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エレベータというのは、あんな狭い函に見知らぬ人同士かなりの密度で閉じ込められるのだが、それだけに妙にかたくなによそよそしい空間でもある。 私がすんでいるマンションでは、乗り降りするときにほとんどの人が愛想良く「おはようございます!」とか「こんばんわ」とか挨拶しあうのだが、これだって、別に心を許しているわけではない。アメリカ人が愛想良くしているのは、開拓時代から培われた「私はあなたの敵ではありません。怪しいものではございません」という表明のためなのだ、という話を聞いたことがあるが、それとまったく同じである。同じマンションの一つ屋根の下に暮らしているので一応は愛想良くするのだが、もう二度とエレベータに乗り合わせることはないだろうとも思っている。たとえもう一度会ってもきっと忘れているに違いない。 ところで、今日乗った駅のエレベータである。4人乗ってきてドアが閉まったが、エレベータが動いている気配はない。私は一番奥に乗っていたのだが、階数表示は乗ったフロアの番号を指している。つまり誰も行き先ボタンを押していないのに、誰一人としてボタンを押そうとしないままそ知らぬ顔して乗っているのである。後ろからそっと手を伸ばして脇の車椅子用行き先ボタンを押すと、ピッと音がしてゆっくりエレベータが動き始めた。誰も驚いた様子がない。目的階につくと、三人とも当たり前にそのまま降りていった。幸せな人たち。
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