非日記
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飲んでみました、硫酸バリウム。 固形物を食べられるのは前日夜九時まで、液体を飲めるのは前日夜十時までというじゃないか。二十四時間ぐらい食べないのは別段辛くありません。しかし、何時間も「水も飲めない」というのは辛すぎます。 よその人間はどうだか知りませんが、私の体は殆どが水分で出来ているのです。朝起きたら直ぐに何か飲まないと咳き込んでしまい、喉を傷つけて、風邪を引いてしまうのです。水不足に晒されると、解消された途端に腹を壊すほど水分を供給してしまうぐらい水分の不足がイヤなのです。はっきり言って、上から入れた水を下から出しているダケのような気も時々するが、しかしそれでもその水を「通過」させる行為を私は捨てられないのです。
さんざんに「水分が駄目なら、バリウムで良いから飲ませろ」等とブイブイ文句を言っていたら、「それほどの年齢でも無いのに、くだらない、あほな事はやめなさい。体に悪い」と言われました。 いやです。体に悪かろうが(注:バリウムは体に悪くない。入ってきて出て行くだけ)、私はバリウムを飲み、胃の観察をするのだ。
父「若い体に放射線など浴びたら云々」 私「もっと若い体に散々浴びたわい。それを言ったら既に手遅れよ。良いの。細胞の間引きをしてやると思えば」 (注:またいい加減な事を言っています。ガン細胞は間引きに背いた叛乱細胞達であり、放射線はその叛乱を促す天の声です。) だって、バリウムを飲んだこと無いんだもん。自分の胃も見たこと無いんだもん。 私「もっと歳食ってからで良いって言うんでしょ?」 父「そうそう」 私「もちろん歳食ってからもする。その練習をする」
要するに私は、伝説のバリウムを飲んでみたいんだ。そんで胃を見るんだ。胃を見る。自分の胃なのに見たこと無いんだ。
それにですね、健康なうちに「自分が(ある程度)健康」な状態を、というか病前状態をわかっていなければ、後で不健康になった時に、どれぐらいがどのように不健康でどこが問題なのかがわからんかもしれないじゃないの。なんの異常も無いなら、それで良いのです。私は何の異常も無い事を「ただ確かめたい」のではない。何の異常も無いとすれば、何の異常も無い状態とは一体どういう状態なのかを、気になった時のためにどこかに残しておきたいのですよ。 自分のDNA(?だったかな?遺伝情報が載ってるところ)写真を飾ってる男がいたが、私も自分の臓器の写真なんかを延々ととっていって、いつかパラパラ漫画とかにしたいのです。それが無理でも、いつか「私も若かったなー」と感慨にふけりながら、若い時の臓器の写真を眺めたいのです。
要は、思い出の一ページを記録したいんだよ!
この気持ちは理屈ではありません。 人が万博やでぃずにらんどなどに行って記念写真を撮り、何年も経ってから「懐かしいわねー」と眺めて楽しむと同じです。私も楽しみます。私は自分の「表面」の写真は撮りたくないし、見たくないが、中身の写真は平気なようです。というか思いっきり「撮りたい」です。
遊びに行った時に、皆が「写真!写真とろうよ!」とウキウキしてる気持ちが、ついにわかりました。大嫌いな写真を撮るというのに、私もウキウキします。気分は、通りすがりの人にカメラで撮ってもらう観光旅行者。レントゲン技師さんにカメラを預け、「撮って撮って!綺麗に撮ってね!?」です。 記念に一枚ぐらい病院にあげても良いです。…あ、しまった。もらうの忘れてた。「くれない事もあるので、レントゲン写真を携帯カメラでとっておくと後で比べるときに良い。携帯で取った写真でも診察はできる」とテレビでお医者さんが言っていたのに、私は携帯を持ってないのだった。 またいつか聞いてみよう。
まずは、胃の活動を抑えるために、筋肉注射です。俗に言う「キンチュウ」というやつです。 「ちょっとだけ、チクっと痛いですよー」 と看護婦さんは言いますが、看護婦さんは常に嘘つきです。巧妙にすり替え、真実の問題を隠しています。問題は「チク」っとではありません。チクっとした「後」の方がずっと痛いです。最初にチクっとした事なんか忘れます。神経注射とどっちが痛いかと言われたら、よくわかりません。
しかし、言わせて貰えば、注射などより、乳がんの検診の「マンモグラフィ」の方が遥かに痛いです。乳を板で挟まれて機械でつぶされ、平たくされるのです。これは痛い。 これからマンモグラフィを受けようと言う人に忠告ですが、乳腺が張っている時はできればズラしておいた方が良いでしょう。とっても痛いです。乳はただの肉の塊ではありません。神経が通っています。 乳がんの検診は歳をとるほど楽になると思われます。乳が勝手に平べったく垂れてくるからです。婆さんの乳など、実にレントゲンを撮りやすいでしょう。せんべいか座布団のようにして撮れると思います。若いと機械の強力で無理にも平たく押しつぶさねばなりません。結構な痛さです。
筋肉注射が済むと、今度はいよいよバリウムの味見です。 胃の中がバリウムでいっぱいになり、お腹を押すと口から溢れてくるまで、ゴブゴブ飲むのかと思ったら、今はそんなに飲まないんだな。 ちょうどフライパンをうろうろ回して、少量の油を全体に広げるように、少量のバリウムを胃壁全体に伸ばしてまぶすようだ。
バリウムを「美味しく」作ることは、技術的な問題以前に、「できない」そうですよ。美味しいと「胃が活動」してしまうので(胃液が出て、せっかくのバリウムを胃壁からじゃーと流してしまうらしい)、胃が活動しないためには、あんまり美味しかったらいけないのだそうですよ。 これは科学が突き当たった壁だわね。
しかし、それほど不味くも無い。旨くも無いが。 ただ、十時間ほど何も飲まないでいたところに、やっと摂取できる液体としては、あんまり嬉しくはない味だ。爽やかさが無い。(注:病院によっては、検査の朝はコップ一杯の水ぐらいなら飲んでも良いらしいが、私は「なにも飲むな」と言われていたのだ)
なんか粉っぽい。食感としては、どこかジョリジョリしている。石膏を水で薄めたような喉越しと舌触りだ。もちろん、石膏を水で薄めて呑んだことは無いけど。
バリウムが流れ落ちていく咽喉の様子を(先生が)見た後は、さらに、風船のように胃を膨らませるため、発泡剤を飲まされます。水を含んだら躊躇なく素早く飲み込まなければ、口が破裂しそうになります。 胃を膨らませておかねばならないので、ゲップをしてはいけません。「こらえてください」と言われます。そんな!苦しいじゃないの!
大きなベッドのような機械に乗って、手すりを持ちながら、指示されたとおりに、時々脇に置いてあるバリウムを飲みつつ。 機械をぐるぐるバタバタ動かされ、さらに「そこで回転してください」などと言われる。言うには、バリウムを胃壁に塗りつけているそうだ。 面白いです。何かのアトラクションみたいだ。 しかし微妙な傾きで(筋力で)静止を求められたりするので、弱った人には辛いと思う。
それにしても、医者さんか技師さんは、カメラで私の胃を「見ながら」姿勢を指示してるようですよ。うらやましいです!私も見たいのに! 胃の中にバリウムがチャプチャプしてるのを、やつは見ているのです。うらやましい!
後で見せてもらいましたが。
胃腸レントゲンって、いいものですね。 「これが私の胃か!」と感激しました。レントゲンと言えば、頭蓋骨や肋骨(胸部レントゲン)など骨しか見たことなかったので(肺はあるけど、あれは見慣れていて新鮮さが無い)、感激もひとしおです。こんなに長いこと付き合ってきて、色々世話になり、世話してきたのに、面と向かって顔を見たのは生まれて初めてです。
この人が紫の薔薇の人!
…というより、
あしながおじさん!
という、圧倒的な気分です。なにやら嬉しくなりました。
あしながおじさんを読んだことが無い人のために説明すると、主人公のジュディ・アボットは自分の後援者になってくれた名も素性も性別も年齢も知れぬ相手の、壁に映しだされた「影」だけをチラっと見たことがあり、その影が日差しの関係で、足の長い蜘蛛(アシナガ蜘蛛)のように手足が長く伸び、体や頭が小さくうつっていたので、「あしながおじさん」と勝手に呼んでいるわけです。確かそんなだったのだ。
私も自分の胃の、バリウムによる「影」だけを見ましたよ。 胃は紫の薔薇なんか出さないからね。胃液しか出さないからね。
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