?」ってカダーが言ったから、遅れないように必死で飛ばした。またスピード違反で捕まったら罰金払ってもらうからねって思いながら。 チビたちのごはんの用意と「おりこうにして待ってるんだよ。明日の夕方まで帰って来ないからね。大丈夫だよね」って言い聞かせてたのと、高速が思ったほど空いてなかったのとで15分遅刻した。怒ってるかなと思って、ガスステーションに見つけたカダーの車の横にピッタリ自分の車を滑らすようにくっつけて顔を覗いたら、カダーは窓からこっちを見て笑って手を振った。 カダーの車のあとについて、カダーの新しいアパートに行く。 素敵なお家のアパートだった。 リビングルームがとっても広くて、暖炉があって、古い本棚に古い本が並んでるのもアンティークなカボードも、そこのお家のものがそのまま置いてあってそれが素敵で、おしゃれなのっぽのランプがすごく似合ってた。 「素敵だねえ。あたし、自分ちに帰りたくなくなるよ」ってわたしははしゃいでた。 カダーの新しいルームメイトはシャワーを浴びてた。 カダーは暖炉の上に並んでる4本のワインを指さして、「どれにする? 一番左のがきみのために買ったヤツだけど」って言う。それはちょっと変わった形の黒い綺麗な瓶で、わたしはワインのことなんかわかんないけど、カダーがわたしのために買ってくれたっていうならそれがいいに決まってた。 カダーのルームメイトが加わって、カダーは青いりんごとキーウィーを切ってくれて、カダーとわたしはくっついて座って、カダーはずっとわたしを抱き寄せてくれてて、3人で電話でしゃべったときみたいにたくさん笑ってたくさんおしゃべりした。 それからルームメイトは「じゃあ僕は失礼するよ」って自分のベッドルームに行った。 ワインはおいしかった。ゆらゆら気持ちよかった。ゆらゆら揺れながらわたしたちもカダーのベッドルームに行った。カダーはお財布にコンドームを入れてて、別にそのせいじゃなかったけど、そのあとそのままベッドで甘えておしゃべりしながら、わたしは「ほかの子と寝た?」って聞いた。カダーは答えないで「きみは? ほかの男と寝た?」って聞いた。「ううん。あなたは寝たの?」。別にセックスがなんとなく違ったとかそういうんでもなくて、ほんとにただ、そう聞いた。一ヶ月近く会ってなかったからだけかもしれない。わかんない。でもそういう勘は当たることになってるんだ。「そういうこと聞くなよ」「平気だから教えてよ」「泣きたいの?」「・・・」。それからカダーは寝たって言って、わたしは「前のガールフレンド?」って聞いた。今でも友だちって前に言ってたから。カダーは「そう」って言ったけど、それはどうだかわかんない。「何回?」「・・・多分2回」。 一生懸命笑顔を作って、でもダメだった。 カダーは泣くなって言ったけど、「あたしそんなに強くなれないよ」って、笑いながら泣いた。カダーはとても優しくて、でもダメだった。眠られなかった。カダーが寝てる間にこっそり洋服を着てバッグを持ってお部屋を出ようとしたら、見つかっちゃった。 カダーはこっちにおいでって言って、長いこと抱き締めてくれて、額や頬やくちびるにたくさんキスをしてくれて、隣りにわたしを座らせて、カダーの国の言葉の本を読んで聞かせてくれた。わたしはカダーの国の言葉を聞くのが好きだった。それは詩集で、カダーは詩が好きだった。全然意味なんかわからない不思議な言葉をカダーが声に出して読むのを聞きながら、「意味わかんないだろ?」ってカダーが言ってわたしは笑って首を横に振って、「好き?」ってカダーが聞いてわたしは笑って首を縦に振った。 「ここにいなよ。いやなら僕はリビングルームのソファで寝るから。帰るなんて言うなよ」。わたしはカダーの額に泣きながらキスした。「キスしてくれたの?」ってわたしをまた抱き締めて「ありがと」ってカダーは言った。 わたしはわかってた。帰りたいけど帰ったら、帰りの高速でまたあのときみたいにボロボロになって泣いてしまう。わたしの新しいアパートはドクターのアパートに行くときのあの橋の手前にあって、だから前のアパートの近くにあるカダーのアパートからは、あの日とおんなじ道を逆に走ることになる。 おんなじ道を逆に走りながら、おんなじようにボロボロになって泣くのは辛すぎる。 悲しくて帰りたいけど、哀しくて帰れない。 カダーの胸はあったかくてカダーはとても優しくて、わたしはカダーの言葉に一生懸命笑いながら、少しずつ、「恋人じゃないんだから、しょうがないじゃん」って笑って思えるようになっていった。そして、楽になるかもしれない方法を見つけた。 「恋人のふりして。今だけ。それから・・・」 「それから?」 「それから。Tell me you love me.」 「I love you」。カダーは言った。わたしの名前を呼んで、もう一度言った。 にせものの I love you に痛みが溶けて行って、わたしはカダーの腕の中で朝が来るまで眠った。 -
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