「藤田の父は本当に自分ひとりの力でその地位を築いたんだ。たった独りで独裁の状態を作り上げたんだ」 とある男は言った。
「でも誰もその状態に文句を言わなかったし、誰も不都合を受けてもなかった。島のみんなは心から彼を尊敬し信頼し、全てを彼に委ねていたんだ。彼自身もとてもモラルが高くどんな不正もしなかったと思う。加えてとても簡潔で豪快だった。そして、その自分の持てる全てを島の住人のために捧げている人間だった。彼の熱意は留まることを知らず、彼は島の枠を越えて大陸へも踏み出し、大陸で発生している不都合を自分の力で解決しようとしたのだ。彼はとても責任感が強く困っている人やそもそも困る状態にも関わらずそれを認識していないという人を見つけると何の躊躇も無しに、彼は行動をおこした。そういう人間だった。だが、終わりは急に訪れるもので、彼はその絶頂の時に、交通事故に遭い亡くなってしまうんだ」
少し風が出てきたことに気づいたのか、男は一度海の方に目を向けた。 僕は男の言葉を待った。
「警察が発表した死亡の経緯を話すと、彼は、大陸で開かれた彼がメインゲストであるパーティーに出席していた。パーティーでは、島での教育理念と教育の成功事例が紹介されたりもして、彼は終始上機嫌。帰りのタクシーに乗り込む時には、シートに座った瞬間に寝てしまうほどかなりの量のアルコールを飲んでいたようだった。タクシーには、同じパーティーにも出席していて以前から知っている女も一緒だった。 交通事故はこの帰りに起きた。運転手と彼と女の3人が乗ったタクシーは、リアス式海岸のような高い崖の海岸線を走行していたんだ。その時、前から来た居眠り運転のトラックが突っ込んできた。タクシーはそれを避けてハンドルを取られ、そのままガードレールを突き破って海に落ちてしまったんだ。タクシーの運転手は命からがら逃げられたが、酔って寝ていた彼と逃げ遅れた女は、亡くなってしまった。あっけないだろ」
「とてもあっけないですね」 僕は、ただうなずいた。
「俺も警察の発表をリアルタイムで聞いた人間なのだが、初め聞いた時に、ありえそうでありえない話にも聞こえたし、ありえなさそうでありえる話にも聞こえた。ただ、彼の息子はこの知らせを聞いた時に『これは臭い』と直観的に思ったらしい。けれでも、それを裏付ける証拠もそれを調べる力もなかったから、あきらめてしまったんだと思う。ある時、藤田は俺にそう教えてくれたよ」
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