My Cup Of Tea...POO

 

 

待つ人 - 2007年07月17日(火)

仕事帰り。
19時半の地下鉄。

ある女性をみた。
背がすらりとして、カーキ色のトレンチコートを着た
長髪の美人さんで、
ひとり、違う世界にいた。
車両のはじっこ、
優先席の前に立って、
とんとんと足で床を蹴って、
軽く拍子をとるようにしながら
笑顔みたいに顔を歪めて

「ふざけるな」
「あんたたちふたりのせいで、どれだけ迷惑かかってると思ってるのよ」
「むかつく」

って、よく通る声で。
たったひとりの世界で、
彼女は言葉をまきちらし。
そこからはみ出した感情で
車内は異様な気配に満ちていた。

「ふざけるなよ」
どんどん、
「馬鹿にするなよ」
感情が溢れてゆき、
「半殺しだぞ」
誰も受け止めないコトバが、
「ふざけんなよ」
醜い不発弾のように彼女の回りを埋めていき、

とうとう、潰れた。

彼女は、瓦礫につぶされていく間際の動物のように、
絶叫した。


「都会だと思って馬鹿にしやがって」
「ぶっ殺してやる」
「ドラえもん帰って来て!ドラミちゃんがまってるよ!!」
「ぶっ殺してやる」

「ドラえもん帰って来て!ドラミちゃんがまってるよ!!」

私に、四次元につながるポケットがあれば、よかったのに。
彼女のコトバが、ちゃんと通じる世界に連れていってあげられる魔法のドアがあれば、よかったのに。
生き埋めの世界を、救える術があったら、よかったのに。


おこがましい。
おこがましい感情だ。
彼女がほしいのは、たぶん、そんなものじゃないのに。


瓦礫を避けて、私は降りた。
肺をふりしぼる金切り声は、すぐに消えた。


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