たりたの日記
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| 2004年11月04日(木) |
ミケランジェロの「磔刑のキリスト」 |
美術館の奥まった空間 透き通ったプラスティックの箱の中 小さなキリストの裸体が、 全き人間の形をした美しい裸体が 浮かんでいた
音が止む 多くの人のざわめきや足音や動きの中だというのに 息を呑むほどの静けさにすくめられ ひとりキリストの前に立っているようだった
一度は生きて大地から水を吸い 枝の先から新芽を噴出したシナノキは死に 再びキリストの身体の中に甦る
ミケランジェロの手は その木のまだ残る命をキリストの肉のようだと 愛しんだだろうか キリストの手の釘跡と足の釘跡を彫る時、 彼の胸も釘打たれただろうか キリストの閉じた目を彫る時 彼の目から涙がこぼれただろうか 徹頭徹尾、死の孤独まで人間として生きた神を 間違いのない、正確な人体として表すのだと 熱い迫りに動かされていたのだろう
彫刻家はキリストを愛していた 垂直な線の下にいて その愛を表そうともがく そんなミケランジェロの魂が 磔刑のキリストの中で息づいている
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