風太郎ワールド


2003年04月23日(水) ミルクコーヒー

以前このコラムで、スターバックスのことを書いた。

その発展の歴史は、ちょうど私がアメリカでまずいコーヒーに苦しんでいる時期と重なるのだが、両者を比較して振り返ると、コーヒーに対する情熱を、巨大なビジネスとして成功させた男と、金にもならないコラムで書いている男の違いが見える。

1970年代後半、日本の喫茶店をこよなく愛した私は、「茶店王」として君臨していた。特に、神戸のにしむらコーヒーがお気に入り。本物のシナモンスティックを添えたカプチーノは、世界一だと信じていた。今から思えば、ちょっと甘過ぎたのだが。

1980年から数年住んだアメリカ東海岸の街には、まともなコーヒーショップが一軒もなく、日本の喫茶店が恋しくて仕方なかった。

"Cafe"と名のつく店はいくつもあるのだが、喫茶店というより軽い食事をするレストランだった。コーヒーもとりたてて高級ではない。

1985年中西部の大学に移ったところ、その街にはカフェがあった。それも3つも!ようやく文化的な生活を取り戻す。まだスターバックスが全国区でない頃だ。

一方、スターバックスの現会長シュルツがスターバックスに入社したのは、1982年。イタリアを視察してエスプレッソ・バーに感動し、シアトルでも成功するかもしれないと閃いたのが、1983年。独立して、エスプレッソ・バー、Il Giornaleをオープンしたのが、1985年。スターバックスを買収して名前を継ぎ、シカゴとバンクーバーにも店をオープンしたのが、1987年。この後から、怒涛の成長を遂げる。

同じ時期にアメリカのコーヒー事情変革の必要性を感じながら、さすが成功するビジネスマンは行動的だった。

*    *    *

さて、3軒のカフェに出会って息を吹き返した私だが、一番よく通ったのがS/Bという店。コーヒーだけでなく、雰囲気が肌に合った。少し雑然として、学生街によく似合う。ヒッピー風の客も多かった。毎日のように入りびたり、何時間も本を読んだり、物を書いたり、音楽を聴いたり、通りを行く人を眺めていた。たいていは一人で。

この店のメニューには、カフェ・ラテ(caffe latte)の他にカフェ・コン・レチェ(cafe con leche)というのがあった。

実は、コン・レチェもラテも同じ意味だ。スペイン語とイタリア語の違いだけ。ついでに、フランス語のカフェ・オ・レ(cafe au lait)も同じ意味。ようするに、coffee with milk。ミルク入りのコーヒー。何のことはない、ミルクコーヒーのことではないか。

言葉の上では同じだが、中身は少しずつ違う。カフェ・オ・レは、コーヒーと温めたミルクを等量ずつ別の容器に入れてサーブし、お客が自分でカップに注いで混ぜる。ラテは、スチームで温めたミルクをエスプレッソに加えて混ぜる。ミルクだけでなく泡をたっぷりと乗せるとカプチーノになる。

コン・レチェは基本的にラテと同じような飲み物だが、一般的なカフェではメニューにない。S/Bでは、ラテ、コン・レチェ、カプチーノを区別していた。エスプレッソと泡入りミルクを1対1で混ぜるのがカプチーノ、1対2で混ぜるのがコン・レチェ。

私は、よりマイルドでミルクの多いコン・レチェが一番好きだった。

*    *    *

ところで、以前このコラムでスターバックスには2つの弱点があると書いた。その後、いろんな方々がスターバックスに足を運んであれこれ観察し、推理の結果を送ってくださった。

いつも混んでいて待たされるという指摘があった。これは日本のスターバックスの問題で、アメリカではそれほど混んでいない。逆にいえば、現在の日本のスターバックス人気はブームの面も強く、いずれ客足は落ちるだろう。

ドリンクに比べ、食べ物が充実していないという不満もあった。これはもっともな指摘。ただ、アメリカのカフェならこれはましなほうで、味も決して悪くない。私は、けっこう評価している。

実は、スタバの弱点については、ところどころでヒントをばら撒いてきている。

そもそも、カフェに行くのは何のためだろうか?

誰かと待ち合わせることもあるだろうし、たまたま外出時にひと休みすることもあるだろう。でも、それならドトールでもその他の喫茶店でもいいはずだ。

私がカフェに行くのは、おいしいカプチーノやラテに渇望した時、そして、ゆっくりと一人で本を読んだり、物思いにふけったりしたい時。



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が目的なのだ。

ところが、多くの人は驚くかもしれないが、このふたつがスターバックスの弱点なのである。

スターバックスのドリンクもそこそこおいしいが、最高級ではない。レギュラーコーヒーならもっとおいしい喫茶店は他にもある。ラテ、カプチーノにしても、他のカフェチェーンと大して変わりはない。やはり300円なりの味だ。実際さまざまなカフェを比較した調査などでも、味では、シアトル系ではなく本場イタリア系に軍配が上がるらしい。

そして、私が一番不満なのが、雰囲気。なんで、どのスターバックスもこんなにインテリアのデザインやレイアウトが野暮いのだろう。アメリカでもそうだった。高級でも、庶民的でも、カジュアルでもない。中途半端。何となく落ち着かない。だから、ゆっくりしたい時は、別のカフェを選ぶ。

今はもてはやされているスターバックスだが、新鮮味が薄れた時には、何がお客を惹きつけるのだろう?

私はいろんなカフェを巡る。雰囲気では、阪急岡本駅前のシアトルズ・ベスト・コーヒーが一番好きだ。渋谷ではSegafredo Zanetti、スターバックス渋谷文化村通り店が一番落ち着く。たいてい座れて、パソコンを使いやすいから。Tully'sは、黒で統一したインテリアが高級感を与えてくれる。仕事で走り回っているときは、ドトールで20分の休憩が一番便利。

カフェを巡るバトルはまだ決着がついたわけではない。私が100%満足できるカフェはまだ見つかっていない。ああ、S/Bが日本にあったらなあ‥‥


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