「悩んでいる事無いのよ。いつでも、どこでも、羽を思い切り伸ばしなさい」
その本は僕にそう呟いた。 僕は紀伊国屋でその本を読んでいたのだが、「これだな」と思って元気が出てきた。
店を出てから僕はさっそく思い切り羽を伸ばしてみた。 とても気持ちのいいものだ。
と、実感する前に、通行している人達は、僕が伸ばした羽をきっちりよけていった。 ある人はかがんで、またある人は肩越しにかわして行った。 だから、みんなとても歩きにくそうだった。
一人のおばちゃんが言った。 「こんな人の混むところで羽なんて伸ばさないでよ。やるなら自分の家で伸ばしなさい」
おばちゃんの理論は確かに正しかったのだが、 僕の実質5畳という狭さの部屋では、羽を伸ばすのも困難なのだ。
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