西日が差したら枇杷の実を食べよう
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2001年06月08日(金) たとえハエ男だって、これもまた一つの究極の純愛。『ザ・フライ』

自分が理数系にまるで弱いせいか、いわゆる「理系タイプの男」に憧れる。
それも、青白い数学者とか、パソコンおたく系じゃなく、
頭もいいが、ガタイもいい、ワイルド&タフな科学者系。
そんな私の好みにピッタリの永遠のヒーローが、
何を隠そう、『ザ・フライ』のジェフ・ゴールドブラム、である。

物体転送装置を開発したものの、
実験ミスでハエのDNAと融合してしまい、
だんだんハエへと変わっていく天才科学者と、
彼を愛する女性編集者のかなしい恋・・・。

クローネンバーグ監督のこの『ザ・フライ』(1986年アメリカ)。
公開時には映画館でもみたし、テレビで放送されているのもみた。
先日も、WOWOWで放送されていたので、また久々にみた。

そして、実感した。「やっぱり、好きだーー、この映画」。
ジェフ・ゴールドブラムびいきというのを、差し引いても、
私の中ではかなりの傑作。

何がすごいかって、まず、
たった一本の映画の中で、実にさまざまな感情を喚起させてくれること。

「怖さ」と「気持ち悪さ」と「恋愛のせつなさ」と「哀しさ」と、
そして、忘れちゃいけない「おかしみ」。
それらが、まるでカクテルのように、この一本の中に、
贅沢に、ブレンドされているのだ。

気持ち悪くて、怖くて、せつなくて、笑える。
そんな映画、ちょっと無いでしょ?

耳が取れ、口が取れ、皮膚が溶け、
だんだんハエへと変わっていく天才科学者と、
それを見守る恋人…。

そりゃ、とってもキモチワルイです。
でも、せつないんです。

見るに耐えられない姿に、変化していく恋人を、
ぎゅうと抱きしめるジーナ・デイビスの心の中を思うと、涙出ます。

が、しかし。
そんな風に思い切り哀しい純愛映画の側面もあるにもかかわらず、
こういっちゃ悪いが、笑えもするんである、このハエ男ってば。

いきなり精力絶倫男!に変身したかと思えば、
「はぁい!」なんて妙に明るいセサミストリートトークで、
自分が刻々とハエに変化していく様子をビデオに録画したり。
もっとヘンなのが、ポロポロと落ちていく自分の耳や歯を、
「ブランドル(自分の名前ね)博物館」っつー名前をつけて、
洗面所のキャビネットの中に飾っておくんだよ…、この男。

そりゃ、キモチワルイです。
でも、愛嬌たっぷりなんです。

気持ち悪さの中にある、このあふれんばかりのユーモア。
これが、「悲恋」とともに、この映画のもう一つの見どころ。

しかし、クローネンバーグって、
こういった、非現実的な、SF的設定を恋の障害に持ってくる、
悲恋モノを描かせたら、独壇場だな。
超能力者の恋を描いた『デッドゾーン』とか…。

現実には、ぜーったいそんな恋愛ありえないはずなんだけど、
クローネンバーグが紡ぎ出す世界の中では、
なにかこう、妙にリアリティーがあって、
ついつい、登場人物に感情移入してしまうのだ。

というわけで、私にとって、この映画の、
ジェフ・ゴールドブラムとジーナ・ディビスは、
ロミオとジュリエットよりも、せつない悲恋カップルなのである。


otozie |MAIL