たりたの日記
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2004年11月02日(火) 文学を学ぶゼミ

正津ゼミへ初めて足を運んだのは9月の終わりだった。
池袋から地下鉄有楽町線に乗り換え江戸川橋で下車。出口A-1から外に出ると、目の前に江戸川橋が見える。そこを流れている神田川の川沿いを歩き始める。そこは遊歩道になっていて休日の夕方、散歩する家族づれやカップルと何人もすれ違う。じきに江戸川公園の入り口が見え、そこをさらに進んでゆくと新江戸川公園に出た。

ここは、江戸時代末期、熊本藩主細川家の下屋敷、その後、細川家の本邸となった場所で、公園の入り口のすぐ側には明治20年ごろに建てられた細川家の勉強所、松声閣が昔のままの概観を見せている。ここは今では都民の集会所になっており、ここがゼミの会場だった。

靴を脱いで建物の中に入ると、古い建造物独特の空気に、なにかタイムスリップしたようななつかしさを覚える。
ゼミといえば、コンクリートの四角の部屋に長いテーブルと折りたたみのパイプ椅子という無機質な空間を思い描いていたので、畳に座卓に座布団という場所に、何かふっと肩の力が抜ける気がした。
初めての場所へ出かけるというのはいつもかなり緊張する。それも一人で、誰も知った人がいない場所というのは。

けれども、この日のテキストとして送っていただいていた冨岡多恵子の「遠い空」がおもしろくまた新しく、その小説がいったいどのように話題に上るのか、みなで読むのか、その興味の方が心細さに勝っていて、どうしても行きたいという気持ちになっていた。場違いのところに迷い混み、ウキまくることだろうが、そこで学び取るものはわたしのものには違いないと居直る。

十数名のメンバーが集まり、どうやら今日初めて参加する人はわたしの他にもいることが分かり、男性が多いと聞いていた割には半数は女性で、そこにはなごやかで自由な空気があった。

正津先生から著者についてのレクチャーがあり、それぞれが感想を述べ合う。様々な感想がそれぞれ印象的でおもしろかった。10回以上読み、感想を文章にまとめているTさんには感心した。こういうマジメな学びの場から何と長いこと離れていたことだろう。わたしときたら、見学なのだから話には加わらない覚悟でいたのに、思いっきり熱く語って、やや興奮気味な自分に驚いていた。

この「遠い空」についてはいずれしっかり書こうと思っているが、とりあえず、アマゾンのカスタマーレビューにブックレビューを書いた。はいでんしぃーくのブックレビュー

さて、11月1日はゼミに2度目の参加。
テキストは吉行淳之介の「夢の車輪」。この2週間ほど、「夢の車輪」の12の短編と、他の短編集「菓子祭」、また「砂の上の植物群」など吉行淳之介ばかり読んでいた。こういう勉強会でもなければ、決して読まなかっただろう、なぜか素通りしてきた作家だった。そこからかすかにただよってくる匂いがすでに異質なもののように感じ、避けてきたといってもよかった。しかし、読んでみると、作者の世界との距離は依然としてあるものの、書く者の立場から学ぶべきところがずいぶんあった。まず文章が美しく、感覚的な表現も巧みだ。思わず声に出して読んでみたくなり、実際に声に出して読んだ。

この日のゼミでも、メンバーのそれぞれが特色のある感想を述べられていて、聞いているだけでも充分おもしろく、なるほどと思ったことだった。わたしは特に批判精神に乏しい。だいたい何でも肯定してしまうという傾向がある。それだから、この作品はつまらない、弱い、おもしろくないという意見が出てくると、どきりとする。そういう見方読み方も自分の内に培っていく必要があるのだろう。
前回Tさんが感想文を書いていらしたのを真似て、わたしも感想文を書いて持っていっていたので、それをずいぶん早口で読み上げた。自分ばかりが時間を使っては申し訳ない気がしたからだ。

この時話に出た、吉行氏の他の作品が読みたくなり、翌日からさっそく読み始めた。
みなで読む、学びながら読むことで、一人で読む時とは違う広さや深さで読めることに気づかされる。それに何よりも読んだり書いたりという孤独な作業がこの時ばかりは仲間を隣に感じてずいぶん暖かい気持ちになる。

学習会の後の飲み会もわたしにとってはとても新しい世界。日頃、家庭と子供相手の仕事、夫とデートするか、まれに女友達と食事をしたりする他はいわゆる「付き合い」というものが生活の中にないもの、異なる仕事、異なる年齢の人達と飲むのはおもしろい。ゼミの続きという感じで作品や作家についてさらに話が進み、話題は興味深い。しかし、なにしろわたしは僻地からの参加なので、いつも終電を気にし、早々に引き上げなくてはならないが・・・

さて、次回は中上健次の「千年の愉楽」より「半蔵の鳥」。今日、風呂で1回目を読んだが、う〜ん、なんとわたしの住む世界と隔たった世界だろうか。ここからわたしは何を読み取るべきか、しばらく格闘することになるだろう。まずは中上健次のことを調べて、読む本のブックリストを作ろうとすでにはりきっている。


たりたくみ |MAILHomePage

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