非日記
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| 2004年06月18日(金) |
近所付合いは難しいのよ。 |
飴玉をあげて以来、大家さんは大人しかった。
「お返し(御礼)をしたら、余計にお返し(御礼)が返ってきてしまうのでは?そして、それにお返しをしたら、そのお返しが来て、それにお返しをしていたら…、結局卓球のラリーのように、命と余力(財力や体力)の続く限り継続される事になってしまい、お互いに消耗戦になってしまうのでは?」と思い、たとえずんずんスコアに差がついてもジーッと動かず、ただ口で礼を言うだけで堪えていた。
前に御隣りにいたおネエさんは、そのへん(近所付き合い)の扱いが素晴らしかった。何か貰っても、悪びれる事も気後れする事もなく、通り過ぎざまを素早く呼び止め、すんごく爽やかに「此間はどうもありがとうございました!すごく美味しかったです!」等と言ってのけたのだ。 通りすがった私は、見てしまったのよ。 そのタイミングっていうか、音程というか、音量というか、声の掛け具合と間の取り方、用件を述べるに要する時間と、切り上げまでのタイミングが、尽く完璧だった。
大家さんなんか、「そうですか。それは良かったです(ニッコリ)」ぐらいしか言わなかったよ!しかも二人はそれで、そのまんまサクっと別れたねん!愕然としたわ。
私は別に近所付き合いが(人付き合いも)大嫌いというわけじゃないが、あんまり得意でもないのは確かよな。「人だ!」と思った瞬間にさくっと猫が装着されるのも、けして上品なのではなく、単に雰囲気が薄暗いのであって、あんな爽やかなテンションの維持と安定した供給は私にはことのほか難しく、全力で頑張っても一発芸にしかならない事がわかっており、少なくとも、そうする事が自然体から懸け離れて程遠い逆走になるのは明らかなんじゃ。 つまり私は初対面でも可能な限り緊張を解いているのよ。
ともかく、いつも切り上げるタイミングを測ってモゾモゾしてる間に、いつのまにか、何故か、リハビリの進行状況などを一時間ぐらい聞くハメに陥っている。 私は見た。彼女は物凄く普通に近所付き合いをしていた。 それなのに、私は一体何をしているのか?なんの因果でこんな事に? なんの因果かというと、色んな因果なんだ。たぶん。
つまり、大家さんに特別問題があるわけでもなく(ちょっと新しい事を覚えるのが難しくなって来てるようだけど)、私がいかんのでしょうね…という認めたくない現実に、彼女の出現によって直面させられたのよ。 「私よりナンボも下のはずなのに、軽々と躱しやがった…!非の打ち所がない!あれがジーニアスというやつなのか…?」と、アマデウスに出会ったサリエリのように思ったよ。
そこで私はそれっぽくやってみたんだが、どうした事か、何故だか、大家さんは何か喋りたそうに見え、私がそれを無視しているような気がし、どうもこうもか弱い老人に冷たくしているような気になってくる。 「いや、これが!これが普通なのよ!」 と、意味不明に沸き上がる罪悪感と戦いつつ。 そういうわけで私は長い事大人しくしていたんだが、つい飴を一つあげてしまった。人から貰ったものだったが、あまり飴やガムは食べない。 すると大家さんが大人しくなった。
人が言うには、「やはり何かあげなければいけなかったんじゃ?」という話だ。 そうだったのかもしれない。難しいわ。
…それだのに私は、しかしまだ罪悪感を引き摺っていた所為もあるのか、つい、お土産を買って来てしまった。 「土産をあげてはいけないのではないかしら?」と思いながら五分ぐらいウロウロし、「なんでお土産を買ってはいかんの?!私の勝手じゃないの!」とも思い。
来た当初、ずーっと寝てたら「音がしないし、電気が点かない。いつも居ない。行方不明では?」と聞き込み調査をされた事を執念深く覚えている私は、近年は寄る年波か、大家さんがさらに心配症に興奮しがちになっている事もあり、暫く留守にする時には一応声をかけていく事にしている。 という事は、私が暫く家を空ける時には、大家さんは大抵それを知っているわけよ。
次の予定は盆だが、その時に買うお土産も一応既に候補を考えてみていた。 が、 「2〜3回につき一回程度の割りあいが健康な近所付き合いのベストではないかしら?自然な頻度として、それならば『いつも頂いている』とは言えないはずだ。『私は偶にしかやってない』と胸を張れるわ。しかしそんな細かい計算をしているのは私の方だけだろうから、あまり考えても仕方ないかもしれない」 とか色々考え、 「今回を外して初盆の時が良いかしら?だけどおそらく、日数的に、初盆でよりも今回の方が長く空けていた事になるだろうし、旅行期間が長い方が、お土産を貰うのに相応しく感じないだろうか?」 とかも色々考えていたが、つまり結局面倒くさくなって「知るか!」と喧嘩腰に買ってしまった。
「買ってしまったからには、勇気を出してあげなくっちゃ!」 と、思ったんだが、 「しかしこれを渡すと、これまでの経験上『まあ!いつも頂いてばかりですのに』等と身に覚えのない言いがかりをつけられ、『頂けませんわ』等と断られ、そこを無理矢理押し付ける形になり、すると翌々日ぐらいには『こないだの御礼に』等と何かを持ってこられてしまう危険が!…危険がってゆうか、十中八九そうなるんじゃろう…」 と思うと、いつも通り「心の準備がまだ…」と勇気が出なかったので、 「明日!明日にしよう!だってもう夜中だし!てゆうか家賃を払いに行くときで良いじゃないの。ついでっぽくサラっと渡し、そそくさと撤収し、後は1〜2週間、電気をあまり付けないようにして留守を装っていたらどうじゃろうか?幸いにして物覚えが危うくなって来ているので、どさくさに紛れに忘れてくれないだろうか?」 と、犯罪者のような事を悶々と考えていたら、電気がついているのを発見され、「お帰りなさい」とやってこられてしまった。
私は最近、自分の良くないところの一つには、「直ぐでも良かった事を、暫く後になり、通常からタイミングが微妙に外れている状態で言ったり行ったりするのが、他人には突然に思われ、相手は一瞬何を言われ、何がどう繋がっているのかわからない様子」というのがあるかもしれないと気付いたので、なるべく人を惑わせないよう、他人の感覚に合わせて直ぐに行動した方が良いかもしれないと思うようになったのよ。 今迄も物凄〜く合せているつもりだったのに、「あんたはかなりマイペースだよ」と皆が心無く言うようでは、もうちょっと急いだ方が良いのかもしれないのよ。 要するに、色々余計な事を考えていて、それが為にギリギリになってるっぽい。
そこで大家さんが来た際に、最近そういう心得を持っていた私は、不意をつかれ、すかさず「要らん事を考えるな!今!今渡してしまうのよ!エイや!」とお土産を渡した。
そして私が心配していた、まさにそのとおりになったところ。 翌日には、赤くて、ブツブツしていて、丸い物を持ってこられた。真ん中に種があり、酸味の方が強いが、微かに甘みがあるような気もする。何かわからないけど、たぶん食べ物。 …これでお返しが終わってくれれば良いんだけど。そう、これで終わるなら何の問題もない。
近所付き合い、てゆうか大家さん一人で、このザマでは気が遠くなる。
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