- 2007年09月26日(水) ひどく細った。もとより筋骨たくましいとは言えなかった祐介の体が、病みやつれたように痩せているのを、西園寺はいたましいような思いとともに眺めた。月光のなかで驚き一色に塗られているその顔からは、以前の快活な様子は跡を絶ち、思い詰めたような堪え忍ぶような、どこか暗いところに一直線に落ちていくよりほかない運命を諦めとともに肯ったような寂しい色が掃かれていた。 「ご無沙汰…いたしておりやす」 襦袢の前をかきあわせてツ、と頭を下げる祐介を見下ろして、なおも西園寺はかけるべき言葉を見つけることはできなかった。ひどく悲しげな横顔を見ても、逃げるように立ち去るその後ろ姿を見送ってさえ。 最初に気に留めたのは三味線のばちを使うその指だった。芸妓の膝に寝転がりながら、男のくせにえらく整った手指をしているものだと思い、顔を上げて見て、その手指のわりには地味な顔だと思った。 「あの三味線は?」 「最近お店に入ったンでござんす。梅さんの口利きで」 「ヘェ」 三味線で座敷に上がったくせに、軽口も叩けば当意即妙の受け答えもする。しまいの頃は半ば幇間のような扱いで呼んでいた。お座敷遊びを重ねるうちに、いつとはなく口をきくようになり、そのうち芸者の黄色い歓声を楽しむようにしなだれかかるふりまでした。ふりのはずが本気になったのがいつ頃のことだったかは覚えていない。 「俺が本気だってのがわからねえか?」 「旦那の本気ァ、きれいどころに取っておいででしょう。三十路の男をからかって何が楽しいんで」 そんなやりとりばかりのはずがある夜、言い過ぎたのかあるいは何か思うところがあったのか、大騒ぎのお開きになったあと。 「こいつァねェ、酒の上でのことですよ。アタシも旦那も、酔いが醒めたらね、すっぱりね、こんなこたァね、忘れてしまうんですよ」 そんな妙な前置きのあと、ひどく小さな声が耳元で囁いた。 「とっくに、旦那、とっくに惚れてますよゥ」 それで血が上った。あたりに誰がいるのかも確かめずに奥に連れ込んで、そのまま抱いた。ずいぶん乱暴だったはずが、痛いと言わず苦しいとも言わず、熱い熱いとうわごとのようにくり返す声がいまも耳に残る。 だが当然のようにそれきり祐介は消息を絶ち、バカ騒ぎにどこか空々しさを感じるようになって西園寺も花街から足が遠ざかった。ふとした拍子に、新橋界隈の陰間専門の茶屋に、似た男がいると聞いたのはつい先頃だ。 だが信じていたわけではない。半信半疑のうちにふらりと足を運び、それらしい陰間は見あたらず、だが帰るとも言い出しかねて止まった。あてがわれた稚児を相手に世間話をひとくさりするうちに夜も更け、ふと立ってみればそこにいた。その顔を見るまで信じてはいなかった。 「…いったい…どうなってンだ」 西園寺は呆然として呟き、そのとき鶏鳴が夜明けの近いことを告げた。 -
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