終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2007年10月25日(木)

どんな朝もどんな夜も悪を消さない。

 エンデュアランス・クレーターを眺め渡すと、むき出しになった荒々しい岩の露頭の隙間に、なにか小さな生き物が走ってゆくのが見えた。長い後脚とピンととがった大きな耳、三角形の鼻先からして、トビネズミの一種だろうと思えた。わたしはかれのあとを追ってクレーターの内部を降りることにした。厳しい斜面を避けて少し回り込むと、ゆるい傾斜の砂地が底まで続いているところに出た。わたしはゆっくりと降り始め、ややあってふと顔をあげると、岩間からさっきの生き物がこちらをうかがっているのが見えた。
 わたしのあいさつに、明るい緑色と白の市松模様をしたトビネズミはちょっと小首をかしげ、考え込むようだったが、やがて挨拶を返してきた。
 かれはわたしを見るなり逃げようとした不作法をわびて、このあたりをうろついて彼らをつけ狙っている青い縦縞のピューマではないかと思ったからだと、大きな目をせわしなく瞬きしいしい言い訳した。
 わたしは少しも気にしていないという証拠に頭をひとつ下げて、腰を下ろして少し話をしませんかと提案し、トビネズミは快く応じた。わたしはポケットから昼食の残りのチーズを差し出し、かれと分け合った。
 チーズを気に入ったかれは、げっ歯類特有のあのせわしない、かん高い声でいろいろなことを話してくれた。自分のこと、両親や数多い兄弟のこと、叔母や叔父、さらに数多いいとこたちのこと。そのうちのいくらかは「あの忌々しい青い縦縞の」ピューマに食べられたのだった。かれは話しながらオイオイと泣き始めた。


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