終わらざる日々...太郎飴

 

 

- 2007年09月14日(金)

「パパねえ、浮気していたことあるのよ」
 母から打ち明けられてひどく驚いた。なるほど単身赴任ばかり繰り返していた父だ、浮気くらいはしていたことがあるだろう、と、急いで合点はしてみたが、それにしても寝耳に水だったことは変わりがない。
「それ、いつの話?」
「…を妊娠してたとき」
 母は弟の名前を挙げた。ざっと23年前。もう時効だろうか。母の目を見ると、別段恨みがましさもなかったから、こっそりと胸をなで下ろした。
「でも、なんでわかったの?」
「いちど戻ってきて、また単身赴任先に出るときに、写真のネガを落としていったのよ。馬鹿でしょう? 現像してみたら、若い女の子と2人で写ってたわ。どう見ても2人きりの旅先でね」
「それで?」
 思わず知らず、私の背中に冷や汗が流れた。しかし考えてみれば弟はきちんと生まれ、父も母もまがりなりにまだ夫婦をやっているのだ。破局に至ったはずはない。父が謝ったか、母が許したか…
「電話で問いつめたわよ。どこの誰なのって。でもねえ、パパ、しらを切るのよ。写真があるのに、知らない知らないってね」
「へえ」
「ばかばかしくなって電話切ったわよ。で、そのうち出産は迫るし、あんたたちは小さいし…」
「それっきり?」
 まさか、という思いで思わず声を上げた。母は嫌な顔をしてアイスコーヒーの残りの入ったグラスを引き寄せた。
「それっきりね」
 夫婦というのはそういうものか、という疑問が私のうちに渦巻いていた。いや、正確にいうとそうではない。私の両親という夫婦とはそういうものだったのか、という疑問だった。慨嘆といってもいい。必ずしも理想的な夫婦の間に生まれたなどという選民意識はなかったが、それでも離ればなれになりつつ互いを裏切らなかった父と母、というものを私がある種、幸いに思っていなかったといえば嘘になるからだ。
 しかしこういうふうにもとれないだろうか。父がよしんば浮気を認めたら、母は別れずにはいられなかっただろうし、そうしたら父も母もただ不幸になっただろう。だから父は認めないことで家族を守った、と。もっともそれは、父にあまりに都合良すぎる解釈だが。しかし母もまた父が認めないことを心の底では願っていただろうからそれでいいのかもしれない。
 まったく、夫婦というものは、と私は思った。小説で読むようなわけにはいかない。


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