TENSEI塵語

2007年02月16日(金) 不思議な日本語

英語やフランス語の動詞の基本形は現在形だが、
日本語の動詞の基本形は、たいていの場合、現在形でない。
「本を読む」「風呂に入る」は現在のことを言っていない。
それは、「これからする」ことを指しているか、あるいは、
不特定な過去から不特定な未来までの、繰り返し、または、習慣的に
行われる行為を指している。
現在形は「読んでいる」「入っている」である。
「読まない」「入らない」も「読む」「入る」と同じ扱いだろう。
現在形の否定形は「読んでいない」「入っていない」だろう。

・・・あれ? 「読んでいない」が○? 「読んでない」が○?
今ふと気づいてしまったが、このあたり、私の認識はかなりいい加減だ。
いやいや、「読んでいる」の否定形だから「読んでいない」が○だろう。
今では「読んでる」「読んでない」の方がよく使われてしまっているが、
こういうのは「い抜き表現」とでも言うべきか?
「この本読んだ?」という問いに「読まなかった」と答えることは少ない。
たいていは「読んでない」と答えるが、この場合に、「読んでいない」と
「い」をしっかり発音することはないような。。。

「知る」という動詞はそういう使い方とはちょっと違っている。
「これから知る」という時に、「知る」を単独では使わないようだ。
「今からこの本を読む」「今から風呂に入る」とは言うけれど、
「今から株を知る」「ソクラテスについて知る」などとは普通言わない。
「毎晩寝る前に小説を読む」「毎日帰宅後すぐ風呂に入る」と言うけれど、
「毎晩夕食後に株を(または株について)知る」とは言いにくい。
たいてい「知る」を使わずに「勉強する」とか「調べる」とかを使う。
これは「知る」という語が多分に「結果」を含んだ語だからだろうか?

現在形は「知っている」「知ってる」であるが、
現在形の否定形は「知っていない」でなく「知らない」である。
「そんなこと知っちゃいねぇ」という言い方もあるが、
通常は、「知ってる?」に対して「知らない」と答える。
これは不思議である。
しかも、この場合、現時点だけを表現しているのではなくて、
過去の時間的な厚みも伴っている。

もっと不思議なのが「わかる」である。
「わかっている」も「わかって[い]ない」も現在形として使っている。
しかしそれは特殊な場合というか、過去を含んだ表現だ。
もっとも典型的な現在形は「わかった!!」であろう。
見た目は過去形(完了形)だが、意味の上では「今わかっている」である。
「わかった?」「わかった」
「わかる?」「わかる」と、これらはどちらも「今」のことを表す。
そういう意味で、上に挙げたような動詞と使い方が異なっている。
「読んだ?」「読んだ」「入った?」{入った」
「読む?」「読む」「入る?」「入る」はどれも「今」を表さないし、
「知った?」「知った」「知る?」「知る」などという問答は、
おそらく日常会話ではほとんどなされないはずである。

何と精妙な使い分けであろうか。
部品の使い方は同じでも、部品をさまざまに使い分けているわけだ。
こういう使い分けに法則性があるのかどうかは、
もっと多くの動詞の使い方を見て、分類してみなければならない。
しかし、とりあえずこれだけは言えるかもしれない。
助詞や助動詞にかなりの法則性は見られるものの、
それらを画一的に当てはめて言葉を使ってきたのではなく、
動詞の実質的な意味やイメージなども直感しつつ使い分けてきた。。。


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