- 2007年09月02日(日) 蒼惶として公子は立ち上がり、窓辺に向けて数歩歩み、すぐと復り、わたしの方に落ち着かない眼差しを投げた。そのさまは天壇にて雨を呼び諸神を使わしめた巫の王とも見えず痛々しく、見る目を思わず背けさせるものがあった。 「わからぬのだ、予にはわからぬ」 公子は言った。その声さえ没落の気配は深かった。わたしは黙って円座に居て、公子を見ていた。その手は握られて、震えてさえいた。 「扉がひとつひとつ閉じられ、灯火がひとつひとつ消されてゆくようだ。この目が盲いていくようだ。音が失われてゆくようだ。神々の業を伝うる絵板は古代に少しも変わらず、だがその意味が失せてゆく。昨日までわかっていたことがわからなくなってゆくのだ。予は恐ろしい」 最後の言葉は刃物のように中空に閃いた。半ば神のごとき人が恐れている。天地の自在に揺るがす人が恐れているのだ、この目の前で。 「予は恐ろしい。天が閉じてゆく。地が黙してゆく。もはや絵は絵にすぎぬ。神々は死んでゆき、人倫の定めが崩れて行く。いったい何が起ころうとしているのか予にはわからぬ。占いの火ですら語ってはくれぬ」 -
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