たりたの日記
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2002年11月29日(金) 月の子

今日はヨガを教えていただいていたA先生のお宅へ伺う。7年前にヨガを始めて以来のおつきあいだが、ヨガだけでなく先生からは様々なものをいただいてきたような気がする。毎週木曜日の午前中、ヨガをしながらしんとした静かで内面的な時間を過ごしてきた。私はヨガは体力づくりや運動のためよりもむしろ瞑想や気を整えるために通っていた。日曜日の礼拝が聖書や説教また讃美といった言葉を通しての霊的な糧をいただく時だとすると、ヨガはアーサナ(ポーズ)や呼吸法といった体の動きを通じて霊的な感覚を鍛錬する場だったように思う。

A先生が長いこと児童文学の同人誌に童話を発表されていたことをつい先ごろまで知らないでいた。先生がお書きになった「月の子」という童話で「新、北陸児童文学賞」を受賞されたことを知り、はじめて作品を読ませていただいた。その語り口は先生が導かれるヨガのようにすっと自然に心の深い場所へ誘われるものがあった。ああ、先生の世界だなと感じた。

この春から身体の調子を壊され、ヨガの指導は休養されておられ、しばらくお会いしていなかったが、入賞作品に3篇の童話を加え「月の子」という題した本を出版されたというお知らせをくださり、遊びにいらっしゃいませんかとお誘い下さったので今日伺うことをお伝えしていたのだった。

「月の子」は美しい本に仕上げられていた。オレンジ色の細い三日月を背景に美しいグリーンで描かれた少年の顔がある。月の子だ。この表紙のイラストも
また本の中の挿絵もご自分で描かれている。その本はどこからどこまで先生の世界だった。自分の世界をこのように形にしていくのはなんとすばらしいことだろう。

本を広げて書き出しの活字を追い始めると声に出して読みたい気持ちが起こり
先生がお勝手でお茶の用意をなさっている間に私は声に出して朗読した。
先生の書斎のガラスの向こうには紅葉した木々や草花があって、私が声に出して読む言葉とそれらとが呼応しているのを感じた。先生の綴られる言葉には、
その背景に木々を揺らす風の音が確かに重なっている。子どもの頃から自分を包んでいた木々や風や草花などの世界から抜けられないのとおっしゃるその意味が私には良く分かる。誰とも共有することのない、共有できない、子どもの頃から馴染み親しんできたひとりだけの世界があるのだ。密やかで豊かな孤独。

わたしもいつかわたしの世界を形にしたいと思いますと言うと先生はいつもの
にこやかな顔で頷かれた。


たりたくみ |MAILHomePage

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