非日記
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2008年12月19日(金) ごめんなさい。

あたくしは罪を犯してしまったかもしれません。犯罪を見逃してしまったのかも。しかしあたくしは警察官では無いので、目の前で…、というか目の横で犯罪が行われたときにどうしたらよいかとか言われても良くわかりません。うっかりまた携帯を持っていなかったので(あんなに県警に携帯はちゃんと携帯しろ!電源切るなって怒られたのに!)、通報しようもなかったしさ!

何やったかと言うと、あたくしを轢いた交通事故の犯人を見逃した?

確か免許取った時に、「たとえ相手が大丈夫だ構わないと言っても、そのままにすんな!相手も動揺してるので、後になったら被害が発覚したりして余計面倒になる」と教官が言ってたのよ。昔、チャリで走っててこけた時、車道の車が皆止まって、「オレか!?」「オレが引っ掛けたのか!?」「本当の事を言ってくれ!」とバタバタとドアが開いて出てきた事があるね。その時の私は思いっきり一人で転んでたので、「違います!私が自分でここでこのようにしてですね(略)」と羞恥プレイの如く恥ずかしかったのだが、あの時は「よかった!あたしは一人で転んでた!」と自信を持って安心したものよ。あの時はよかった。
だが今回は違う。
何か事あらんとすれば、反射神経ですかさず自分の責められそうな過失点を高速点検して対抗策と言い訳を練ってしまう悪い子脳なので、急いで一生懸命考えてみたのだが、完全に青信号でチャリでのろのろ横断歩道を渡ってて、左折してきた車にドンとやられて自転車から飛ばされて「ああーん」と地面に倒れた場合、やっぱり私は自動車に轢かれた事になるのではなかろうか?そりゃ本で読んだりとかテレビで見たりとかした事はあるけどさ!自動車に引かれた経験なんて無くて!「も、もしかして轢かれた?轢かれた?」と動揺してみた。
自動車に轢かれた事が無いので、「どどど、どうしたらいいのかしら?」とスーパー動揺しながら、とりあえず飛ばされた自転車と荷物を拾って歩いてみる。
「じ、事故現場って保存しなきゃいけないのかしら?アタシったら犯罪の隠蔽中?でもだってここは車道なのよ!?通行の邪魔になるじゃないの!」
己のやる事でさらにパニックに。これで相手が超悪い人でいきなり脅されたりとかしたら幾ら私だって「私ったら、悪い事をされたんだわ!これは敵なのね!?」とわかるのだが、とりあえず何したらいいかわからなくてのろのろ動いてるところに車からひょこひょこ出てきたのは私と同じくらい動揺してるヨボヨボの爺さん(ざっと七十代ぐらい)だったのだ。

なぜか爺さんはエヘエヘ笑っていた。

ああ、爺さんったら反省も後悔も自己弁護もままならないほど超動揺してるわ!あたし達一緒ね!いや、私は既に自己を弁護しきって己に過失の薄い証明に成功したけどね!(でもちょっと「運転手の顔を見てなかったので心が読めなかった」という前方不注意ならぬ、人方不注意というミスが無きにしもあらずのような気がしないでもないというか。なんかおサツに行ったら「相手が爺さんだと確認して、己の方で先に止まって先に行かせてやるべきだった」と言われてしまいそうな…。ああどうして私は轢かれてしまったりなどしたんだ!どうしてかわせなかったのかしら!)どうしましょう!誰か助けて!爺さんと私は十秒ほど仲良くおろおろした。
私の理性は「これは十中八九ぐらいは交通事故だろう。大怪我をしたわけではない気がするが、一応通報とかせにゃならんのではないか?」と言い、しかし私の本能が「せっかくの休日なのに?えー、超最悪!おサツ嫌いやねん。色々五月蝿いんだもん。アタイ、家に帰って好きなだけゴロゴロ寝たいんだけど?」と言い、しかし私の理性が「だが咄嗟の判断をミスり、横断歩道前で通行人がいるのに気づかず一時停止をしないほど、爺さんの運転技術と判断能力は既に危険域だと証明してしまったのだぞ。ここでほったらかしたら爺さんは次は人を殺すかもしれんではないか!おまえはジジイを殺人者にする気か!?」と言い、ところが私の感情が「やめて!もう爺さんを責めないで!もう超動揺してて、彼はすごいショックなのよ!今の彼には安心が必要なの!超ドキドキしてるんだから、自分はもう運転したらヤバイんじゃないかって自分で思って心配と恐怖のあまり免許返上するわよ!」と言うし、だが理性が「おまえは人の心がわかっとらん!恐怖のあまり『いや大した事は無かった。全然なんの問題も無い。わしは全くもって大丈夫だ』と自分をだましてしまうかもしれないだろうが!」

外部監視塔「あなた達争いはお止めなさい!爺さんは車に乗り込んで、とりあえず立ち去るつもりよ!?どうするの!指示を!」
A「長い目で見て考えろ!今ほっといたって、爺さんは落ち着いてきたら後から思い出してどうしようどうしようと一人思い悩むかもしれんだろ!なら今さっさとケリをつけるべきなんだ!ちゃんと謝罪した、きちんと事故処理をしたという事実が彼の心を支えるのだ!」
B「そんな事言ったって!じゃあなんて言うのよ!?あのすみませんが、今あなた私を轢きませんでしたか、なんて言うわけ?それでどうするのよ!爺さんの車はボンネットもへこんでないし、ぱっと見、大丈夫よ!わかりゃしないわよ!」
外部監視塔「ちょっと!行っちゃうわよ!?」
A「チィ、しょうがねえ!おまえと争っても時間の無駄だ!とりあえず車のナンバーを控えて判断は後に」
B「てめー!ジジイに何する気だぁ!今逃げ帰って家でドキドキ反省してるところに、警察の者ですが…とか来てみろ!ジジイは心臓発作で死んじまうわ!見逃すなら潔く見逃せ!ナンバーを見たら殺す!」
A「このやろう邪魔するな!俺は正義を執行する!二度と事故を起こさないように、社会と爺さんのためだ!」
B「私一人説得できず、えらそうな口を叩くんじゃないわよ!おまえなんぞにジジイの何がわかる!今咎めることができないなら、ナンバーを控えるのだけはやめろ。それは爺さんのためではない。私のためだ」
A「神様…爺さんが交通事故を起こしませんように……!その時は私の責任よ」
B「わかってるわ。その時は付き合うわ……」

で、うっかり後ろも見ずに自転車をずりずり引き摺って行ったのだが、どうした事か自転車がひん曲がって車輪が回らない。自転車に乗れない。おい、このまま引き摺って帰るのか?修理に幾らかかるんだ?買った方が安かったりするのだろうか?そこで金が絡んだ途端、内戦復活。

B「……せめて自転車の修理代ぐらい貰ってもよかったかもしれないわね」
A「だから言っただろう!自転車の修理代ぐらい年金でどうとでもなったのだ!」
B「ええい、五月蝿いわね!我が心にこんな事もあろうかと、ナンバーは控えてないのよ!さすが私!惚れ惚れするわ!」
A「なんの解決にもならんわ!チャリどうすんだ!打撲であちこち痛いのに引き摺って帰るのかよ!?」
B「脳は打ってないんだから、オオゴトにはならないわよ!チャリなんて…いや、そりゃ勿体無いけど、物凄く金が惜しいが、しかしだって勇気が無かった上に、怒りが全然足りなかったんだから、仕方ないじゃないの!」
A「勇気が湧き出なかったのは、爺さんがハートに火をつけてくれなかった所為だ。怒りさえできれば、こんな延々とガタガタ話し合った上に調停役が出てこないなんて事は無かったんだ。あんなしょぼしょぼした相手では私が弱い者イジメしてるみたいじゃないか?ジジイがもっと油ギッシュに偉そうに血管切れそうな、めっちゃ感じの悪い相手でさえあれば…」
B「爺さんの所為にしない約束よ!ケチの根性で悪かったわね!チャリが動きさえすればいいのよ!」
A「だが車にボコっとやられたんだぞ?もう駄目じゃないのか、これ。前輪が全然回らん。どこがどう歪んだのかわからんが、…ここのところで車輪が当たってる。どこから曲がってるかはわからんが、擦れて引っかかって、それで回転できないようだ」
B「ジジイは物凄いスピードで突っ込んできたわけじゃないわ。それならこんな見逃すか見逃さざるか…なんてハムレットみたいに悩んでないわ。今頃気持ちよく、なんの悩みも苦しみもない世界に旅立ってたわよ。ちゃんと減速してたし、皮膚感覚だが止まろうとしてた。判断の遅れと、踏み込む運動に達する神経がノロマになってるのよ」
A「なあ、やっぱり爺さんにはそろそろ運転はやめた方がって…」
B「もう遅いわよ。逃げちゃったもん。こんなもの……、こうしたらどうかしら?」
A「あら、ちょっとそんな事するの?酷い目にあったチャーリーに酷い事はちょっと。死体を鞭打つようなまねは…」
B「いいのよ。チャーリーは人間じゃない上に人型じゃないの。ならオッケーよ。生きてる人間をバラすんじゃないもの。死んでる人間をバラすようなものよ」
A「それも犯罪だ。それに私的には死んでる人間だって超絶痛そうだわ。痛そうなのに痛いって言えないなんて、もっと痛そう!」
B「アンタは認知が歪んでるんじゃないの。ご主人様の言う事を聞くの!さあ目覚めるのよ!」
A「や、優しくしてあげて…!きゃ!」
B「おらよっ!」

地面に寝かせてガツンと蹴ってみた。

A「お?おお、回る!回るわ!やった直った!息を吹き返したわ!」
B「どうよ!これで全て問題ないわね!私は天才だ!後は一週間ほどの打撲痛を乗り越えるだけよ。何もなくともよく転んだりぶつかったりする私には、ままある事だわ。事故は無かった」
A「もはや共犯者の域だわ…。世の中では惨い交通事故がいっぱいあってるというのに、私のやる事ときたら、隠蔽工作に加担しまくってる。もう駄目だ、世間様に顔向けできないわ」
B「そうとも。だからグダグダ言うな。人事を尽くして天命を待つ。我等にできる事は、もはや天に祈る事のみだ。爺さんが交通事故を起こして業務上過失致死罪とかに問われぬ事を!」
A「その使い方おかしい。人事を尽くすんだったら、やっぱ通報したほうが…」
B「さあさあ、終わり終わり!はやく家帰って寝ようぜー。今日はちょっと交通事故されるというショックな事があったから、アタシ美味しいものが食べたいナー」
A「自分だけよければいいってのはどうなんだろうか…、そうした考え方は世の中にとって…、ひいては結局己にとって…」
B「から揚げよくね?」
A「から揚げは店と日によってあたりはずれがある…、なあ、こんな事してさ、例えばもし自分が同じような事をやった時に、でも何考えてんだとか何処見てんだとかものすごーく責められて、その時にはこんな時の事を思い出すのよ。それで、ああ私はきっと間違っていたんだ、ちゃんとこんな風にしなきゃいけなかったんだ、だからこんな目にあってるんだわと二十倍ぐらいへこんで思うか、どうしてなのかしら、私には責められないのにどうしてこの人はこう平気の平左で一方的に罵れるのかしらって、きっとえも言われぬ理不尽な気持ちになって、うっかりすると逆恨みするのよ。繁華街を刃物を持って練り歩いてしまうかもしれない。キの字の所業じゃないの。ああ憂鬱だわ…」
B「まあそう気を落とすなよ。チョコレートも買ってあげるわ!」
A「おまえの真剣みの足りなさが問題だ。しかも私の金だ」
B「アタシの金だわよ。何言ってるの」
A「規則を尊重して責任感を持って業務を行っているわ。私が稼いだ金だ」
B「感情労働とチームワークを重視し、妙な感じのよさだけを売りに人間性を買ってもらってるのよ。八割、アタシが稼いだ金だわね」
A「あんたのいい加減さは絶対に間違っているわ。異なる人と人とが共に生きる上では、規則や決まりを守る事はどうしても必要なのよ。ルールはルールのためにあるのではない。心のためにあるの!だからこそ尊重し遵守しなければならないし、重要なのよ!」
B「人の心がわからぬやつがどう言っても同じよ。己を弁護するために理屈を捏造したとしか思えないわ。あなたには人の心がわかっていないのよ。人間らしい温かい心が無いから、そういう事を言えるのよ」
A「それはおまえの言葉ではない。世間と社会と家族と外部の圧力に負けて、言われるがまま鵜呑みにし、己を規定し、自ら考える事もせず逃げて従属し隷属しただけじゃないの!俺は一人だって戦えたんだ!」
B「私は負けたんじゃないの。わかっただけよ。あなたは正しかったかもしれない。だがそれだけだった。他人に隷属?それはあなたの話でしょう?端から他人の作ったルールを重視して自分で考えもしないじゃないの。アタシは違うわ。アタシには人の言う心があるもの!あなたには無いけどね!」
A「私は人間だ!真の心がある!言われるがままあるようなフリを演じるおまえと一緒にするな!私にはある!あるがゆえに、あるが如く演じる必要など無い!おまえは演じるしかないがな!」
B「なぁんですって!?チョコレート買わないわよ!?」
A「買うわよ!」


一つの人格として複雑に責任転嫁しあい、いがみ合いながら絡み合う二人は、近親憎悪かどうしても仲良くなれないのだった。とりあえず社会に土下座する。


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