たりたの日記
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2008年09月29日(月) ガルシア・マルケス 「百年の孤独」


この夏に観た、ガルシア・マルケスの「コレラの時代の愛」がきっかけで、以前から読みたいと思っていた同著者の「百年の孤独」を、一ヶ月ほどかけてようやく読み終える事ができた。

七世代にも渡る長編小説で、しかも時間の流れ通りに話が進まないものだから、名前と人との一致が難しく、途中投げ出しそうになりながら最期まで辿りついた。最期の部分になると、それまでの家族の歴史が見渡せ、また描写にも作者の熱意が感じられ、とても充実した読書だった。

男と女が出会い、子どもが生まれ、家族ができる。町ができ、繁栄し、そして衰退する。そしてそこに戦がある。戦争は兵士達の間だけではない。男と女の間に、親と子の間に、そして兄弟同士の間に、起る。

愛のために自死する人間もいれば、人間の愛に触発されて、家畜が増殖するというファンタジーも起る。生きている人と死んでいる人とが同じ空間の中で交流する。生々しい人間の愛憎は素晴らしく写実的なのに、全体としては昔話の持つファンタジー性に覆われている。それだからだろうか、心の深層にかかわってきては、何か、自分の内側にあるものをひっぱり出されるような、なつかしさを覚えた。同時に読後、心の深い部分に印象が焼きついたように感じる。

ここで観る愛のかたちは、とてもラテン的だ。前回の日記で触れた、夏目漱石の「こころ」の中に出てくる愛やギリシャのプラトンが唱える愛ともまったく異なる愛のかたちが印象深かった。赤裸々な愛欲、奔放な情熱。人間讃美を観る思いがする。

ラテンを踊る時、とても解放され、ひとつの熱に見舞われ、没我の境地になるのだが、その熱と同質なものを文章の中に感じた。愛欲を、セクシュアリティーを喜びに満ちた肯定的なものとして謳歌するような、美しく逞しい文章を好きだと思った。

この本の最後の場面で誕生し間もなく死んでしまう七代目のアウレリャーノ・バビロニアの事を作者は<この百年、愛によって生を授かった者はこれが初めてだった>と書いている。
男と女の関係が世代を通して育ってゆき、七代目の誕生の時、ようやく愛としてかたちをなしたということなのかと感慨深かった。

そういう視点で読んでみると、第五代目アマランタ・ウルスラという女と、その甥の六代目アウレリャーノ・バビロニアという男の愛の行為の場面はとても素晴らしい。ここに抜き出しておこう。



やがて二人は、同時に敵であり共犯者であることを意識した。もみあいはありきたりの戯れに変り、攻めは愛撫となった。急にふざけ半分に、相手をからかうように、アマランタ・ウルスラは防御の手をゆるめた。自分でしたことに驚いて体勢を立て直そうとした時には、すでに手遅れだった。すざまじい震えが体の中心で起り、身動きができなかった。彼女はただその場に投げ出されたようになり、身を守ろうとする意志は、死の彼方で待ち受けているオレンジ色の笛と目に見えぬ風船が、いったい何であるかを知りたいという、あらがいたい渇望によって突きくずされた。手探りでタオルをつかみ、すでに身内を裂いて洩れようとしている猫のような叫びを押し殺すために、口にくわえるのがやっとだった。

                 *

小鳥たちにも見捨てられ、埃と暑さがひどくて呼吸もままならぬマコンドだったが、孤独と愛を求めて、つまり愛の孤独を求めて、赤蟻の立てるすざまじい音でろくに眠ることさえできない屋敷に閉じこもっていたアウレリャーノとアマランタ・ウルスラだけが、幸福だった。この世で最も幸福な存在だった。

                 *

その道の極意をきわめた彼らは、絶頂に達して力尽きたその疲労を最大限に利用した。たがいの体をうっとりとながめながら、愛撫のあとのけだるさは欲情そのものよりも豊かな、未知の可能性を秘めていることを知った。


 参考  
  
『百年の孤独』(ひゃくねんのこどく、Cien Años de Soledad、シエン アニョス デ ソレダド)は、ガブリエル・ガルシア=マルケスの長編小説。1967年初版出版。日本での刊行は1972年、新潮社から。

ガブリエル・ガルシア=マルケスの代表的小説。世界各国でベストセラーになり、ラテンアメリカ文学ブームを巻き起こした。ノーベル文学賞を受賞。2002年ノルウェイ・ブッククラブによって「世界傑作文学100」に選ばれている。

あらすじ
ホセ・アルカディオ・ブエンディアを始祖とするブエンディア一族が蜃気楼の村、マコンドを創設し、隆盛を迎えながらも、やがて滅亡するまでの100年間を舞台としている。幻想的な出来事、個性的な人物が登場する。生と死、希望と絶望などを含ませながら、ブエンディア家の孤独の運命について描いている。


    出典 <フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 > 







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