WELLA
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2003年03月03日(月) 生きた語学教材のユウウツ。

友人と夕食後、帰宅電車に揺られていた。
時間帯ゆえ、ほろ酔い気分の乗客も何人かいる。ぼんやり座っていると、ドア付近から英語が聞こえてきた。大き目の声だが内容が聞き取れるほどではない。さっき駅で脇を通り過ぎていった外国人の二人連れだろうか、と思って声のするほうを見ると、正ちゃん帽をかぶってサングラスを掛けた黒人男性が日本人の初老の紳士に話していた。一見して妙な取り合わせである。ビジネスでも遊びの関係でもなさそうだ。"talk","drunk","why"などと途切れ途切れに黒人男性の声だけ聞こえてくる。見ていると彼の方がやや興奮して話していて、日本人の紳士は照れ笑いを浮かべながらなにかつぶやいているのだが、もとよりそれは聞き取れない。連れなのか連れでないのか、話が弾んでいるのか弾まないのか、よくわからないまま視線を戻した。
しばらくするとまた黒人男性が声高にまくし立てている。ぴりぴりとしたものが伝わってくるので、そちらをまた見ると、黒人男性が身振りも大きく話している。今度はかなり大きな声で話していたのでわかったのだが、大体以下のようなことを言っていた。1.俺は話しかけらるのは嫌いなんだ⇒2.あんた酔ってるだろ、俺は酔ってない⇒3.酔ってる人間とは話したくない⇒4.なんであんた俺に話しかけてくるんだ⇒5.あんた俺を知ってるか?俺はあんたを知らない⇒6.話したければそこら辺にいっぱいいる日本人と話せばいいだろう?⇒7.なんで俺なんだ⇒1に戻る×∞
つまり、日本人の紳士はたまたま電車に乗り合わせた黒人男性にしつこく話しかけていて、それが黒人男性をいらだたせたということらしい。黒人男性の方は話しているうちにどんどん気が高ぶってきたらしく、日本語で「バーカ」といったり、"donkey"呼ばわりをしたり、憤懣やるかたないという様子なのだが、日本人紳士の方はそれらのどのくらいを理解しているのか、そのまま知らん振りをして、やがてすうーっと反対側へ行ってしまった。残された黒人男性の方は収まらずにずっとイライラとしたオーラを出していた。
確かに十何年か前は、「生きた英語に触れるために、外国人を見たら積極的に話しかけましょう」なんて英語上達法がまことしやかに広まっていたが、多分その日本人紳士は無邪気にそれを実行しただけなのだ。しかし、ちょっと想像力を働かせればその英語上達法は、話しかけられた側にとって迷惑千万な話であることはすぐにわかる。彼らにしてみれば、なんの義務があって下手な英語で「どこから来たのか」とか「日本食はすきか」とかいう無意味な質問につきあわなければならないのか。
元同僚のフランス人たちは、日本人を妻をもって日本語にはほとんど不自由しないのだが、その外見から一緒に食事に行ってもいつも日本語ができない人として扱われていた。それって心外じゃない?と言うと「それか勝手に英語で話しかけるんだよね」と笑っていた。紅毛碧眼を見るとつい「はろー」と言ってしまう日本人はいまだ健在である。


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