つぶやきDiary
何気ない日常のつぶやき
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2006年02月14日(火) 「博士の愛した数式」

ここ数日、読み続けていたのがこの本。
ようやく読み終えました。
ちょうど映画もやっているのですよね。見たいなあと思ったのですが、なんといつも私が行っている映画館には、この映画が来ていない!(-"-;)
たまたま立ち寄った本屋さんで、この文庫本をみかけて、すぐに手に取ってしまいました。

若い頃の交通事故のせいで、脳にダメージを受け、80分しか記憶がもたない数学の博士。
着たきりの背広に、忘れてはならない大切なことを、メモ書きにしてクリップでたくさん留めているのです。
すでに老齢に差し掛かり、義理のお姉さんが生活費の援助をしています。
そこに家政婦として雇われてきたのが、10歳の息子を持つシングルマザー。名前は・・・出てこないんですね、なぜか。

博士が初対面の彼女にした質問は、靴のサイズと電話番号・・・
彼女の答えた数字を、純粋に数字としての魅力に置き換える博士。
たぶん、普通の人がするであろう質問、「お名前は?」「ご家族は?」「どこから来ているの?」等々の代わりが、博士にとっては数字に関することなのでしょう。
80分しかもたない記憶のために、毎朝博士の家に行くたびに彼女は自分の身分を説明しなくてはなりません。
それでも博士の背広に、自分の似顔絵らしきものを描いた「新しい家政婦さん」と言うメモをみつけます。
それは、彼女の存在を認識しようとする博士の、ささやかな努力。

数式以外のことに、ほとんど興味を示さない博士。
日常の中の様々な数字にも意味を与えてくれる博士の、数字に対する知識や情熱に、彼女は少しずつ惹かれるものを感じます。
それは、彼女自身も数式の魅力に気づき始めているから。
この辺りの彼女の感性の豊かさが、なんともステキだなと思いました。

本の中には、博士が説明するややこしい数式やら記号やらがたくさん登場します。が、数学にしっかり苦手意識を持っている私には、これはまさにちんぷんかんぷん。
小説の中の家政婦さんのように、博士の説明の通りに計算してみて、その発見に感動できたらなあ、と思うのに、どうも数字を見ただけで投げ出してしまいます(笑)

でも、そんな私が唯一感動したのは、0に関する説明。
「0なんて昔からあったのでしょう」と言う家政婦さんに、博士は0を発見した名もないインドの数学者の話をします。
何もないものなど、数える必要がないと考えられていた当時、無を数字で表現した数学者。
「非存在を存在させた。すばらしいじゃないか」と言う博士の言葉は、私の中にも、ひどく感動的に響きました。

なぜか、ふとイメージが重なったのが、金子みすゞさんの詩の中の大好きなフレーズでした。
「昼のお星はめにみえぬ 見えぬけれどもあるんだよ 見えぬものでもあるんだよ」
もちろん、意味するところはまったく違うのですけれど、あの詩を読んだ時と同じような、はっとするような新鮮な感動でした。
目に見えぬもの、存在しないものに対しても、そっと手を差し伸べるような・・・それは、隠されている真実を拾い上げることなのかも、なんて(^^;

さらに0の説明を続ける博士は、梢に止まる一羽の小鳥と、その小鳥が飛び去ってしまった後の梢を思い浮かべてごらんと言います。
「1−1=0 美しいと思わないかい?」
うむむ、もし心から数式を愛している博士のような人に、面と向かって言われたら、きっと感動して頷いてしまうだろうなあ(笑)

博士の提案で、家政婦さんの10歳の息子も博士の家に出入りするようになり、いろいろな出来事を通して、まるでつつましいひとつの家族が形づくられて行くよう。
息子は頭が平らなので、博士から「ルート」と呼ばれます。
タイガースの熱狂的ファンと言うのも嬉しいところ(*^^*)
実は、博士もタイガースファン・・・でも博士の好きなタイガースは、事故に遭う前の記憶の中のタイガースなのですが。

物語は、3人の日常をあっさりと、でも暖かく切り取って行きます。
しみじみと清らかに、切なく・・・
恋愛小説、と言うのとは違うのでしょう。家政婦さんの博士に対する感情は、もっと静かで慈愛に満ちたもの。博士の人間性や、その知性から導き出された数字の世界のきらめきなどを、心から慕っている。
でも、もしかしたらそれは最高に純度が高くて、だからこそそう見えないような恋愛感情なのかも・・・と思えたりするのは、俗っぽいですかね(笑)

映画では、家政婦さんを深津絵里さんが演じているのですね。
これ、まさに適役だなあと思いました。
しっかり者でてきぱきと仕事をこなし、女手ひとつで息子を育てるたくましさを持ち、それでいて博士の人間性をとことん尊重するやさしさや、複雑な数式に隠された美しさに感動できる豊かな感受性を持つ女性。
博士役の寺尾聡さんも、さぞ深みのある、ステキに枯れた博士を演じているのでしょう。
DVDになったら見たいなあ(笑)


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