リュカの日記

2007年02月03日(土)

何も考えず、何時間でもボーっとし続けてしまう。
それが何だか心地良い。
ここ数年、「何も考えない」という事そのものを自分に禁じ続けていたような状態が続いてた。
あの子が無事だったかもしれない。
それが仮初めでも、今は憑き物みたいなものが落ちたような状態になっているのかもしれないな。何だか平安。
現在午前4時47分。
もしかしたら、今日はフランス語の再試験があるかもしれないので、このまま起きている事にする。
今から、少しだけ勉強をする。

あの子とメールで話してて、途中からメッセに切り替える事になって、明け方から午前8時半頃までずっとあの子と雑談していた。
あの子とメッセで話すのも、3年ぶりくらいじゃないかと思う。
結局勉強をする事は出来なかったけど、凄く嬉しい気持ちになれた。
「あの子が本当はそういう目に遭ってなかった」という事にまだ疑いは残っているけど、「本当にそういう目には遭ってない」と感じさせる要素みたいなものを1つ感じて、少し希望が見えた感じで。
そして、「この子はそういう目に遭ってない」という意識を前提にして雑談してた。本当に嬉しい。
午前8時半過ぎになり、メッセを切り上げ家を出た。
学校に向かう。
通学中電車に乗っている時、自分の顔が微妙にほころんでいる事に気づく。
殆ど半笑いみたいな状態だった。
ありえない・・・
普段の俺は、特に意識している訳でもないけれど、デフォルトで薄目になってて。内面感覚の現れか、その視線も常に殺意や侮蔑や憎悪に満ち満ちている。
よく、『眼に光が無い』という表現が使われるけど、それはまぶたに遮られ、光が黒目部分に反射しない事を指すのだろう。
俺の眼球は常に真っ黒。
子供というのは、見ず知らずの大人の顔を覗き込む事が多いと思う。
視線を感じると、何となく俺もそちらの方にチラっと顔を向けてしまう事が多いのだが。
自宅マンションのエレベーターで俺と乗り合わせた子供なんて、その7割は目的の階に着くやいなやタタタタタタッと、逃げるように駆け出して行く。
それがタイプの少年でなければ、俺は子供に対しても憎しみを感じる事が多いのだ。
「こいつも中学生くらいになるとそういう少年をやったりするようになるかもしれない、今のうちに殺せるものなら殺しておきたい・・・」みたいな感情を抱く事が多いのだ。
俺は、常に一人で張り詰めている。
なのに、今日は凄く緩んでる。自分的にも驚きだった。
眼球も、普段では考えられないほど見開かれている。
『眼に光が宿る』とは、多分この事を指すのだろう。
「これが幸福感というやつなのかな・・」なんて事を思ってた。
学校に到着する。
さっそく掲示板を見に行くのだが、フランス語に関する掲示がどこにも無い。
また、フランス語の教室も無人になってて。
今日は再試験は無かったらしい。
じゃあ、どのみち予習勉強をする必要は無かったんだな。
せっかく学校に来たのだからと、俺は図書館に向かう。
しかし、図書館も閉館していた。
俺は学校を後にした。
結局、フランス語の再試験がいつ行われるのか分からないまま。
あの子の事を考える。
凄く気持ちが高揚していた。
「俺の人生でこんなに嬉しい事があっていいのだろうか・・・」
学校の最寄駅のホームを歩いていると、椅子に座っているオッサンが俺の方をジッっと見てくる。俺はそのオッサンに視線を向けながら歩いていたけど、そのオッサンの視線はそのまま歩く俺を追いかけてくる。
俺はオッサンの前まで引き返し、そのオッサンの事を真正面からジッと見据える。
そこまでして、ようやくそのオッサンは視線を逸らした。
俺はモラルが無い奴が大嫌いだ。
でも、相手がヤンキーだのヤクザだのだったら、多分こんな態度は取れないだろう。俺はヘタレだ。
その後、俺は電車に乗って地元に帰った。
地元の本屋に立ち寄った。
自分が集めている漫画の新刊でも出ていないかな、とチェックをする為。
新作コーナーに、週間少年ジャンプで連載中の「ブリーチ」という漫画の26巻が置かれてた。
俺は、この漫画は好きじゃない。
内容が臭すぎるし、中身が無いし。
俺はジャンプの漫画は毎週全て読んでいる。読まなければ気が済まない。
もちろんブリーチも読んでいる。
読んでいるけど、あまりのつまらなさに息苦しささえ覚えてしまう。
しかし、この26巻の表紙に描かれている「ルピ」というキャラクターの容姿が、俺の中でのあの子のイメージと被ってて、何だか凄く可愛らしかったので買ってしまった。
買ったは買ったけど、多分読む事は無いと思う。
「ブリーチ」の単行本を買ったのは、これで2冊目だ。
以前、14巻の表紙に「山田花太郎」というキャラクターが描かれていて、その容姿が俺が中学の頃に好きだった男の子と被ってて、やっぱり可愛らしくて買ってしまった。その14巻も、買いっぱなしで結局読まずに放置されてる。
本屋を出た俺は、スターバックスに向かって、そこでコーヒーを注文した。
少し落ち着いた状態で、この幸福感をかみ締めていたかったのだ。
今朝あの子と交わした会話を思い出してた。
会話はポンポン進むので今朝は実感出来なかったけど、その内容を改めて思い出してみると、あの子は俺に対して死ぬほど嬉しい事を言ってくれてた。
それをかみ締め、またボーっと浸ってしまった。
これで、もういつ死んでも構わない。たとえ死んでも成仏できる・・・
そんな気持ちが沸いてきた。
凄く満たされた気持ちになってた。
コーヒーを飲み終えた俺は、タバコを吸う為、一度店の外に出る。
ウォークマンから聴こえてくるGARNET CROWの「夏の幻」という曲が心に沁みた。
そうやって幸福感に浸っていると、バス待ちのジイサンに声をかけられた。
「今何時ですか」と。
この感覚を邪魔された事に少しイラっときたけれど、素直に「今は午前10時33分です」と時刻を教えた。
その後、タバコを吸い終えた俺は店の中に戻り、コーヒーのおかわりを注文した。おかわりからは100円なので、おかわりしないと元が取れない。
席に座って、2杯目のコーヒーを飲み始める。
しばらくすると、視線を感じた。
俺の斜め前に男が突っ立っていて、俺の方をジッと見ている。
完全に無表情だ。
俺は後ろを振り返る。
そいつとの対角線上に位置しているのは俺一人。確実に俺を見ている。
そいつは26〜29歳くらいで、ゴリラ面でアゴヒゲを生やしゴーグルみたいなものを掛けていて、頭にはニット帽。
格好は今時だし、身長が高くてかなり力も強そうだ。
ハッキリ言って、苦手な人種。
俺もそいつの事をジッと見返す。しかし、一向にそいつは俺への視線を逸らさない。
脚がガタガタ震え出す。顔が火照って真っ赤になった。
対人恐怖症の兆候が現れたのか、単純に恐怖感を感じているのか。
怯んでしまう。
もう一度、そいつの方をチラッと見てみる。
やっぱり、俺の事をジッと見ている。
しばらくすると、そいつは俺の正面まで移動してきた。視線は俺に向けたまま。俺との距離は約2メートル。
何か、俺がさっき駅のホームでオッサン相手にやった事と全く同じだ。
でも、先に視線を向けてきたのはどちらの場合も相手の方から。
メッセの子は、こいつと同じ系統のゴリラ野郎にもやられてる。
勇気を出して、俺はもう1度そいつの方に視線を向ける。
そいつは未だに俺を見ている。
『ここまであからさまに見られているなら、言ってやっても不自然にはならないよな・・』と考え、俺は遂に声を出す。
最初は小声で「・・あの・・なんですか・・・?」と。
そいつはいぜんとして俺を見ている。気持ち悪いくらいに無表情だ。
今度は、少し声を強めて「なんですか?」と言った。
聞こえてない訳が無い。
そいつは、「うんうん」といった感じでうなずき始める。
俺は、ポケットに入れているミニカッターを握り締める。
E君が女共に監禁された事を聞かされ、『もしも自分がそういう男の子が襲われそうな場面に遭遇したら・・・』なんて事を考え、数日前に大学生協で購入したのだ。
その当日に、さっそく自傷行為に使ってしまったミニカッター。
刃渡り約7mm程度。条例にも引っかからない。
首でも切らない限りまず殺傷能力は発揮しないので、普通のナイフよりも使う事に躊躇しない。以来、俺は常にそれを持ち歩いている。
それでも、"いざという事が起きた時"、極端なまでにヘタレな俺が実際にそれを使えるかどうかと言えば、使えない可能性の方が高いのだけれど。
体がガタガタ震えてる。
『もしかして、幸せ終了?これから帳尻合わせが起こるのか・・・?いつものパターンで神が俺からこの幸せを奪う為、こいつが俺を殺すのか・・・。それとも逆に、俺がこいつを切って逮捕されてしまうのか・・・』
本気でそんな事を考えた。
俺が読んでいる小説シリーズに出てくるフレーズで、『屍<トリガーハッピーエンド>』という言葉が頭に浮かんだ。
でも、メッセの子だってこういう感じの奴にやられた。
ここで引いたら、そういう目に遭わされて来た男の子達に、申し訳が立たなくなってしまうんじゃ・・・
震えながらミニカッターを握り締め、俺はもう一度そいつに向かって「一体何なんですか?」と言い放つ。
相変わらず、そいつは「うんうん」うなずいている。
『もしかして、精神障害者か?』と思った。
いきなり暴れ出し、椅子で頭を殴られて脳しょうを撒き散らされてしまうようなイメージが沸いた。
でも、メッセの子は精神障害者にもやられてる。
しばらくすると、そいつは店を出て行った。俺に視線を向けながら。
それからしばらく、体に力が入らなかった。
明らかに自分より強そうな奴相手に、こんな風に対峙出来るだなんて、ヤンキー時代なら考えられない。普通逆だろ、という感じだ。
やっぱり、俺の中でタイプの男の子の存在というのは凄く大きなものなんだな。
本当に、B級漫画等で嫌というほど出てくるようなお約束的な状況だった。
一体何だというのだろう・・・
学校帰りの短期間に、3度も他人に接触を持たれるだなんて、普段ならまず考えられない。
それも、せっかくあの子が無事だったかもしれない、という可能性が見えた直後に・・・
自分に幸福が訪れそうになっているから、運命がまた俺に対して敵意を剥いてきたのかな、と思う。
緊張感に支配され、先ほどまでの幸福感が、一気に吹っ飛んでしまった感じだ・・
それでも、数十分するとまた落ち着きを取り戻し、先ほどまでの幸福感が蘇る。
あまりの高揚感に、胸が痛くなってくる。
ギューーーっと、カバンでも抱きしめていたいような感覚だ。
年下の男の子で、しかもタイプの子で・・・タイプであるにも関わらずずっと無事で居てくれた男の子。そんな子が自分の事を慕ってくれてる・・・
本当に夢みたいだ。
俺はコーヒーを飲みながらずっと小説を読んでいたけど、あまりの高揚感から内容が全く頭に入らない。だから、同じページを何度も何度も繰り返し、それでも結局ページが進まず。
それでも、苦痛を感じない。
とてつもない高揚感。
と、頭がジンジン痛み出す。
じわじわと痛みが強まり、耐えられなくなっていく。
自分のキャパを超えた興奮に、体に異常をきたしたのだろうか。
それとも、普段薄目がデフォなのに、長時間大きく見開かれた状態が続いたので、眼球を通じて脳に負担がかかっているのか。
それとも、雑音対策として常時耳に装着し、常に大音量を耳の中に送り込み続けているウォークマンの影響か。
2杯目のコーヒーを飲み終えた俺は、更に3杯目を注文する。
それを持って家に帰ろう、と思ったのだ。
しかし、レジでおかわりを注文すると、「おかわりは一杯だけなんですよ」と言われた。
俺が「前は2杯目もおかわり出来ましたけど」と言うと、店員は「多分、それは店の対応が間違ってたんですね」と言った。
俺は「そうですか」と言って、そのまま手ぶらで店を出る。
結局、2.3時間スターバックスに居座り続けていた訳だが、その間読んでいた小説は、3ページほどしか読み進める事が出来なかった。
家に帰り着いた俺は、さっそく頭痛薬を飲んだ。
少し痛みが治まった。
現在午後15時32分。
今日は、普段あまり考えないような事を、色々考える事が出来たと思う。
結局、今日もメッセの子に連絡を入れる事をしなかった。
E君が女共にやられたばかりだ。
また、何かトラブルに巻き込まれている可能性だってあるのに・・・・
そろそろ連絡を入れないと、メッセの子が突っ走ったりで、また取り返しのつかない事が起きそうだ・・・・・
だけれど、俺は保留にし続けている。
気が重い・・・・・・

午後18時過ぎに目が醒めた。
1時間くらい眠ったと思う。
少し不眠症気味かもしれない。
現在午後19時10分。
あの子が「無事だったかもしれない」と言って俺の前に現れてくれた事によって、この先自分自身の精神面や生活がどんな風に変わっていくのか、結構不安を感じてしまう・・・
読み返してみるとこの日記の内容も、数日前とは180度変わってしまって。
俺は変化に弱いのだ。刺激が苦手というのだろうか。

目が醒めて少ししてから、またあの子が俺にメッセをくれた。
本当に、ただただ嬉しい気持ちになってしまう。
先ほどまでの不安が麻痺して、喜びだけを感じてしまう。
少し話した後、用事があるとかであの子はメッセを落ちてしまった。
その後、俺は母親に夕食に呼ばれた。
今日は節分らしい。
俺が豆撒きをする事になった。
全ての部屋に豆を撒き終え、その後俺は歳の数、つまり24個の豆を食べた。
その後、北北西に向かって恵方巻きを食べた。
恵方巻きというのは、関西だけに伝わる習わしとかで、その年ごとに定められた方角を向きながら、巻き寿司を一本丸ごと平らげる、といったもの。
巻き寿司を食べている間は、一切声を出してはいけない。
また、食べながら願い事をするのだそうだ。
母親に言わせれば、このような風習は昔は存在していなかったらしい。
メディア戦略みたいなもので、近代になって勝手に作られたイベントだろうか。しかし、うちでは毎年やっている。
そういえば、学校からの帰り道、駅前の寿司屋で巻き寿司を路上販売しているのを見かけたな。そういえば、去年も見かけたような気がする。
俺は、「この幸せが仮初めではなく、E君がそこまで酷い目に遭わされておらず、そしてあの子やメッセの子やE君達そういう男の子皆がこれ以上酷い目に遭わないように」と願いを込めて、恵方巻きを平らげた。
節分か。
去年も同じ事をやったけど、それがつい1.2ヶ月前くらいに感じられてしまって。
本当に、時間が経つのが早くなったな。
巻き寿司に合わせて母親が日本茶を淹れていたので、それを飲みながら久しぶりに「るろうに剣心 追憶編」のアニメ動画を観る事にした。
凄く重くて、救いの無い話だと思う。
これを観て、以前は色々感じる事が多かったのに、今回あまり感じなかった。俺の中の苦痛の根底には、常にあの子の犠牲があった。
あの子に「自分は無事だったかもしれない」という可能性を示された事によって、俺の意識を形成していた芯みたいなものが、ポッキリ折れてしまったのかな。
救われない、救われない、救われない、救われない。
どこまでいっても希望が無い。
このアニメは、そんな絶望感、閉塞感、息苦しさを強く感じさせるような物語だ。
しかし、今回アニメを観ててそこまで苦しくならなくて。
ハングリー精神みたいなものが失せてしまったとか、浮かれて軽はずみになっているとか、『重い』ものを『重い』と捉えてちゃんと考える事が出来なくなってしまっているとか。
そんな風に、自分が堕落してしまっているように感じられて。
でも、これは贅沢な悩みだな。
本当に、あの子の無事は俺にとっては何よりの支えだ。
でも、あの子が無事に存在している、という事実に甘えすぎ、どんな悲惨な事を知ってもその度にその喜びを引き合いに出し、それについて考える事を放棄してしまうような、この先自分がそんな薄い人間になってしまわないか、少し不安になってしまった。
俺は、ある面で自分に甘すぎる部分があるので、その支えに依存しきってしまうと思う。
現在午後23時59分。


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リュカ

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