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| 2004年11月02日(火) | 夢を繋ぐということ |
【唐突ですが・・・】
私たちの子どもネットワーク可部には、NPO法人としての定款があります。
毎年開かれる総会資料の最後のページには必ずこの定款を掲載してありますが、会員の皆さん以外の目に触れることは少ないので、改めて確認してみましょう。
まず、目的及び事業の項目には次のように掲げられています
第3条「この法人は、子どもたちの生活体験。芸術体験を年齢に応じて豊かに保障し、それらの活動を通じて子どもたちの社会参画を実現することを目的とする。」
次に事業の項目では特定非営利活動に関わる事業として
○1豊かな芸術体験を保障するための、年齢に応じた作品による舞台鑑賞事業の実施および、想像力を育むためのワークショップ、表現活動などの実施
��年齢に応じた生活体験を提供するための、育児サークル、講演会、童謡コンサートなどの子育て支援事業
��ファミリーキャンプ、子どもまつりなどの遊び体験事業
�す盂愬�キャンプの実施や、中高生を中心とした企画グループ、ネットワーク空安佐北のサポートなどの子どもサポート事業
�セ劼匹發燭舛涼屬�れている現状を理解し、共に考えていくための、他団体との連携およびネットワーク作りに関する事業
�Φヾ愡罎糧�行およびホームページの作成などの広報活動
�Ь綉�の諸事業を実施するための人材養成
このような内容が掲げられています。
ここで見て分かるように、鑑賞事業は芸術体験という目的を達成するための一つの手段であり、鑑賞事業そのものが私たちの目的ではありません。
しかし、現在、行政や様々の団体が子育て支援をその目的においていますが、鑑賞事業をその大切な手段として掲げている団体は、私たちのように“劇場”を前身としている団体を除くとほとんどありません。
このことはどういう意味を持っているのでしょうか？
【同化体験と異化体験】
なぜ、子ども達の育ちの中で、豊かな芸術体験が必要なのでしょうか？また、そのような体験が社会参画にどのように結びついていくのでしょう？
一般に、観劇というのは単に贅沢な娯楽の部類として捉えられがちです。
けれども、子ども達の成長にとって観劇は決して単に娯楽というだけの位置付けではないのです。
ここに、一つの長い文章を引用させてください。
これは、神戸おやこ劇場20周年記念イベントで、西郷竹彦氏が【子どもにとっての舞台鑑賞】という演目で講演された内容の一部です。（西郷先生の講演は私自身がこの活動に関わりだした当初に聞く機会があり、その後自分自身の活動の原点にしてきたものです。）
（以下引用）
それともう一つ、体験ということを言いましたが、その体験の仕方は二通りあります。物語や演劇の主人公と、私たちがどういうつきあい方をするかは二つのつきあい方があります。一つはその主人公の気持ちやその身になるという同化体験。同化すると言います。もう一つは、あんなことを言っている、していると、こっちから突き放して見るという異化体験。異化すると言います。同化体験と異化体験の二つがないまぜになって、これを共体験と言っています。
私たちは日常生活の中で、こうはしていません。自分の悔しい時はただ悔しい、うれしい時はうれしいというだけのことです。自分の姿をこっちから見て、自分は今あんなみっともないことをしているとか、うれしそうにやっているなとかいうふうには見ません。私たちは、自分の姿を脇から横から向こう側から見るということがなかなか出来ないのです。皆さん方は鏡に向かって自分の姿を向こうから、外から見たようにご覧になると思います。ちょっと似合わないとか、ちょっと髪型がおかしいとかというふうにご覧になるでしょう。自分の姿形は鏡に写してみることが出来ますが、自分の心の姿、自分の生き様というものを鏡で見るというわけにはちょっといきません。人間は自分の生き方を第三者の目で外側から見ることがなかなか出来ないのです。よくお母さんが子どもに、そんなみっともないことをしてはいけませんと言います。みっともないと本人は思っていなかっても、はたから見るとみっともない。つまり第三者の目で見なさいということを要求しているわけです。しかしこれはなかなか出来ませんね。
それから相手の身になるということは、なかなか出来ないことです。人の痛さは自分の痛さではないから、なかなか分かりません。ところが文芸作品を読むということ、演劇体験をするということは、この二つのことを実に切実にさせてくれるのです。子どもたちが芝居を観ている様子を見ますと、前へ体を乗り出して観ています。体を前に乗り出すというのは、本当は心も体も舞台に飛び上がっていきたいのです。出来ればその主人公に自分がなりたいような気持ちなのです。ということは、その舞台の上の主人公の身になれる、その気持ちになれるということです。
その気持ちが手に取るように自分に伝わってくる。ということは、自分が自分以外の他人に、他者の身になることが出来るということなのです。
演劇体験の大事なことの一つは、自分以外の他者の身になるということです。つまりそこで演じられてるその役の身になり、その人物の怒りや悲しみや喜びを我が事のように体験することです。これが同化体験です。この同化体験を舞台を観ながらしているということは、非常に大事なことです。
思いやりという言葉がありますが、それは自分の思いを相手の、その向こうへやるということなのです。相手の気持ちが分かるということは相手の身になって分かるわけです。これが普通は想像力が必要なわけですが、舞台というのはそういう想像力をそれほど必要としません。観ているだけで、その人物の喜びや悲しみや怒りが我が事のように体験できます。
そういうことを読書、物語の中で、お芝居の中で繰り返し体験するということは、結局子どもたちが人の悲しさ、つらさが分かるという人間になるということなのです。
お母さんや先生が、友だちのことを考えなさいとか、人の身になって考えなさいと口でいくら言っても、そういう経験や繰り返しがないと子どもは出来ないのです。だけど、子どもたちが読書体験とか演劇体験の中で、つねにその主人公の身を生きるということをたえず体験していると、自然にそういうことが身についてきます。誰かの様子をみてつらいだろうなとか、寂しいだろうなとか思いやることが出来るのです。思いをそっちへ寄せることが出来るのです。これが演劇体験の持っている非常に大事な教育的な意味の一つだと思います。
それからもう一つは、舞台の上でとんでもないこと、みっともないことをやっていると、観客はあんなみっともないことをしているというように突き放して観ます。異化して観ながら、つまり自分の身とひき比べたりするわけです。
こういうふうに同化と異化という二つの全く性質の違う体験を、実は子どもは同時に併行してやっているわけです。この同化体験、異化体験が学校教育ではほとんどする場がありません。家庭ではもちろんの事です。極端にいえば子どもが絵本や物語や小説を読むという中、それから舞台でお芝居、その人生を観る時しかありません。ですから非常に貴重な時間だと思います。わざわざ劇場まで足を運んでお金を払って、そしてある時間拘束されて、しんどいなということはあろうかと思うのですが、それは金銭に変えられないことです。また普段では絶対に得ることの出来ない時間であり場なのです。
（引用終わり）
目の前で繰り広げられるお芝居の世界を、目を輝かせて食い入るように見つめる子どもたちの心の中で、このような変化がおこっていることを、私たちはもっと多くの大人の人たちに知ってもらいたいのです。
登場人物に自分を投影しているからこそ、はらはらどきどきし、また登場人物を客観的に見ることで、日常では知りえない自分自身の姿を客観的に見ることができる。
このように、子どもたちにとって、劇を見るということは、娯楽という価値観では計り知れない大きな力を持っているのです。
子どもたちが健やかに育つために、たくさんの栄養が必要なのと同じくらい、豊かな芸術体験は大きな意味を持っています。
だからこそ、他の活動と比較したときに、数倍いや数10倍の経費が必要な鑑賞事業に取り組んでいるのです。
【我が子だけでいいのか？】
私が、この活動に参加したきっかけは、当時まだ幼稚園児だった長女を頭に3人の子どもたちが、心豊かに育ってくれたら良いな…という母親としての単純な動機でした。もちろん自分自身が子どもの頃に学校での演劇鑑賞だけでなく、母親が様々な機会に与えてくれた観劇やコンサートが自分自身の心の成長に大きな影響を及ぼしていると感じていたからでもあります。
けれども、我が子だけが心豊かに成長すればそれで良いのでしょうか？
言い換えれば、我が子だけが心豊かに成長するということはあり得ないのではないでしょうか？
すべての子どもたちが心豊かに育って、はじめて、我が子の心の成長があるのだということに気付いたのです。
そして、それが、私たちの活動の原点でもあるのです。
もちろん、すべての子どもたち…というのは不可能かもしれません。けれども、私たちはその不可能なことを目的に掲げて活動を推進しているのです。
夢のような話といわれるかもしれませんが、その夢を実現したいと思うからこそ、事務局を含め、すべての委員がボランティアで、日々の活動を行っているのです。
そんな委員のみなさんにとって一番嬉しいのは
たくさんの子どもたちやお母さん、お父さんの笑顔が会場一杯にあふれること、ただそれだけです。
しかし、現実は、4月の「かまきりと月」9月に実施した「ちいさくなったパパ」は目標動員数をはるかに下回り、予算より大幅な赤字を生み出してしまうという結果に終わりました。
実際に鑑賞事業に参加した人たちは、見終わって会場を後にするときには、皆さん口をそろえて「見に来て良かったです！」「とても感動しました！」「また参加したいです！」と声をかけてくれます。でも、その感動が、より広い範囲での会員増や、次の鑑賞事業への動員数につながらないのはなぜでしょう？
【子どもたちの夢】
子どもネットワーク可部の中高生グループ“空”の子どもたちは、よく周りの友達や、活動で出会った大人の人たちに「“空”って何？」という質問を投げかけられるといいます。
映画「学び座」の上映会をきっかけに始まった「南中ソーラン」の取り組み、今年2月に実施した「イラク・湾岸戦争の子どもたち写真展」、昨年に引き続き実施した、南アフリカの子どもたちとの交流事業「地球ハーモニー」、など様々な企画を実施しています。
それらの一つ一つが、メンバーの「やりたい！」の一言から始まっているのです。
言い換えればそれは、普通の生活では実現しそうもない夢を実現するということではないでしょうか？
劣化ウラン弾の問題を取り上げた「イラク・湾岸戦争の子どもたち」写真展を企画するとき、初めに声をあげた中学生のYちゃんが「写真展がやりたいです！でもお金がかかるし…無理ですか？」と私に投げかけてきたので、「無理じゃないよ、仲間に呼びかけてごらん！一緒にやろう！って言ってくれる仲間が5人集まれば絶対実現できると思うよ。」という私の言葉を受けて、彼女はメンバー一人一人に自分の思いをつづった文章でファックスを送ったのです。
その彼女の呼びかけに、メンバーが答えてくれて、写真展は大成功に終わりました。
もちろん、大人のサポーターは、その企画を具体化するために、収支の計算や、会場確保、資金調達などの相談にのりながら、「大人が実施するのではなく、君たち（中高生）がこの企画を実施することの意味をきちんと考えてごらん。」と投げかけ、彼らは、事前の取り組みとして、劣化ウラン弾やイラクの戦争について学習を重ね、「劣化ウラン弾講座」という掲示資料を作成し、その資料やイラクの子どもたちを支援しよう！という目的ではじめたカンパ活動も新聞にも取り上げられ大きな反響を呼ぶ結果になりました。
もちろん、関わった子どもたちは多くの出会いの中で、大きな達成感を味わうことができました。
一人の「やりたい！」から始まった企画を、みんなでその夢を共有し実現していく…だから、私は子どもたちに「“空”は夢をかなえる場所なんじゃない？」と投げ返しています。
【夢をかなえるために】
振り返って、私たち大人はどうなのでしょうか？
委員だけでなく、実際に活動を推進していくすべての正会員、活動会員と、その夢を共有できているのでしょうか？
一人でも多くの子どもたちの笑顔で会場を一杯にしたい！
その笑顔を見ることで、お母さんやお父さんたちにも幸せになって欲しい！
その夢を実現するために、どれだけの人に夢を語っていけるか・・・
このことが、これからの私たちの活動を推進していく上でとても大きな意味をもつのではないかと思います。
時代が変わり、生まれたときからビデオやゲームが当たり前のように身の回りにあった今の若いお母さんたちの世代とは確実に、物の見方や価値観は変わってきているのかもしれません。
確かに、現実はとても厳しいものがあります。
けれども、いつの時代でも、子どもたちの笑顔は大人にとって最高の宝物だと思うのです。
だからこそ、私たちの先輩がそうであったように、きっと夢を共有し、それを繋いでいってくれる人がいるはずだということを信じながら、語り続けなければならないと思うのです。
子どもたちのはじける笑顔を見たい！
そんな夢を共有し、実現していく仲間を増やしていくために
委員長
